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呪術師と迷い人は異世界で再会する  作者: Y.A.&H.S.
第1章思い出の日々と消えた世界
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第1話 夕暮れ時の世界

  図書室に入り、幼馴染の松川 玲を探す。いつもなら、誰かを待っている時は生徒玄関の横のガラスから見える読書スペースで待っているのだが、今日は姿が見えなかった。下校時間の30分前なので、外は少し暗くなり始めてきた。進級して間もなく、去年までと違う棟の教室に一人で行くのは彼女の体ではできない。


(本を探している可能性の方が高いな)


  ぱたっ。ぱたっ。と上靴の音だけが響く。図書室と言ってもここは大分広くバスケのコート2面分は軽く、下手したら3面分あるだろう。一度すれ違うとまた探すのが大変なのだ。3列目で曲がって、いない事を確認する。次は2つ隣の通路を進み、一番奥に行く。3列目のオススメコーナーにいない時は大概一番奥の小説を流し見ているからだ。

  奥にもおらず、全ての通路を順に通って探そうとすると、声が聞こえた。恐らく、11列目か12列目辺りからだ。


「……てください」

「お断りします。そもそも、知らない人に告白されるのは迷惑だと理解できない人とは付き合いたくありません。恋人としても、友人としても」



  誰かに告られて、それを拒否る玲のものだった。今日は『友人としても』のフレーズ入れているのでいつもより厳しい。フォローしておかないと、告った何処かの誰かに深刻なダメージが残る。


  カタン、カタン、カタン。本の背表紙に指を引っ掛けて指を離し音を立てる。3回鳴らしたら、俺が介入する合図にして、玲が相手への追求と冷たい視線を向けるのを終える合図。『終焉のラッパ』と呼ばれているのを俺は知ってる。なら、告んなと言いたい。


  因みに付き合うことにしたという返事の3回ノックは使われた事が無い為誰も知らない。

  玲はため息を吐き、俺は今気がついたばかりのフリをして助け船を出す。


「玲、そろそろ帰るぞ」


  相手の顔がぱあっと明るくなった。ああ、こんな奴を助けるのか。面倒臭い。


「何があったのか知りませんが、地雷踏んだなら代わりに謝っておきますよ。どうしました?」

「実は、告白した時に眼の話題に触れたら急に機嫌が悪くなったので、それだと思います」

「玲 の眼の事に触れるのはタブーなんだよ。左眼は失明してるから見えない上に色が少し違うから本人曰く、気持ち悪いんだって」


  玲は先天性の疾患の為左眼が義眼なのだが、失明していると言うように本人から口止めされている。なんでも


『義眼の事はできる限り知られたくない。それに自分が信用できる人には自分から言いたい』


 との事。まぁ、小学校時代に眼が原因でイジメられたのだから、無理もない。


「そうだったんだ、すみません。松川さんには、明日中に謝るんで今日はお願いします」


  玲は女子にしては身長が高く、声が綺麗な事と、キリっとした顔立ちにまっすぐな性格であるも、柔らかい雰囲気も合わせ持つため高校にはいってからは何度も告白されて来た。その為、断る度に俺がフォローするのだが告白する人が後を絶たない為に、さっきの様な合図ができたぐらいだ。


「しゅう、片付け終わったよ」

「分かった。駅までそのリュック持つよ」

「ありがと。じゃあ、よろしくね」

「「失礼しました――」」


  図書室を出ると、日が地平線にぶつかりそうな程傾いていた。沈みきる前に帰ろう。


  ◆ ◆ ◆


  校門を出てから駅までしばらく歩くので視界が狭い玲は必ず俺と帰る。その為、最近では付き合っている噂が立ちつつある。本当にそうならいいのだが。


  俺は、彼女がイジメに耐え続け、飄々した仮面に隠した素顔を見た事が一度だけあった。多分、いや間違いなくその時から守りたいと思うようになった。だけど、


(介護士ぐらいにしか思われてないし、付き合うっていう感じの仲じゃないんだけどな)


  俺の右にいる玲に目を向けると、綺麗な黒寄りの茶髪が今は夕陽に照らされて赤寄りのチョコレートブラウンになっていて、血でも通っているのではと感じる程不自然に染まっていた。


  俺は彼女に何年も前から惚れているのだ。小学校では付き合いたいというのではなく、ただ側にいたいという感じだったし、中学では勇気が出せず卒業してしまった。一緒にいたいから、無理をして進学校であるこの高校を受検した。それぐらいするなら告れよ。と、何度も自分を笑った。


  思えば、本当に何で言わなかったんだろう。

 カチャッ、カチャッと足音に別の音が混ざり出した。足元を見ると、靴紐がほどけていた。信号が青になったとこなのに、タイミング悪いな。


「玲、ちょっと待って。紐ほどけた」

「ここ青短いし、赤長すぎるから断る。渡ってから結べばいいじゃん」


  靴紐ほどけたままだと歩きにくいんだよ。でも、赤が長いのは当たってるので、まずは渡るか。玲はこちらを振り向いて催促して来た。


「ほら、もう点滅してる。ここ赤長すぎるから嫌なんだよね」


  それが、最後に聞く声ならもっともっと沢山聞いておけば良かった。分かっていたなら、引き留めていたのに。

  右から車が突っ込んでくる。玲は義眼の為か、気づいてない。


「危ないっ!」


  荷物を投げ捨て、走り寄る。だが、靴紐を踏に、たたらを踏んでしまい、届かなかった。

 バンッ。と、大きな音が響き右腕が痛む。強い衝撃を受け、右腕を引っ込めたら、頭から倒れてしまった。玲の姿が見えない。

  探そうとしたが、頭を打った所為でそのまま気を失った。

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