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呪術師と迷い人は異世界で再会する  作者: Y.A.&H.S.
第4章 再会した2人は幸せになれますか
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第32話 披露宴の騒動

 

 披露宴が始まって最初に挨拶を交わすのは、もちろんミーシャ・カーベインさんだ。ほんわかとした雰囲気の中に隠した鋭いオーラは現役を引退した筈の今でも衰えていない。


 クリーム色のブラウスに薄い黄緑のニットのカーディガンを羽織っている。ふくらはぎの3分の2まで覆うスカートはパステルカラーのオレンジで、全体を柔らかい色でまとめたカーベインさんは普段から優しい印象を与えるがそれが更に強くなっている。


「レイもステキな花嫁さんになったわね。綺麗なアイオライトとアクアマリンまで着けさせてもらっちゃって。ふふっ。ほんと、長生きしてて良かったわ」


 例えるならば、一年ぶりに里帰りした際にひいおばあちゃんが小さい妹を可愛がっている時のようなカーベインさんは、とても満足そうな表情で、ニコニコとしていた。


 ただ、ニコニコとしながらも俺を睨んでいて、カーベインさんに怨まれることあったっけなー、と現実逃避していた。


「ヒュージさん。レイジナを宜しく頼みますね」

「えっ、あっ、は、はい」


 いきなり話しかけられた、いや、現実逃避でうわの空になってたせいで、キョドッてしまった。クスクスと笑いながら、ゼルク様に話し掛けに行った。


 ぼけっとしてると、ぽんっと肩を叩かれた。後ろを振り返ろうとすると、頬に何かが刺さった。溜息を吐き、肩に置かれたままの手を外す。頬に刺さっていた指は案外楽に離れる。そのまま振り返るとバルシオン様が悪戯っ子の笑みを浮かべていた。


「ご機嫌よう、Mr.アトラス」

「バルシオン・クリス・ハルマキア様のご機嫌はよろしいようで何よりです」


 爽やかに見えるように心がけて微笑む。尚も悪戯っ子の笑みを浮かべるバルシオン様は、こちらの嫌みを軽くスルーしていた。


「レイを捕まえるなんてやるねぇ。僕のものにならなかったのはレイぐらいなんだよ?」


 楽しそうに笑ってはいるが、悲しそうな表情は隠しきれていない。辛そうなその表情は何を思い出しているのだろうか。


「はい、結婚祝い」


 どこから取り出したのかバルシオン様は青薔薇の花束をレイに差し出した。レイをおずおずと手を伸ばして花束を受け取った。


「花嫁を引き立たせたいのならブーケが必要だよ。青薔薇の花言葉は神の祝福、奇跡、夢叶う。君たちにぴったりだろ」


 バルシオン様は瞳を閉じ、大きく息を吸った。開かれた瞳に感情はもう見えず、痛々しく笑っている。


「正義には、犠牲が必要だ。君たちは犠牲になるには勿体ない。僕みたいな悪役の方がよっぽどお似合いさ。精々、素敵な結婚式の花束(正義の犠牲)になってみせましょう。

 Mr.アトラス、レイジナをよろしくね」


 レイは泣きそうな顔で微笑んでいるバルシオン様を一瞥すると、大きなため息を吐いた。


「貴方に頼まれなくても、ヒュージは幸せにしてくれるし、私はそう簡単にやられないわ。

 いちおう聞くけど、このバラは何本あるの?」

「101本だよ」

「本数が持つ意味分かってやってる?花嫁に送るにはおかしいと思うわよ。気障ったらしい男ほど花言葉で贈りたがるけど、自重したらどうなのかしら?『神の祝福』、『奇跡』はまだましだけど、『夢叶う』は貴方の夢が叶うように願っているようにも感じるわ。まあ、赤じゃなくて青だからまだましかしら。だってヒュージの色だものね」


 最後だけ俺に向かって微笑み掛けていたが、ちょっと怖いよ。

 レイはまるで見せつけるかのように微笑んでいた。それを見たバルシオン様は安心したような、悲しんでいるような複雑な表情をして去っていった。


 離れていく背中は俺より大きいはずなのに、どこか小さくて、弱々しかった。


 ◆◆◆


 挨拶も粗方終わって、あとは誰に挨拶してないか数えていると、


「あとは、ミーアお姉ちゃんとカルーさんだよ。カルミーアさんは欠席」


 察してくれたレイが教えてくれた。


「でも2人ともどこにいるか、分かんないんだけど」

「ごめんね。存在感が空気並みで」


 カルーさんの声が聞こえたがカルーさんは欠席の為いないはずだ。まだ、挨拶していない人の中で男性なのはカルーさんだけのはずだ。バッとうしろを振り向き、挨拶する。


「すみません!カル「ミーアお姉ちゃん!やっときてくれたね!」


 レイと声が重なる。ミーアさんもいたらしくそちらにも挨拶すべきだとは思うが、かき消されたとはいえ、挨拶の途中で抜ける方がよっぽど失礼なので、手早く終わらせようとした。


「情報は十分に手に入りましたか、カルーさん」

「まぁね」

「カルーさん?」


 レイが不思議そうな声をあげたので、レイがいる右側を見やると、レイはミーアさんと話している筈なのに体をカルーさんの方に向けていて、首だけをこちらに向けハテナマークを飛ばしまくっていた。

 前を見ても、カルーさんしかいない。


「カルーさんはどこにいるの?」

「……ミーアさんはどこにいるの?」


 2人ともキョトンとして、独り言というより零すように同時に同じ発言をしたが、俺にはカルーさんが目の前にいるようにしか見えない。


 あれ?カルーさんとミーアさんの名前が被ったせいで、別な名前に聞こえた気がしたんだが……


 カルー、ミーア


 カル、ミーア


 カルミーア!


「「カルミーアさん?!」」


 どうやらレイも同じ答えにたどり着いたらしく、同時に叫んでしまった。ハッ、と周りを見渡すが誰も気にしていない。


「【認識阻害】の魔導を掛けてあるから気にしないでもいいよ」


 どうりで。幾ら何でも主役2人が騒いだのに誰も何も反応しないのはあり得ない。というか、いつのまにか掛けたんだ。


「ミーア……お姉……ちゃん……だよ……ね?」


 レイがカタコトになってる。まぁ、女性だと思って慕ってたのに男だって知ったらこうなるよな。


「うーん、もう誤魔化してもしょうがないよね」

「えっ、ミーアお姉ちゃんが消えた」


 変身でもしていたのかレイの目にはミーアさんが映っていたようだ。


「私はカルミーア・サリバンであり、受付嬢・ミーアであり、情報屋・カルーであり、レイジナ・マレ・ディアナ・アトラスの又従兄だ」

「「えっと……あの、どういうことなんですか?」」


 雷が落ちたとしても、この時の衝撃よりは弱いだろうと思った。



 

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