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呪術師と迷い人は異世界で再会する  作者: Y.A.&H.S.
第4章 再会した2人は幸せになれますか
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第28話 最後の舌戦

 

「Mr.アトラス、これは最後のお願いですわ。我が家を継いで下さいまし」


 お願い口調ではあるが、足を組み、背もたれに深く腰掛けている態度は

『レイに我が家を継がせるけど、家主が女なのは外聞が悪い。お飾りの家主にしてやるからお前が婿に来い』

 とはっきり言っていた。


 これで証拠の【録画】はバッチリだな。少なくても、“平民”が貴族を敬わない事は不敬罪で罰する事が出来る。


 なぜ、『爵位がない』のに騎士爵である俺にこんな態度をとるのかよく分からない。爵位を継がせて準貴族になった前子爵に口調だけは丁寧に話しかけたのとはわけが違う。

 ゼルク様は準貴族なので俺と周りからの評価はどうであれ同じ地位なのだ。

 しかし、Mrs.ヘルマキアは準貴族ですらない。身分が上の者にこの態度をし続けるのは改善の余地なしとして、悪質な犯行扱いされて罪がさらに重くなる。


「準貴族ですらいございませんのに、騎士爵である私にそのような態度をとるように躾をされたかと思うと、彼女が貴女の家で育たなくて良かったとつくづく思います」


 ビクッと体を震わせて、何故知っているとでも言いたげな表情を浮かべている。俺がいつまでも弱みを握ってすらいないのにじっとしている訳ねーよ。


 双獅子を倒した時にギルドマスターが腕の良い情報屋を紹介してくれたのだ。ギルドマスターと同じ翠目にアッシュブラウンの髪を待つカルーさんは俺の望んだ情報をすぐに仕入れてくれた。彼女はレイが婿を迎えない限り貴族にはなれないのだ。


 家は数代前に取り潰され、当時の当主は準貴族に落ちただけでなく次の代からは準貴族にすらなれていない。貴族でありながらレイの家に婿入りしてくれる物好きがいない限り、準貴族に戻ることすらかなり難しくなるのだ。


 ◆◆◆


 俺はようやく掴んだ弱みを使わないというもったいないことをするつもりはない。【録画】した魔道具をチラつかせつつ、適度に【威圧】し、二度と俺たちに干渉しないという念書を書かせた。

 そして、念書に無事【破れない誓約】を掛け、後は返すだけになった時……


「ただい……えっ?」


 レイが帰ってきた。


 3人とも【石化】したかのように固まっている。


 レイとヘルマキアさんはたまたま、淡い水色を基調とした服に、深い青のスカートを履いていて、瞳の色と髪型の少しの違いを除いてしまえば、鏡に写っているかのようにそっくりだった。


「どうして、ここに居るの?」


 最初に声を出したのはレイだった。【威圧】こそしていないものの、怒りによって魔力が溢れ出ている。髪はブワリと浮き上がり、カタカタと花瓶やコップが震えて……いや、割れてしまった。あのグラスってめっちゃ高かったんだけどなぁ。


 鬼も逃げ出すにちがいない、にこりと笑うものの、目は笑っていないその顔は俺の【威圧】なんかと比べようが無い。例えるならば、鬼神だろうか……


 ◆◆◆


 鬼といえば、節分の時に玲が何ヶ月も前のイジメの仕返しをして42人中38人が全く同じ事考えてたって事あったな。俺達が通っていた小学校がある地域は、節分の時期には雪がチラホラ残るぐらいなんだけど、朝晩はもちろん、曇りなら昼でも10°を軽く下回る。


 そんな時期の、みぞれが降り、強風が吹き荒れる日だった。雨漏り対策のバケツを取り替える時に『足を引っ掛けられた」フリをして、バケツ満杯の水をイジメっ子4人組に頭からぶっかけたのだ。結果は4人全員上半身がびしょ濡れ。玲に一番近かったイジメっ子のリーダー格に至っては髪から靴下まで(もちろん下着も)濡れてないところを探す方が難しかった。その隣にいた達也はおろしたばかりの服が濡れて型くずれしてしまったらしく、中学からは達也がイジメの中心になった。


 しかし、秋の終わりに同じことをされたからと言って、かなり寒く、体育着の代わりがなくなる体育が2日連続であった日の翌日で、他の人もいる昼休みに(足を引っ掛けられたせいと言う無実の証人兼イジメに加担している他の人への見せしめ)、先生が隣の教室(直接見られないよう)にいるという全ての条件を満たすこの日の為にバケツ係になってまで、仕返しの機会を虎視眈々と狙っていた玲へのイジメ続行に賛成する者は二桁に届かなかった。いや片手で事足りるほど少なかった。


  因みに、達也以外の3人はインフルエンザにかかり1週間休んだ。また、幼稚園も小学校も皆勤賞だということを自慢にして、雪の日も半袖半パンが基本スタイルの達也でさえ3日寝込み、2週間ほど長袖だったことを考えれば、その日の寒さは推して知るべしだ。


 先生の説教ぐらいはあるだろうと思っていたら、玲が


「4人は『私と違って』〜されてないけど」


 という嫌味を言いまくり、言い訳なので気にしないで下さいと言った上で形だけの謝罪をしたので、先生の怒りが向いたのは4人の方だった。


「『私と違って』というは、お前たちはそれをやったのか」


 先生の事情聴取で自白し、その後こってり絞られたあいつらは少しだけ可哀想だった。


「松川に悪意は無かったのかもしれないが、これは駄目だ。けど、イジメがあることを把握してなかった先生も悪かった。漢字書き取り5枚提出」


 先生が玲に言ったことは3行だけだが、4人の説教は男子が4人がかりで女子を虐めていたこともあり、何行あってもまとめきれないので、割愛しよう。


 ◆◆◆


「しゅう。これは、どういうことかしら?」


 ゾワリ。全身の毛が逆立つのを感じる。【精神強化】しようとするも、魔力が重い。【敵魔導発動妨害】と気づくも、声を出すことも出来ない。諦めて、【精神強化】に使っていた魔力を霧散させる。


 魔力を霧散させれば声を出すことは出来る。【精神強化】は意味もないと、最初から分かってはいる。いるけど……怖過ぎるんだよ。


 中途半端に恐ろしくて声が出てしまい、応答しなければならないのと、


 怖すぎて声が出ないのを言い訳にして(実際本当なのだが)応答をヘルマキアさんに丸投げするのは、


 どちらが楽なんだろう。

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