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呪術師と迷い人は異世界で再会する  作者: Y.A.&H.S.
第5章 悲しい夢は誰が見る
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第43.5話 累計50話達成記念〜the story of another view・犠牲のトパーズsideバロン〜


白桜歴4866年 中水月 17日


今日はレイちゃんと対戦した。結果は完敗。


「なっさけねー」


確かに付与と呪術では呪術の方が有利だ。それは覆らない。でも、負けるのは嫌だ。好きな人に負けるのはダメだ。

でも、慰めて貰えるならそれでもいいかな♪

そんな事を考えていると、レイちゃんがいた。


「おっつかれ〜〜」


明るく、軽い声を意識して出す。これぐらい軽くしないと、僕の心が保たない。


「お疲れ様にございます、バルシオン様。先程は、「あーあー、そんな堅っ苦しい言葉遣いしないで。それが嫌で逃げて来たんだ」


ちぇっ、駄目か。近年は、この口調で挨拶しておわりなんだよね。

でも、どうせ振られるんなら今のうちに振られた方が楽なのかな。冗談だと思われてるうちにね。


「どこに誰の目があるか分からないんだからさっきの方が良いと思うんだけど?」

「別に家族ぐるみでの付き合いがあるなんてちゃんと情報収集してる人なら知ってるから大丈夫だよ」


どうせ、君は受け入れないんだろうけど、一回だけ本気だと思われないとしても、伝えたいんだよね。


「ねぇねぇ、君が良かったらなんだけど、僕のとこに嫁に来て欲しいんだ」


あっ、この顔は


(は?何言ってんの、いつもなら情報交換だけでしょうが。面倒くさいことになりそうね)


って思ってるな。今言ったところで耳に入ってないだろうけど……


「僕のところもさ、そろそろ娶れってうるさい訳。流石に来年26で結婚適齢期終わるのに妻がいないとなると、周囲からの目が面倒くさいんだよね。で、君もあと数ヶ月で21歳だろ。親同士も仲良いし、気が知れてる。強い力の血を入れるって事で通せるし、僕自身も君を気になってたしね。返事はいつでもいいけど早めによろしくね。

……まっ、返事は無くても良いけど。むしろ、そっちの方が幸せなのかな?」


多分、最後に言った言葉は聞こえてないだろうけど、それで良いよ。


◆◆◆



下地月 25日


ようやく、レリエルが覚悟を決めたらしい。


遅いだなんて言えない。僕もレイちゃんに負けて、グダグタ悩んで、下風月になってようやく吹っ切れたんだから。


それからは火消しも種まきも大変だったけど、魔族化しやすくなる薬も作れたから神月のパーティーのどこかで盛れればいい。神月に起きたというだけで懲罰のレベルは一気に上がるから、魔族化まで行かなくてもかなりのダメージが入るだろう。


ったく、僕もレイジナには弱いな。


惚れた弱みだ。彼女の『たからもの』の身代わりくらいどうって事もない。…身代わりでも彼女の『たからもの』になれたらそれこそ天にも昇る心地なのだろうな。


僕が本物になることは無いだろうから想像の範疇でしか無いのは残念だ。


◆◆◆



白桜歴4867年0日


教会で行われる結婚式。


花嫁はレイジナ。レスコートは僕…だけど、僕と君の結婚式では無い。


分かってる。でも、悔しい。


下唇を噛み締め、彼女を待つ。


シンプルなAラインのウェディングドレスに身を包んだ天使がやってきた。


なんの装飾のないシンプルすぎるドレスだが、だからこそ彼女の美しさが際立つ。


「よろしくね、バロン」

「畏まりました、Mrs.アトラス」


ガラスの共鳴のような高くて凛と響く声は外向きの彼女。鈴が転がるような声は僕には聞かせてくれない。


その『宝物』は彼のもの。


「まだ、早いわ。あと1時間後にそう呼んでちょうだいね」

「わかったよ、Ms.カーベイン」


◆◆◆



やっぱり、エスコートを交代するのはキツかった。泣くまいと思っていたけど、やっぱり耐えられなかった。


後ろ姿でもわかるくらい幸せそうなレイちゃんの顔が向けられるのは、ぽっと出のヒュー…いや、孤児院からだから僕よりも前なのかな。最後まで彼はどこの誰だか判明しなかったけど、負けは負けだから諦めるよ。


「はい、結婚祝い」


【縮小】していた青薔薇の花束をレイちゃんに差し出した。レイちゃんはおずおずとだが花束を受け取ってくれた。


「花嫁を引き立たせたいのならブーケが必要だよ。青薔薇の花言葉は神の祝福、奇跡、夢叶う。君たちにぴったりだろ」


僕は瞳を閉じ、大きく息を吸った。開かれた瞳に感情はもう見えないと思いたいが、痛々しく笑っているのだろう。


「正義には、犠牲が必要だ。君たちは犠牲になるには勿体ない。僕みたいな悪役の方がよっぽどお似合いさ。精々、素敵な結婚式の花束(正義の犠牲)になってみせましょう。

Mr.アトラス、レイジナをよろしくね」


レイちゃんは泣きそうな顔で微笑んでいる僕を一瞥すると、大きなため息を吐いた。


「貴方に頼まれなくても、ヒュージは幸せにしてくれるし、私はそう簡単にやられないわ。

いちおう聞くけど、このバラは何本あるの?」

「101本だよ」

「本数が持つ意味分かってやってる?花嫁に送るにはおかしいと思うわよ。気障ったらしい男ほど花言葉で贈りたがるけど、自重したらどうなのかしら?『神の祝福』、『奇跡』はまだましだけど、『夢叶う』は貴方の夢が叶うように願っているようにも感じるわ。まあ、赤じゃなくて青だからまだましかしら。だって青はヒュージの色だものね」


最後だけ彼に向かって言った。まるで見せつけるかのように微笑んでいるレイちゃんを見るのはきついけど、確信できた。


もう僕はいらないね。

僕は安心したような、悲しんでいるような複雑な表情をしているのだろう。どうか、これからの不幸の分も幸せに生きて欲しい。

握り締めた手の中の指輪には4つ目のトパーズが嵌められている。


僕が握り締める指輪には4つ目のトパーズが嵌められている。


ブルートパーズ()アクアマリン(ヒュージ)代用品(身代わり)。魔導処理で深い青になるしかアクアマリンより価値が高くなる方法はない。でも、自分を偽らなければならないなら、僕は(バロン)のままでいる。僕は僕を偽りたく無い。魔導処理(演技)はもうしない」



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