第31話 2人目のアトラス
遂に結婚式が始まる。バージンロードの中程で待っていると、ゆっくりと正面の扉が開かれ、シルクでできたAラインのウェディングドレスに身を包んだレイがバルシオン様にエスコートされて入場してきた。
こちらの世界でも父親がエスコートするのが普通なのだが、ミーシャ・カーベインは結婚してないので、バルシオン様が代役だ。
レイが組んでいた腕を離したところで、左手を差し出す。レイはヴェール越しでもわかる笑顔を浮かべると、花束を片手に持ち替え、右手をのせた。
仄かに漂う花の香りと柔らかく暖かい手に無意識のうちに顔がほころぶ。腕を組んで、神父様の前までゆっくりと歩く。
こちらの世界の結婚式はキリスト教式の結婚式とほぼ同じで、違いを挙げるとしたら、架刑に処されたキリストの像が六芒星の真ん中に三日月型の水晶が嵌め込められたオブジェになっていることぐらいだろうか。
「神々の御前にて誓いたまえ。汝、いかなる時も互いに愛し、いかなる時も愛する者の為にその血を流す覚悟はあるか。その心、嘘偽り無ければ、心の臓を捧げる覚悟あれば、誓いたまえ」
神父様が読み上げると、俺とレイは同時に誓う
「我、ヒュージ・オファニエル・フォン・アトラスの名のもとに誓う」
「我、レイジナ・マレ・ディアナの名のもとに誓う」
「「我らは、我が名と神々の名のもとに、永遠に愛し合うを誓う」」
神父様が例のオブジェの手のひらサイズver.がついた杖を振ると、小さな光が降り注いだ。
「その言の葉を破りし時、汝らは、永遠の業を背負うであろう」
ふわふわと降り注いでいた光が一つの大きな光球になり、俺たちを包み込むと、体の中にしみ込んでいくのが分かった。
この日、彼女は2人目のアトラスの姓を持つ者へ生まれ変わった。
◆◆◆
昼下がりになった頃、レイの化粧直しが終わり披露宴に移った。
青と水色を基調としたマーメイドドレスは、いたるところに宝石とレースがあしらわれている。
右肩から胸は覆い隠すようにクロッシェ・レースがあしらわれていて、左肩からのびる少し濃い水色の生地によく映える。下の水色が透けつつ、双丘にあわせて膨らむレースはレイの豊満なバストを強調している。
心臓の真上には首から細かい目の銀でできたチェーンが伸び、トップに大きなアイオライトをつけ、周りをダイヤモンドで囲むデザインのネックレスチャームが存在を主張している。
アイオライトはハートブリリアントカットで、店にある中で一番おすすめを買ったので、40カラットほどになった。本当はもっと大きな宝石にしたかったが、良いデザインのカットがなかったので断念した。
ダイヤモンドはフレンチカットで、0.1カラットとはいえ32個もあるため、かなり存在感はある。しかし、アイオライトがメインなので、そこまでの主張はしていない。
それぞれ存在を主張しつつもメインを邪魔しないこのネックレスはレイの21歳の誕生日プレゼントなので、奮発して買ったものだ。
腰に巻かれたサッシュベルトは鮮やかな青。色の持つ効果もあり、もともと細い腰がさらに細く見える。サッシュベルトにはピンクを中心に様々なカラーのダイヤモンドが付いた金のチェーンをたゆませながら縫い付けて、優雅な雰囲気を出す。リボンの中心に付けたアクアマリンは50カラットをバケットカットにしたため、青に良く映える。
決めるのに一番時間がかかったサッシュベルトの出来にはとても満足している。
脚を包む空色のスカート部分は下に行くほど色が薄くなり膝上あたりから水色と銀の割合が半々になり、膝からはだんだん銀になる。膝下からは金糸も混じり薔薇の花と蔓の刺繍のチュール・レースになっている。
裾には雪の結晶のアイレット・レース。できる限り細やかなデザインにしたので、とても繊細だ。
銀に近い金のハイヒールはシンプルで優雅なデザインにした。流石に靴に宝石はないが、アンクレットにはドロップのエメラルドが数個ずつある。
肘から先を包む手袋は特にレースをふんだんに使った。右腕は薔薇の、左腕にはモクレンのチュール・レースをあしらい、肘上まであるそれは裾にふわふわのアイレット・レースを何重にも付け、手首はステップカットのエメラルドがぐるりと一周している。
手の甲は小さな花がモチーフのクロッシェ・レース、指と手のひらはシンプルなマクラメ・レースにした。
ウェディングドレスで着飾るのは、自己顕示欲が強いと貶されるため、Aラインのドレスとしか言えないほどシンプルなデザインにした。なので、こちらはたっぷりと思う存分俺の色に染めたのだ。できれば黒に染めたかったが、少々縁起が悪いので諦めた。しかし、青と水色に染まったレイもとても綺麗に仕上がった。
あくまでもシンプルにしたいレイと、着飾らせたい俺とで意見が分かれ、なかなか決まらなかったが、できる限り譲歩し合った結果このようなデザインになった。
お互いの好みに合わせたドレスは何度でも着てもらいたいが、貴族としては認められないことなので、残念だ。




