第16話 決勝の舞台は死の舞で
中水月18日 選抜戦本選決勝
今日はレイと現国家魔導師主席のカルミーア・サリバンの決勝戦だ。準決勝までのように的に魔導を掛けると的が耐えきれず破裂する事故が何度もあったことから、決勝戦のみ1対1の対戦形式になった。
レイは呪術師の為、攻撃も防御も可能だが本職にはどうしても敵わない。あくまでも器用貧乏の分野なのだ。かなり不利な戦いなのだがレイの瞳には勝利のみを信じているからこそ映る独特な炎があった。
(これに勝てばシュウ君は側にいてくれる。それだけで何でもできる気がする。もし、私が玲だと分かっていてあの言葉を受け入れてくれたなら、それ以上嬉しい事は無い)
そんな事を考えているとはつゆ知らず秀司は
(玲が望んでいるのか、レイジナが望んでいるのか。俺は…どうするべきなんだ)
知らないフリをし、レイジナとヒュージの関係を続けるか、打ち明けて幼馴染の玲と秀司の関係になるか考えていた。
◆◆◆
sideレイジナ
「カルミーアさん、よろしくお願いします」
「やる気いっぱいって感じですね。最近色々と悩んでたのを考えると、振られて吹っ切れでもしたのかな?可愛い後輩を傷付けられたなら……そいつは、許せないな」
「クスッ。貴方は私の父親ですか?そもそも振られてません。今は返事待ちですが、伝えたいこと言ったら悩んでたのが嘘みたいに気持ちが軽いんです。優勝したら、ずっと一緒ってお願いを聞いてくれるらしいので、譲ってくださいね」
「20歳の女性に負けたら、生きづらいんだけどね。それなりの力を見せてくれたら考えてあげるよ」
「では、お手柔らかに願います」
「君の心の強さを見せてもらうね」
口上を述べ、10メートル程離れ向かい合う。緊張もしない。恐れもない。ヤケにもなってない。ただ勝つ事を信じて相手を見据える。
「始めっ‼︎」
審判の声が響く。
先手必勝。その言葉に相応しい攻撃が双方から放たれる。しかし、魔導は若い方が大量の魔力を流しやすく、年齢を重ねるごとに魔力を循環することに体に負担がかかる。
2人の魔力量は拮抗している。つまり、レイジナの方が有利なのだ。
初めは技術と経験の差で勝っていたサリバンも徐々に攻撃が当たり始める。一方無傷のレイジナは威力より、相手の意識をそらし、詠唱の時間を作ろうとしているため、回避にも意識が回せる程余裕がある。そしてついに、サリバンの魔力媒体であるブレスレットにひびが入り、留め具が壊れた。
「マズイッ!!」
媒体なしでも魔導を発動させることは可能だ。しかし、威力やコントロールはさがる。意識がそちらに移るのは愚かではあるが、魔術師ならば仕方があるまい。
しかし、その隙をレイジナが見逃すはずもなく、無詠唱で妨害をする。選んだ魔導は使い慣れた【敵魔導発動妨害】だ。魔力を動かしにくくし発動を遅らせる。呪術師の本職なのだ、効果は大きい。
「ぐっ。重、過ぎる。まっ、【魔力よ、霧散したまえ】っ」
魔導師主席が思わず声を出す程のものを無詠唱で発動させた事を褒めるべきか、攻撃魔導師でありながら呪術で本職の掛けた効果を薄めた事を褒めるべきか。
しかし、その一瞬でレイジナは既に詠唱を終えていた。
【炎よ、全て燃やせ。地よ、槍にて貫け。稲妻よ、駆け抜けろ。闇よ、喰い散らかせ】
サリバンがいた場所に炎が燃え上がり、数十本の槍が飛び、雷鳴が轟き、闇に覆われた場所は崩壊した。死体も残らなかったのか?いや違った……
……我が仇を撃て!反撃】
魔導で上空に避難していたのだ。そして、レイが天を見上げると彼が最も得意と公言する魔導が発動した。
【反撃】
それは直前に受けた攻撃の倍の威力で攻撃するもの。しかし、止めを刺す時以外発動させる気にすらならない程魔力を使う。魔力を使い切った彼は怪我は負わなかったものの地面に墜落してしまった。つまり、これを防げばレイの優勝となる。
「キャーーッッ‼︎」
しかし、全力の攻撃を倍にして返されたのだ。全てを防ぎきることは出来なかった。