第17話 死の舞で飾られた舞台
「レイっ、大丈夫か!」
レイジナは防ぎきれずに闇を受けてしまった。身体が崩壊しかけている。
このままでは危ない。考える前に体が動いて駆け寄った。
「レイッ!聞こえるか!返事しろ!」
「ヒュージ君、治療するからそこどいてくれ!【光の癒し】!……駄目だ。ということは闇属性で、それ以上の属性しか……くそ、時空属性を使わないと無理なのか。ここから動かしたら、命が危ない。三属性混合でも無理なら、時空属性で存在を作るしか……」
もう下半身は崩れ去っている。時空属性なら可能性があるのか。だがまだ、時空属性は難度が高すぎて発動させる事すら成功した事がない。
また、彼女が死ぬのを見るしか出来ないのか?悔しくて目線を落とした。ふと、手首を見ると彼女がくれたアイオライトの付いたブレスレットがあった。『持ち主を最良の方角へと導くお守りの石』なら、今こそ導いてくれ!
「【我、此処に命ずる。レイジナ・カーべインをこの世に繋ぎ止めよ】」
今まで使った事のない程大量の魔力で、時空魔導を発動させる。熱くなっていく魔力を意志と魔力制御で冷やしながら練り上げていく。不意に、自分以外の誰かが魔力を支えるのを感じたが、無視して続けると、段々と自分の力のように馴染んでいくのが分かった。今なら、成功する確信があった。
「【この魂は、死すべき運命にあらず。本来あるべき運命の糸を辿らせ、死の淵より舞い戻りたまえ】」
彼女の魂をしっかりと身体に結び付ける。もう離れないでくれ。そんな思いを込めて 。硬く、硬く結び付ける。
「【この身体は死すべき運命にあらず。本来あるべき姿に戻りたまえ】」
時空魔導はなんとか成功した。少なくとも『レイジナ・カーべイン』としての存在をこの世に繋ぎ止めた。でも、『玲』はどうなるんだろうか。……だが、今はレイを生かすことが優先だ。【治癒】では間に合わない。なら、攻撃を受ける前に戻したら?
「【時よ、遡れ。我が願いし時に遡れ。この者の時を遡り、あるべき時の道を歩ませたまえ】」
レイの時間を魔導を受けた直前の状態まで『戻した』。
「これで治ったはず、だ……」
そこで俺は気を失い、崩れ落ちた。
◆◆◆
「ヒュージ。……起きてよ、秀司」
目を開けるとレイが俺の手を握りながら顔を覗き込んでいた。
「うわっ!びっくりした。どうし……」
「良かった!助けてくれて、ありがとう。ヒュージがいなかったら、今頃死んでた」
レイが抱きついてきて、驚きの余り続きを言い損ねた。泣きながら、ありがとうと謝罪の言葉を繰り返すその姿は、気づいているにしても、気づいていないにしても、気づかないで欲しいにしても、松川 玲だと言う事を思い知らされた。
(やっぱり、ずっと一緒に、側にいたい。玲でも、レイジナでも)
「入るよ……お邪魔だね。表彰式10分後ってだけだからいい雰囲気壊してごめん」
「ハルマキア様、何か勘違いしておられませんか?いい雰囲気って。あっ、あとノックはしてください」
「うん?カーべイン嬢が誰かに泣きつくなんてありえないんだが、付き合っていないのか?それなら、まだ可能性もあるのにな……」
「十分後に表彰式ですね。お伝えいただきありがとうございます」
「まあいいか。ワンチャンあるって分かっただけでも」
彼の「シトリン色」の瞳が光った気がした。少し気になるが、最後の言葉はスルーして、お帰りいただいた。
◆◆◆
表彰式は順調に進み、準優勝のレイは国家魔導師次席・国家呪術魔導師になった。その帰り道に、
「ヒュージ、昨日言った事覚えてる?」
「うん、『ずっと側にいて』でしょ」
「私、優勝できなかった。だから……」
レイは顔を伏せて次の言葉を出そうと口をパクパクしている。
「俺が側に居たいなら、居てもいい?」
「えっ?」
「君のお願いは、優勝できなかったから駄目だけど、俺の願いが『側に居たい』ならずっと一緒でもいいでしょ?」
そう言い切ると、とても綺麗で、魅力的で、いっそ神秘的な笑顔を浮かべて
「そうだね、しゅう君。ずっと私の、『松川 玲』の側にいてください」
「うん、もちろんだよ!にしても、ほんっとうに、やっと言ってくれたね。『私は玲だ』って中々言ってくれないから、どう接するか大変だったんだよ」
「ふぇっ?気づいてくれるの待ってたのに」
「だから中々言ってこなかったんだ。うーん、あー、まぁ。気づかなくてごめんな、玲」
「ううん、私も悪かったんだ」
今なら聞けるかな。君の持つその意識は
玲?それともレイジナ?
「『レイジナ・カーべイン』に聞いてもいい?君の『側にいて欲しい』という願いは
『玲』のもの?
それとも、
『レイジナ』のもの?」
「“私”のものだよ。
『松川 玲』の記憶を持った
『レイジナ・カーべイン』が“私”という存在である事は変わらない。
けど、“私”の願いは、
『玲』と
『レイジナ』の
2人分の願いなんだよ」
その答えは僕が一番欲しかったものだった。
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