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呪術師と迷い人は異世界で再会する  作者: Y.A.&H.S.
第3章 みぢかし時間と関係
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第20話 白と黒、青に赤

 

  基本属性は妨害される可能性が高く、使うのは得策ではない。上級属性は光・闇・時空だが、時空は使えないから実質光か闇だ。


 闇なら、選抜戦の時のレイジナのように存在ごと崩壊させる事もできるが、そうすると素材の回収が不可能になる。


 カーベインさん存在ごと消そうとしてたのかとビビったけど、あの人は光の属性が強く、闇を打ち消す事もできるらしい。もし当たったらどうしたんだ、なんて聞かなければ良かった。


『【光を喰らう闇】は足にしか当たらないようにしてたし、心臓と脳みそが繋がってれば胸から下が無くなっても綺麗に治せるんだからどこに問題がある』


 問題あるなしの以前にマジ顔で言ってるのが怖いよ!


 もう、レイに突っ込んだら無条件で負ける気しかしない。

 闇は敵か敵の攻撃を飲み込む以外に使い道が思いつかないし、倒した証明ができないのは困る。

 つまり、光一択。


 そこまで考えると、使う魔導は決まったようなものだ。体の中に意識を集中する。選んだ魔導は


「【雷のメス】」


 簡略化した詠唱により、医療用のメスのようなもの(だが全長50センチメートルもある)が両手に現れる。


 左手のメスで空間を【切り開く】。すると、そのメスの跡は闇が広がっている。これは電気分解を元にイメージした魔導で、陰イオンと陽イオンでわかれるように、対極の属性を1属性として使えるようになる。


 これはいつも使っている2〜4属性魔導と違い、相殺したりすることがないのだ。そして、光の対は闇。全ての光を飲み込むような黒く、暗い穴。コールタールのように美しい【ブラックホール】が広がっていく。それは薄く、されど色濃いベールとなって広がり、黒の周りを覆う事で強制的に戦線離脱させる。


 もう後ろからの攻撃は被弾することがない。


「さあ、痛みを感じる前に終わらせてやるからな?」


 ニヒルな笑みを浮かべる。


 俺でもわかる。最近こちらの世界に慣れ、ヒュージとしての人格が強くなってきている。さっきも銀ランクパーティでも全滅する可能性のある双獅子をいくらイラついていたとはいえ、『どう料理してやるか』なんて普通は言わない。


 良いのか悪いのかわからないがこちらの世界で生きていくのだから仕方ないのだろう。


 ブラックホールの壁を背にして、ヒュージはフェンシングをするかのように右足を出し、片方のメスだけを敵に向けた構えで白の方を向く。


 怯えているような、怒っているような唸り声を上げ、その場にじっとしている。動けないと言った方が正確だろう。俺のターンのうちに更に準備を重ねる。白に向けている右手のメスをシュッと漢字の一を書くように動かすと、光の残像が矢になった。今度はメスの背で先程の軌跡を逆からなぞるように動かす。ぼんやりと形が曖昧だった矢の光が凝縮しその存在がハッキリとした。


 バッと一瞬の隙を突いて光の矢を白の右斜め上を掠めるように放つ。メスを作る時に注いだ魔力を使ったので、俺自身は何ともない。しかし、メスの魔力は減った為に光が減って少しシャープなデザインに変わっていた。


 もう一度作り、今度は左斜め上を掠めるように、頭の上ギリギリを通るように放つ。掠った光の矢は囮の役目を終え、霧散していく。何度も繰り返すうちに慣れて、矢の生成から打つまでを一度にできるようになった。しかし白は光の矢を避けながら、時折火球を放ってくる。来たのは避けるか左手のメスで小さな【ブラックホール】を作って消していく。


 足にいくつか掠ってしまったが仕方がないので魔道具の【自動回復】に任せる。


 メスに込めた魔力がどんどん減っていき、最初の半分ほどの長さになったところで右手で薙ぎ払うような動作をすると、白は魔導が来ると思ったのか地面に伏せた。


 しかし、白の方が高いとこにいることに変わりはない。払う動作のまま体の後ろに回した右手を振り子のようにサッと右手を振り上げる。今度は光の矢ではなく、メスを直接投げた。そして白は、伏せの状態だった為避けきれず被弾してしまう。メスは体の中を傷を残さず駆け抜け、心臓に繋がる血管だけを切り裂いた。

 苦しげな断末魔を聞き、痛みはあったかと、ヒュージは感じた。そこに『秀司』はいない。



 ばたりと倒れた白を一瞥し、左手に残ったメスで【ブラックホール】を閉じる。


 途端に血の匂いが漂い、グルルルと怒りに染まった黒の唸り声が響く。


(あれ、聴覚と嗅覚も遮断してたのか。制御が甘いな)


 黒はとらばさみに引っ掛かり、右前足が血に染まっていた……



 だが、白の遺体を視界に入れると自ら足を切り落とした。風に水を混ぜて【ウォーターカッター】を使ったのだ。本来なら二つもない筈なのだが、ヒュージが絡繰を見つける前に、彼に迫る。後ろ足で立ち上がり、ヒュージの額からこめかみにかけて、一筋の赤い線が引かれた。黒の右前足が流す血がかかったのだ。黒が残った左足を振り落とす。






 だが、それが届くことはなかった。




 ヒュージは左にズレ、黒の攻撃を避けた。黒は避けられると思ってなかったのか、片足だとバランスが取りにくいのか、そのまま滑った跡を残し、白の前で倒れた。ヨロヨロと立ち上がった黒は白の頬を舐め、ヒュージに向き直す。瞬間、幾つもの水球と風の刃が飛んでくる。中にはウォーターカッターもある。しかし、全て火と地で打ち消したので一つも当たらない。


『ヒュージ』の顔を持ってから2年と半年。そんな短い期間で白桜歴で4865年の中で7人目の時空属性運用者になったのだ。いくら神の、それも司る属性が違う者からの補助があったとしても出来る者はそういない。


 彼は元々魔導の適正属性が多い。『ヒュージ』として行動を選択できる今となっては、この程度なら混乱も動揺もせずに対の属性で簡単に打ち消してしまう。


 水蒸気が立ち込め、視界が無い中、風を切る音がする。ギュオンという音を鳴らして黒が左手で叩き落とすような動作でヒュージの頭を狙う。最初の攻撃とは比べ物にならない速さで、当たったらひとたまりもないだろう。ヒュージは、攻撃魔導を中止して避けようとする。


 グニュ。足を出したそこだけぬかるんでいた。


「クソッ!」


 倒れそうになるのを堪え、メスを振るい攻撃をなんとかずらした。しかし、避けきれず右腕に大きな切り傷ができてしまった。


「いてーな、くそっ。白と戦ってる時にでも仕込んでたのか」


【魔力障壁】と【電流柵】で無理やり距離を取る。腕が燃えるように熱い。ここまま何時ものように治療を後に回すのは危険だと判断し、【治癒】を発動する。何時もは細胞分裂が進んで傷を周りから埋めていくイメージだが、何故か治りが遅い。


 自分以外の属性を持った魔力があるからだと思い、魔導が発動しない程度に属性を持たせた魔力を流して、中和させる。風の魔力が無くなり、水を消そうとすると違和感が生じた。確かに黒が持つ魔力に違いないのだが、使い慣れてないから起こるはずの独特な乱れがある。


 中和していくうちに違和感の正体が分かった。魔力が別の魔物の魔力を取り込んで一時的に宿ったものなのだ。恐らく、俺と戦う何日か前に水系の魔物を喰って魔力が残ったのだろう。元から持っていたであろう風より少ないとは言え、結構多い魔導を放っていたから青ランク以上の魔物だろうか。


 漸く【治癒】が終わり、【魔力障壁】と【電流柵】を解除する。

 黒が通れるようになった瞬間に飛び込んできたがそんなのは予想していた。


 タイミングを見計らい【罠】を発動させる。今まで構成の完成で留めていた為、魔導に魔力を流し込んだ時点で発動する。バシュッという音がして、まるでクモの巣のような網が出てきた。一瞬のうちに出てきたそれに、黒は逃れる術を持たない。


 ガリッ、ガリッと網を噛み切ろうとするが逃げられない。

 ヒュージがトドメを刺すために近づくと必死になって腕を伸ばしている。

 しかし、当たらなかったら意味がない。


 ヒュージはだいぶ小さくなったメスを心臓に向かって投げた。心臓に直撃したメスはそのまま黒の命を奪う。


 グワッ!グルゥ……グー


 黒は最後の力を振り絞り、白に腕を伸ばすが、届かない。最後に悲しそうな声をあげパタリと腕を落とす。涙がツー、と流れ落ちた。



『ヒュージ』は罪悪感などなく、むしろ、依頼が成功した喜びがある。罪の意識などない『ヒュージ』は何も言わずに解体を進めるが、『秀司』は、命を奪ったことに罪悪感を感じていた。





 なんの罪も無い命。





 ただ魔物というだけで





 生きる事を許されない。






 愛する者とも引き裂かれ





 命すらも奪われる。



 解体を進めるうちにほとんど魔力が空になった核が心臓にあるものとは別にもう一つあった。胃から取り出すとそれはバキリ、とヒビが入り砂のように崩れ去った。『ヒュージ』は残念とも思わず解体を進めた。



 解体を終えた彼の目尻に光る物があった。




 それは




『ヒュージ』の残酷な命の略奪により


 流れた血か




『秀司』の命を奪った罪の意識により


 流れた悲しみの涙か




 知るものはいない。

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