第19話 双獅子討伐戦
下水月 9日
今回の依頼は俺の昇格試験の為、1人で双獅子と戦うことになっている。双獅子はかなり手強い相手で、銀ランクパーティーでも全滅を覚悟しなければならないらしい。だが、玲曰く油断さえしなければ、俺一人でも討伐は可能とのこと。これで負けたら俺のプライドに関わるし、何故か失敗したら俺の奢りで高級レストランに行かされる。なんでも
「失敗しなければいいでしょ。御使い様なら、ちゃんと成功して帰ってきなさい」
とか言われた。
それに、とボソッと言った(恐らくは独り言であろう)言葉に首を傾げた。
「もう一緒に居られるとは限らないから。絶対成功して来て欲しいんだ」
◆◆◆
双獅子の生息域の森に着いた。転移した時に目覚めた森と知った時は、アゲイルは馬鹿なのかと思った。何故、転移直後で混乱する可能性のある時に、そんな危ない森に放り出すんだ。
最初の日に辿った獣道を通る。今日はあの日の逆で森の奥に奥にと足を進める。誰ともすれ違うことなく陽の光が入らない程森が深くなると、ふと何故ここに転移させた理由を考え始めた。
(案外、シスコンって当たってるのか?妹の頼みで転移させる事を例外で認めたって書いてあったし。調整面倒臭いとか言いつつも、フォローはしてくれたしな。妹が頼んでくるぐらい気にしてる俺にあたりが強いって事なのか。いや、妹と比べてたらダメか?シスコンの妹とその子が気にかけてる男だったら、あたりが厳しいのはこっ……)
「「グルルルゥゥゥ」」
「うわー、このタイミングで双獅子来ますか」
さっと辺りを見渡し、神に愚痴る。
「しかも、地形的に不利だわ。覗き見でもしてるのかよ。ざけんなよ」
俺が立っているところは、すり鉢状の地形の底になっていて、双獅子は両サイドの高い所から挟み撃ちしている。ハンデが大きすぎるが、嫌も応もなく、討伐戦は始まった。
いきなり開かれた討伐戦に急いで作戦を組み立てる。左は黒い毛並みで右は白い毛並み。黒はオスで水か風。白はメスで火か地。うん、覚えてる。確か基本の属性は水・火・地・風の順で難しくなるはず。
なら、左からは水で右からは火が来る可能性が高い。火は周りに植物がないから、飛んで来る瞬間だけ気をつければ良いかな。水は足元がぬかるんで危ないから、蒸発させよう。
「来いよ、ライオンども。百獣の王のクセに2対1でも怖いのか?さっさと終わらせようじゃないか」
挑発すると、いとも簡単に乗ってきた。
『双獅子はプライドが高く、挑発すれば簡単に血が頭に登ります』
簡単すぎんだろ。耐え症なさすぎだろ。あほすぎだろ。何か三拍子揃ったんだけど。
『血が頭に登っていたらほぼ間違いなく魔導を飛ばして来ます』
右のメスの双獅子、いや面倒だから白でいいや。白は火球を俺の顔面目掛けて撃ってきた。その程度なら問題ない。だがこれで地属性は無くなり面倒さに拍車がかかった。俺が火属性に弱い訳ではない。むしろ、火ならいくらでも消火できる魔導がある。ただ、二匹だから面倒なのだ。
無属性でブラックホールを作り消火する。水と風はまだ使えない。いや、使うと魔力を浪費する可能性があるから避ける。と、言った方が正確だ。
双獅子は、属性を1つずつしか持たない代わりに、敵と同じ属性の時、敵の魔導に干渉して威力を下げたり、発動する事すら出来なくする事も出来るのだ。
(自分の生命力でもある魔力を無駄使いする程馬鹿な事はないからな)
まずは、邪魔される危険のない地属性で武器や罠を仕掛ける。
突進出来ないように剣を地面から生やして、避けた先には落とし穴をつくる。
俺にとって戦闘で一番避けたいのは、片方の相手をしているところを自分の攻撃範囲外にある相手に狙われる事だ。
狭い範囲に二匹も居られるのも、攻撃を避けられないので遠慮する。
罠は俺が知ってる中で最も融点が高い金属の白金製に変えた(1774度になんていくら魔導でもなるわけない)のでこの罠は壊れないはずだ。
水と風は練度が高かろうが相手を倒すには少々限界がある。しかし、火はほんの少しでも気を抜けば大怪我してしまう。
先ずは白を先に倒そう。しかし、火に強い水も火と調和して強くなる風も黒が持っている可能性がある。
こんなクソ面倒な相手とクソ面倒な地形とか
シスコンにもほどがあるだろうが!
はぁ、魔物って味が持ってる属性に引っ張られるから当たりハズレがデカイんだよな。
少なくても火属性の白は俺の嫌いな料理にしか合わない。水属性の可能性が高い黒はまだ良いけど、戦闘に入っている時点で味は格段に落ちる。
まぁ、なんだかんだ言っても銀ランクの中では一番難度が高い魔物だからそこそこ美味い。腹が減ってきたとこなので討伐証明部位と売る部分だけ取ったら
『残念でした』
『差し入れしてくれてありがとう』
とでも念じながら全部食ってやろう。
あーあ、どう調理するかな?




