第4話 第一村人発見
俺は森の出口を探しながら設定を考えていた。だが1つ……いや2つ3つ問題があった。俺が平民なのか上流階級の人間なのかだ。
もし、平民にしては良い服なら、上流階級の人間で魔物なりなんなりに襲われたことにすればなんとかなるだろう。平民らしい服なら捨て子になって森を歩いていたらここに着いた事にすれば良い。その判断がつかないのに誰かのフリをするのは得策とは言えない。
もし、その判断を間違えたなら、魔族として殺されるのは目に見えている。
そして、魔導の使い方がわからない。つまり、身分証を作る事が出来ない。身近な問題でいうなら、衣食住が困難なのだ。魔導社会で魔導が使えないのは致命的だ……
魔導が教えてくれる人が居なかった為使えない事にする事も考えたが、無属性は誰でも使えると書いていたから無駄だろう。
いきなり、『此処はどこですか?』なんて聞いたら、魔族の象徴も相まって不審者コース真っしぐらだ。設定を決めるまでは誰にも会わない方がいいだろう。
◆◆◆
しばらく歩き続け、森を抜ける頃にはある程度の設定は決めていた。
平民としてなら、黒髪黒眼を恐れられて魔封じの呪いをかけられ、捨てられた。それぐらいが妥当だろう。
上流階級なら、魔導を習う為に山向こうの叔父叔母夫婦の家に行く途中に襲われた事にする。
農作業をする人を遠くから見て、この服が良いものだったら上流階級の人間で、同じくらいの服だったら平民にする。奴隷がこのレベルの服を着させて貰えているとは考えにくく、農作業をしているのなら平民のはずだからだ。
◆◆◆
森を抜けて数分歩くと村が見えた。その外には畑があり、人の姿も見えた。第1村人発見。
服は、裁縫が雑で生地も良いものには見えない。商人の息子として話し掛ける。
「農作業中すみません。此処はレイリー村ですか?」
これが秘策『道間違えたようなので今日泊めてください』作戦だ。レイリーは、頭に浮かんだ名前を出しただけなので、当たってない方がありがたい。そんな事を考えてると、第1村人が叫んだ。
「魔族だーー! 全員逃げろー‼︎」
えっ⁉︎ いきなり逃げるの? 人間とは疑わないの? 商人の息子でいこうとしたら、魔族認定された。理不尽ナウ。ここまでとは予想していなかった。呆気に取られていると、水球が飛んできた。一番使う人が多いのだから、まぁ追い出す為に打つのは一般的(と言ってもいいのかは謎)だ。
火球でないだけマシか。仕方ない、火球で服ごと燃やされないうちに逃げよう。
◆◆◆
他の村でも同じ様な扱いを受け、村に入る前に逃げ出す為、碌に何も食べていない。
生まれて初めて自分の容姿を怨んだ。玲もこんな気持ちだったのかな? やっぱりこれはまだ、罰の続きなんだ。
腹も空いたが、日本生まれ日本育ちの男子高校生は、野草の知識なんてないし、生き物を仕留めるなんて不可能。このまま死ぬのは嫌だけど、玲に会っても許して貰えるか分からない。そもそも、俺と分かってくれるかも分からない。なら、別にここで死んでもいいじゃないか。
最後の願いは叶わなかった。
ここには罰として連れて来られた。
玲には会えない。
それで良いじゃないか。
『松川 玲』は俺たちから解放されて自由に生きてるんだ。
玲はもう幸せに、自由に、誰にも縛られることなく、『アゲイルの住民』として生きて欲しい。
瞼が重い。昔の事を思い出す。走馬灯が瞼の裏を駆け抜け玲との思い出をひとつひとつなぞっていく。
初めて会ったあの日、君と友達になった。
初めてのお泊り会、君と『しゅうちゃん』で一緒にご飯を食べた。
初めてイジメを見た時、君の顔を見て見ぬフリをした。君の顔を見て、あんなに苦しい思いをしたのは初めてだった。
修学旅行で、君は同じ班になっていた『秀司君』と一緒に訪問する順序を考えた。
初めて一緒に見に行った、小学校最後の花火大会。君が『しゅう君』に打ち明けた、誰にも見せなかった心と涙。
まだまだ幼い顔の『僕』が立ち上がる。
「もっと周りを頼れ。
僕が玲を守りたいのは君が、『大事』 だからだ! 君を必要な人は何人もいるんだよ。君の眼が見えても、みえなくても側にいたいと思ってるよ。
僕は『玲に頼られたいと思う事に変わらないし、玲を守りたい』と思ってる。だから頼ってくれ。
僕は君を守る為なら、1%でも可能性があるのなら、どんな事してでも、君のところに行って、君の側にいて、君を守る。約束するよ。」
あの日の約束が
玲との約束が残ってるから
『俺』はまた、約束を破りたくない。
やっぱり、まだ死にたくない……