第18話 口裏合わせと手紙
俺が使った時空魔導は口裏合わせをした結果
「神が2人を不憫に思い、少年の体を借りて発動させた」
「少年は属性を持っていないが神が乗り移った事でその時だけ使う事が出来た」
「その少年は『神の御使いさま』」
という事にさせてもらい、もう人前で使わないようにと、カルミーアさんとカーベインさんに強くいわれた。
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次の日ギルドに行くと、わんさか人が寄ってきて「子供を抱っこしてくれ」や「力のお零れをください」など耳元でぎゃーぎゃーうるさくてたまらなかった。
「ヒュージさーん、試験の事でー、ギルドマスターからー、お話しがありまーす。2階のー、会議室にー、行ってくださーい」
ミーアさんが周囲に聞こえるように言ってくれた呼びかけがなければ、あと一時間は拘束され続けただろう。
会議室はまだ3、4カ月しか経ってないのに酷く懐かしい。ガチャリと音がしたので振りむくとギルドマスターがいた。
「やあ、ヒュージ君。わざわざ済まないね」
「いえ、ギルドマスターに会えるなんて光栄ですよ」
「本当なら嬉しいんだが。さてと、社交辞令は抜きにして本題に入らせてもらうよ。まず、君が時空属性魔導を使った事は国王陛下から聞いた。とても凄い事だし、それだけでも英雄扱いになる。だが、トラブルに巻き込まれるようになるだろう。これは分かるね」
「はい、それを承知で行いました」
「そうか。でもギルドとしてはトラブルは少ない方が有難い。
だから、それを防ぐために神が乗り移った事にして二度と使えないと、公表する。
使えないと分かればそれだけで、巻き込まれる危険はぐんと減る。できるなら、君がその魔導を使った者ではないようにしたかったが、殆どの国民が直接もしくは魔導具を通じて間接的に君の顔を知った。
さっきもそうだろう?君はもう時空属性は使えない。いいね?」
「はい、勿論です。昨日カルミーア様と閉会式の演説の準備でいらしてたカーベイン様から厳命されましたし、使うつもりもないので構いません」
「そうか、差し支えなければ、どんな事を言われたか聞いてもいいかな?」
何故聞くのか気になったが、全て理解出来ているかと、付け加えることは無いかの確認だと言われ、うなづいた俺は昨日の説教タイムを思い出していった。
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閉会式は滞りなく終わったらしいのだが、魔力の使い過ぎでポーションを飲んでもけん怠感が取れないので俺は控え室で【魔力制御】で魔力を高速で循環させて、体力を回復させていた。【魔力制御】自体は他の一般的な魔導と違い魔力が身体を循環するだけで、魔力を体外に放出しないので、集中さえできれば何時間でも運用可能だ。
何故体力を回復してしまったのか、悔やんでも悔やみきれない。
「あのさぁ、レイちゃんを助けてくれたのは本当に感謝してるよ?Ms.カーベインも現役をお離れになられているからもう時空属性を制御・運用する事はもう出来ないしね。
でもさ、あのゼルク・タブリス・ハルマキア様と影だn…国王陛下に目をつけられたからには、レイちゃんにどれくらい苦労かけるか分かってる?
やっと女狐と大伯父様の嫌がらせにも程があるキチガイ発言が落ち着いてきたのに……
とにかく、今度冒険者ギルドにミーアという赤髪緑目の受付嬢がいるから、彼女に『翠眼の鴉に会いたい』と言うんだ。
そして、私と同じアッシュブラウンの髪に緑目の『カルー』からMrs.ヘルマキアについての情報を貰いなさい。それから……」
「はいはい、それぐらいにしときなさいな。そんな話をいきなりされて、ヒュージ君困ってるでしょう」
今後の説明(という名の説教)をされるとの事で一番防犯対策がされているミーシャ・カーベイン様の控え室に逝ったのだが、席に着くなり怒涛のマシンガントークを繰り広げたカルミーア様を止めるカーベイン様は優しい田舎のお婆ちゃんのように穏やかな声だった。
「しかし、カーベイン様」
「まずは落ち着きなさいな。いきなり全部言われても、それだけで全部理解できる人の方が少ないわ」
「畏まりました……」
よろしい、と見るものを落ち着かせるような笑みを浮かべたカーベイン様はこちらに向き直して、一つ一つ今後のことを教えてくれた。
そのおかげで、今日の事後処理の説明と今後の身の振り方は一通り理解出来た。
「最後にレイジナ・マレ・ディアナ・カーベインの養母として言っておきます。
私の子を助けてくれてありがとう。けれど、悲しませるようなことだけはなさいませんよう【お気をつけて下さいね】」
何気なく。けれど濃厚な魔力を直接当てられた秀司は何故体力を回復してしまったのだろうか、何故明日以降にしてもらわなかったのだろうと後悔した。
◆◆◆
「なるほどな。そこまで注意されてるなら政治方面は大丈夫だな。
さて、もう一つの本題だが銀ランクいや金ランクへの昇格だ。公にはできないが歴史を探しても十人もいない時空属性持ちだ。今は廃止されたが黒ランクでも良いと、個人的には思う。銀ではなく金と言った理由だが時空属性を含めると、君は5属性持ちなんだ。つまりこの国で一番属性が多いから、君の能力は金以上だと思われる。だから、ギルドからの依頼を受けて貰ってそれを達成したら金ランクまで上げる許可を本部から貰ってある」
「仕事が早いですね」
「そうだろう。そのお陰で34でギルドマスターになれたんだ」
「以外と若いんですね」
「まあな。さてと、君に受けてもらう依頼は、この双獅子というモンスターだ。こいつらは必ずと言っても良いほど白い毛皮のメスと黒い毛皮のオスで二匹一緒にいる。
それだけでもめんど臭いのに、メスは火か地。オスは水か風の魔導を使う。
銀ランクパーティでも下手したら全滅するからな。実際に俺は現役時代に出くわして、メンバーの半分以上が死んだ。2体とも倒してくる方がいいが、どちらか片方でも構わない。無茶すんなよ。神の御使いさまに死なれたら困る」
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買い物を済ませ、家に帰ると秀司当ての手紙が部屋の中のテーブルに置いてあった。なんだかこの手紙、デジャヴってんだが。案の定、アゲイルからの手紙だった。
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白石 秀司君へ
先日の時空属性魔導“発動”おめでとうございます。暴走した場合の被害がとんでもない事になるので、どんなことになっても介入しない、と書きましたが、特別に魔導の補助をしてあげました。これからは、自分で制御できる分だけの魔力を使ってください。今回は言ってなかった我々にも責任があるので、罰はありません。
追信
本当に介入はこれで最後にしてください。ただでさえ死者の数やらなんやらの調整で忙しいんです。わざわざこちらでも同い年になるように転移させるのも細かい調整が必要で半端なく面倒なんですよ。本当にもう使わないでください。いいですね。 アゲイルより
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「うわぁ、怒ってる。迷惑かけてすみませんでした」
おもわず字から伝わる怒りに謝った。ポケットに入っていた手紙は紳士のように丁寧な文章だったがこれは怒りがひしひしと伝わってくる。それは、少し言葉が雑な事(それでも字自体は綺麗だった)からも伝わる。
(転移させたのはシスコンだからか?妹に頼まれて断れなかったとか)
失礼な考えを正してくれる人物はいなかった。
◆◆◆
食器を片付け、皿を洗いながら友達にプリントの問題を教えてもらうような口調で話しかけた。
「玲〜、双獅子について教えて〜」
「前世の時より軽くなったと感じるのは私だけかな。まぁ、いいけどさ。双獅子のなにについて知りたいの?」
「討伐に必要なだけの情報を知りたい」
「またそれだけ?(必要なだけとかアバウト過ぎるし…)それ以外も知っといた方良いと思うんだけど」
不安そうな顔で訪ねる彼女に迫られて、細かい生態や、生息環境について語られた講義は夜遅くまで続いた。