第27話 穏やかで忙しい日々
中風月 24日
「まさか、2ヶ月もの間、1週間と開けずに来るのは予想外だ」
今日もやって来たヘルマキアさんを追い返し、【威圧】を解くと疲れがドッときた。レイが淹れてくれた蜂蜜入りホットミルクを一気に飲む。『レイジナ』の思い出の味だと教えてもらってからはよくこれを飲んでいる。何度目になるのかも分からない溜め息をつきながら足をだらんと投げだす。
ヘルマキアさんは魔力を込めた声で逃げ帰ってから5日後【精神強化】をかけてまで、また来たのだ。
最初は顔面蒼白になり、声が震えながら「今日はこのところで…」と帰るのが精一杯だったのだが、4回も繰り返すと普通に受け答えするようになってしまった。
【威圧】に込める魔力を上げても少ししたら慣れてしまうのでどんどん上げていくしかなく、2ヶ月しか経っていないのに来られるたびに、かなりの魔力を使う羽目になっている。
近頃は一回の来訪で5〜10回は【威圧】を使うので、かなり疲れるのだ。
「できることなら、【威圧】を使わなくてもいいぐらいには、舌先三寸で丸め込めるようにはなりたい。本当に……」
「ごめんなさい、シュウ」
聞き取れたことに驚くぐらい小さな声が聞こえた。
「なーに?どうしたの」
「えっ!何でもないよ?」
わざとらし過ぎる誤魔化し方だが、さっきの声は聞き間違いだと思うことにした。
「それならいいけどさ、何か不安なこととかあるなら、ちゃんと言ってね」
◆◆◆
上地月 13日
最近では、本気で婿入りしたくないことが伝わっているのか結構早くに帰ってくれる。
お陰で【威圧】を使う必要がない(最初からこうしてサッサと帰って欲しい)が、毎週来るのは変わらないので、せめて月一くらいにして欲しい。
ただ、ここ数週間でいきなり早く帰るようになったので、少し怪しい。誰かさんの面倒臭そうな策略に嵌められている気がする。
おそらくは、賭けが続けられなくなったら困るからだろうか。
◆◆◆
中地月 26日
例の結婚式の賭けが締め切られたらしく、「rebirthdayにしてくれよ」や、「婚約式と同じ日だよな?」と声をかけられることが多くなった。俺はその度に
「もう少ししたら、挙げますよ」
とだけ答えている。それだけで大体の人は会話を終わらせる。終わらせない人は別の誰かが耳打ちしてどこかに連れて行く。どうしたんだろうか。
◆◆◆
下地月 22日
0日に挙げる式のリハーサルを行う。カーベイン様が父親役と神父役の2役をしていて、超ハイスピードでリハーサルが終わった。
最近では、ヘルマキアさんの来訪が完全になくなり、準備に追われながらも穏やかな日々を過ごしている。
だから、気を抜いていたのだ。
「こんにちは、Mrs.ヘルマキア。【何故こちらへ?】」
かなり強く【威圧】するが、ヘルマキアさんは玄関のドアを押し開けて、勝手知ったる我が家の如くソファに座った。
「勝手に人の家に入るように教育されたのですか?随分とまぁ、貴族らしからぬ教育方針のようで。申し訳ないのですが、私はそのような方は例え貴族でも歓迎しないと決めておりますので、【おかえりいただけませんか?】」
なんだこのクソババアは。クソいまさらだし、クソめんどくさい。
舌打ちを隠さず、サッサと帰れと睨む。まだか、まだ帰らないのかと【テレパシー】の要領で目の前のクソババアに苛立ちを伝える。
飄々とした態度で流される。嗚呼くそ、また長くなるぞ。ヅカヅカと、勝手知ったる様子で家に上がりこまれたのはこの2ヵ月の間に完全に道を覚えられてしまったからだ。
できることならば、このババアの記憶消してどっかに放っぽり出したい。
さて、と不遜な態度で話を始められた。レイは買い出しの為に出掛けている。居なくて良かった。今日はいつにも増して態度がでかい。多分、レイがいたなら(物理的な意味で)ものすんごく面倒なことになる。