第23話 『支える者』と『歯向かう者』
上火月3日
前子爵は快く紹介しようと言ってくれた。
だが、目をつけられた気がする。解せん。まぁこれでいい。レイが取られなければ、俺的には何も気にしない……
ってまただ。最近ヒュージの意識が強くなっている。アメリカの実験でこういうのあったな。囚人役と看守役に分かれて朝から晩までその役を演じたら、凶暴性が増しただのなんだの。
少し怖いけど、こうでもしないと、生き物を殺すなんてできない。俺はいつまでも『白石 秀司』ではいられない。
俺は『こちらの世界』に来た
だから
俺は『前の世界』の人間じゃない
『ヒュージ・オファニエル・フォン・アトラス』
としてでしか
生きていけないのだから。
(玲とは生きられない)
嗚呼、これは本当に辛い罰ですね。
アゲイルさん
◆◆◆
sideレイ
昨日の秀司はおかしかった。
確かに、私の強い口調のせいで迷惑はかけてきたけど、ゼルクお爺様のような人には歯向かう事はせず上手く誘導するような対応をしてきたし、あそこまで露骨な嫌みを言うことはなかった。今更、度胸がついたとでもいうのだろうか。
いや、『ヒュージ』としての人格に呑まれてしまっている。何日も役になりきると、人格がその役に染まってしまうのだ。2週間に渡って行われるはずの予定が1週間で実験そのものが中止になってしまうほどに。
確かに彼は
『白石 秀司』のままでは
生きていけないだろう。
でも私は、
『ヒュージ』よりも
『秀司』と生きていきたい。
昨日みたいに裏の裏の裏まで探り合うような腹黒い世界の住民ではなく、普通の一般市人として生きて欲しい。
でもそれは叶わない。
私は『この』世界に生まれたのだ。
私は『前の』世界とは違うのだ。
『こちらの世界』に生まれた
のだから
『こちらの世界』で生きる
『レイジナ・マレ・ディアナ・カーベイン』
としてでしか
生きていけないのだから。
『秀司』とは生きられない
嗚呼、これは本当に辛い罰ですね。
神さま
◆◆◆
sideレイ&ヒュージ
『秀司と玲』にはもう戻れない。
『こちらの世界』に来て変わってしまったから
『ヒュージとレイジナ』は婚約するのだから
来月の婚約式を境に
『幼なじみの高校生』から
『結婚式を控えた婚約者』になる。
もう戻れない。
互いに『支える者』は
互いの運命に『歯向かう者』なのだ。
変えられぬ運命に逆らい、
『あちらの世界』の関係に戻ることを
互いに願っている。
自分達の本当の願いは知らずに
2人はアトラス
神に逆らい、世界を支える者




