第36話 処刑台に登る前
神月 3日
国王から5日後の王家主催の新賀会の招待状が届いた。0日に行われる聖夜会は王家・公爵家・侯爵家のみで行われるが、新賀会は男爵以上の上流階級の家主全員が招待される。因みに、正妻のみ同伴可能。
欠席は可能となっているが、『ラシエル・ハディット・アミー・アゲンルア・ガブリエル』という署名があるので不可能だ。
(説明するとしたら、『ガブリエル』という尊称まで入れられているのに欠席しようものなら10頭親以内の人間で成人しているものは全員刑に処される。欠席するとしたら他国の王ぐらいしかできないだろう)
レイは今回まで国家呪術魔導師主席として招待される。来年からは『国家呪術魔導師主席』より『アトラス男爵夫人』としての立ち回りが重要視されるので、『家臣(仮)』に過ぎない『国家呪術魔導師主席』としての招待はない。『国家呪術魔導師主席』としての立場は、俺が適当な理由さえつければどうとでもなるらしい。
「今回の新賀会を乗り越えれば、何とかなる」
とカルミーア、もといカルーさんが言っていたので、何としてでも『レイ』を守る。
◆◆◆
神月 7日
披露宴でレイに着せていたマーメイドドレスをプリンセスドレスにリメイクしていたのだが、前日まで掛かってしまった。上半身はそのまま。サッシュベルトのチェーンを金から銀に変え、ダイヤはピンクダイヤとカラーレスダイヤだけにした。
スカート部分は一枚の布上でのグラデーションから薄い布を重ねることでのグラデーションにした。一番下の布は金、そこから銀、白、淡い水色、水色、薄い青、蒼と一枚ごとに色がだんだん変わっていき、蒼の布はサッシュベルトとグラデーションが続いているように馴染んでいる。
金の布はくるぶしまで包み込んでいて、アンクレットに使っていたエメラルドを中心にした雪の結晶のアイレット・レースがチラリと見える。
銀の布は膝下まで伸び、薔薇の花と蔓の刺繍のチュール・レースが残されている。上に銀を覆い隠すように、包み込むように重ねられたシルクによって雪を被っているようにも見える。
残りの3枚の布には手袋に使っていたチュールレースを貼り、裾には小さな花を形どったバテンレースをあしらった。
濃い色の布地によって浮き上がる花が繊細さと美しさを醸しだしているのに対し、バテンレースをかがる糸がレースを雪の結晶のようにも見せる為、柔らかさと可愛らしさがアクセントとなり、上品で美しく纏める。
「誰もリメイクだなんて、気づかなそうだな」
◆◆◆
神月 8日
黒と青のドレスローブに身を包み、隣の部屋にいるレイに声を掛ける。
「レイ、もう着替え終わった?そろそろ出ないと間に合わ……」
出て来たレイに目を奪われた。雪景色を身に纏った聖霊女王としか例えようがない程美しい。
「変……だよね。やっぱりこういう服……似合わないよね」
そんな事を口にするレイにフォローの言葉を言う余裕も無く、ただただ見惚れていた。
「シルプルな服に着替えた方が良いよね」
部屋に戻ろうと後ろを振り返ったためにハーフアップの髪が揺れる。その様が妙に艶めかしい。フワリと香る花の匂いが俺の意識を夢現にする。
銀のチェーンとダイヤが揺れ、凛とした音が響いては布ずれの音にかき消される。キィーという耳障りなドアを閉める音で現実に戻り、さっと部屋に入り手を握る。
「離して、シュウちゃん」
絹糸のようにか細く鈴が転がるような声で、顔を俯かせながら頼まれる。けれどその頼みは聞けない。例え、普段なら顔を林檎より赤くして、【石化】よりも固まってしまうぐらい破壊力がある姿でもね。
「待ってよ。このドレスを着てもらって良かったって凄く嬉しいんだ」
軽く手を引いて右手をレイのお腹の方に回す。握っていた左手を離し、顎のラインに沿わせる。低く、甘い声は意識する必要もなく出た。
「でもね、俺以外見んなよって言いたいけど、俺のレイだって見せつけたいっても思ってさ、ちょっとだけ迷ってた」
顔を上げさせ目を合わせる。不安に揺れる目はもう無い。唾を飲み込むその様子が伝わって来た。もう、我慢できない。
レイの瞼にキスを落とす。
月のように柔らかい光を灯して
星のようにきらきらしてる瞳を
優しく覆うその瞼に。
レイの頬にキスを落とす。
おもちのように柔らかくて
シルクのように艶やかで
甘く綺麗なその頬に。
レイの首筋にキスを落とす。
雪のように真っ白で
銀のチェーンより輝いて
スラリと伸びるその首筋に。
レイの喉にキスを落とす。
ガラスのように空き通って
薔薇のように綺麗で
フワリとしていて気持ちいい
愛おしくて不思議な声を出すその喉に。
レイの唇にキスを落とす。
砂糖のように甘くて
桜のようにわずかに色づいた
花びらのように柔らかいその唇に。
何度も何度も甘い甘いキスを落とした。




