第25話 ヘルマキア家とハルマキア家
婚約式から1週間もすれば、バルシオン様と婚約する噂は完全に消え、俺たちがいつ結婚式を挙げるのかという予想が飛び交っていた。
1番多いのは来年のレイの誕生日。その次が神月。さらに俺の誕生日やレイのrebirthday(17話)が有力候補として賭けの対象になっているらしい。因みに、バルシオン様とゼルク様が胴元。何やってんだか。
現当主様は手綱を取れていないようだ。まぁ、通称・影狐のゼルク様と、次期当主でどこにでも潜り込む『ナイト』の呼び声高いバルシオン様は手綱を取るより自由に狩をさせた方が効率いいだろうが。
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下火月に入り、暑さも段々と和らいできた頃
招かれざる客がきた。
「ご機嫌よう、Mr.アトラス。娘と婚約したと風の便りで聴きましたので、ご挨拶にお伺いましたわ」
『レイジナ』と同じ赤みがかったチョコレートブラウンの髪。だけど、艶やかさはなく、ボサボサの髪を強く結んで誤魔化している。瞳は金色で誰かに似ているが、力強さはなく病人のように弱々しい光が灯っているだけだった。
「申し訳ありませんが、どちら様にございますか?」
会った覚えがないので、丁寧な対応をする。
「マレ・ディアナ・ヘルマキアの母で、レリエル・エウメニデス・ヘルマキアと申します。娘との婚約と結婚のことについてお願いしたいことがございますの」
「マレ・ディアナ・ヘルマキア?誰のことでしょうか?」
マレという名前には心当たりがあるが、こちらの名前ではないので、除外する。
「レイジナ・カーベインの昔の名前と言えば、お分かりいただけますか?」
その名前を出されて追い帰すわけにもいかず、家にあげて話を聞いた。
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その後説明されたことをまとめると、4代前にサリバン伯爵家の一人娘がヘルマキア家に恋愛結婚で嫁いだのだが、爵位が低いものの、金と上との繋がりが強い分家。上との直接の繋がりは少ないが、グレーなお金と横との強い協力関係がある本家。2家間で本家の入れ替わり等の対立が起きる事を危惧した別の分家が伯爵家を取り潰させたそうだ。
ハルマキア及びヘルマキア家は蜘蛛の巣よりも細かく張り巡らされた情報網と、国内外問わぬ広い伝手、利益があると見れば敵国相手でも国への忠誠心を疑われることなく物資のやり取りをして来た故に男爵・子爵にも関わらずかなりの発言権と影響力を持っていた。伯爵家が持つ権力にヘルマキア家の情報網が加わったら王族よりも強い力を持つかもしれないのだ。
そして4代前に取り潰された伯爵家の血を直接ひき、尚且つまだ未婚である最後の存在がレイジナであること。
伯爵家を再興させる為に俺が『ヘルマキア家に婿入り』して欲しいとのこと。
一番気になっていた、孤児院に入れた理由はハルマキア家に取り上げられないようにする為。
孤児院には彼女から遊びに行っていて、たまたま出会ったカーベイン様が養子に迎えたことになっている。
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本人は家の為だから仕方なく養子にしたと言っているが、挙動不審で怪しいとしか言えない。
「私にとって、レイジナは『元伯爵家』の令嬢ではなく、ただの幼なじみで、優しくて強い心を持った、愛している女性です。
どんな理由であれ、彼女を捨てた人の頼みを聞く道理はありません。彼女の過去を聞けたことは感謝しますが、彼女を踏みにじる貴女の元に行く気はありません」
声に魔力を込めて言い切る。
「【お帰りください】」
「ヒィッ」
カエルが潰れたような声を上げて、ドタバタと、本当に貴族か疑う程大きな音を立てて逃げ出て行った。
彼女の家族とは考えにくい程醜い逃走だった。だけど、調べておく必要がある。もう、『レイジナさん』も『玲』も『レイ』も悲しませる気は無い。
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