第14話 選抜戦開始
正月も明け上水月になる頃、国家魔導師主席選抜戦が開かれる為、訓練が自主練にシフトした。レイ曰く、
「この国で1番強い魔導師を決める戦いだから、地位に興味はないが優勝はしたい」
とのことだった。 レイらしい。
でも、なんだか最近、彼女の様子が変だ。何かに気がつかないふりをしていて、表情が辛そうだ。慰めてもいいのだろうか?
玲ではないのに……
もし、玲なら義眼の時に気づいたはずだろう。だから、君が言うつもりになるまで、僕は君を待ち続けるよ。
◆◆◆
中水月15日 国家魔導師主席選抜戦1日目
今日は選抜戦初日だ。選抜戦と言っても出場者は15歳から40歳の国家○○魔導師だけなのだが、それでも100人もいるのだ。1日では終われない。だからレイの出る最初の試合も2日目で、今日は開会式に参加するだけだ。
開会式は順調に進行し、最後に初出場から最後まで優勝の座を守り続けた、レイジナの養母ミーシャ・カーベインが演説した。
「この良き日に国家魔導師主席選抜戦を執り行えることに喜びを禁じえません。今年こそ、天を欺く人が出ないことを祈ります」
今年こそということは不正による失格者は毎回出てるのか。
「攻撃魔導師の皆さん、攻撃魔導は練度を上げ易いですが、その分サボった人との差が大きくなります。きちんと練習してきた人だけだと思いますが、もし鍛錬を怠っている様なら、今日からでもきちんとした訓練を行うように。
防御魔導師の皆さん、他と比べて練度を上げにくい魔導ですが、戦争あるなしに関わらずとても大事な分野です。成果は見えにくいですが、見えないからこそ守れたものもあります。守りたい気持ちを大切にしてください。
付与魔導師の皆さん、皆さんの実験や発見によって国民の生活が更に良くなっていきます。その成果を見せてください。皆さんは、この様な場では不利ですが、閃き次第で、優勝も可能です。諦めないで、思考を回してください。
呪術魔導師の皆さん、呪術は1番機転が利く魔導です。攻撃と呪術だけ、法律で規制されている事からもわかると思います。あくまでも、人を守るために力を育ててください。魔導を見れば皆さんの心は、一目瞭然です。
他の魔導師達もそうですが、自らの力に溺れた人に幸せは訪れません。人のために力を使うから自分も他人も幸せになるのです。他人の為に培った力を思う存分発揮してください」
流石、と零す声はどちらかの声か。レイは不敵な笑みを浮かべて上等だとでも言いたげな表情だ。虎視眈々と優勝の座だけを狙っている。
◆◆◆
中水月16日
今日はレイの初戦だ。選抜戦は、魔導はその中でも攻撃・防御・付与・呪術の4分野に分かれるので、それぞれの分野ごとに予選を行う。昨日は攻撃魔導と、防御魔導の2つが予選を終えた。今日は付与魔導とレイの呪術魔導が予選を進める。
呪術魔導師だけでも25人もいるのだが、国家呪術魔導師主席は前回の予選優勝者なので、予選には出場せずに、予選決勝のみ出場となっている。
予選だけで4ブロックに別れ、各ブロックの優勝者での本選への出場権を巡って争うのだが、同時に同じ物を呪術による物体干渉のみで作り、速さと綺麗さを競うルールとなっている。他の分野の魔導も同じような内容だった。レイはもちろん、予選準決勝まで相手に圧倒的な差をつけ続けた。
予選決勝では全く同じタイミングでほぼ同じ出来のお題に沿った(というより本物以外に見える人いるのかレベルの)物を提出した為、急遽採点項目を増やしたのだが、同点になるという正に異例な結果になった。
10分程結果を議論し続け、詠唱時間が短く、詠唱の文字数が少なかったレイが優勝し、本選に駒を進めた。
38歳の予選ブロック優勝者達の最年長が19歳と半年の女性に負けたから、観客がかなりザワザワしていた。
◆◆◆
sideレイジナ
「本選出場おめでとう!レイの作ったドラゴン凄かったよ!本当に動きそうだったもん」
「ありがとう、秀司。でも、表彰式から少ししか経ってないのにこんなにたくさんの料理よく作れたね」
「朝のうちに下ごしらえしておいたから、ほとんど焼くか、盛り付ける程度で終わったんだ」
(もう、お前は完全に主夫だな。私より料理上手くなってるし。金ランクになったら直ぐにでも独り立ちできる。いや、もう本人がその気になればいつでもできる)
はぁ、とレイは息を吐いた。魔力が少なくなると魂が弱くなるって師匠が言っていたからそのせいかな。心に闇がまとわりついて来る。
「レイ、悩みがあるなら俺に言ってよ。俺はレイに頼られたいと思うし、君を守りたいと思ってる。だから頼ってくれ」
その言葉はイジメに悩んでいた玲に掛けた言葉と酷似していた。だが、決定的に違うのだ。
その言葉は助けてくれた
『レイジナ・カーベイン』に向けた
言葉で、
守らなければならない
『松川 玲』に対する
言葉ではなかった。
言える訳無い。この醜い心は見せられない。
異世界に生まれ変わっても、シュウくんが好きでずっと側にいて欲しいなんて。
彼は生きるための力がついたらこの家を出て行く。
私が嫌だと思ったとしても。
私はもう『玲』ではないのだから、彼をここに縛り付けてはいけない。
側にいて欲しいからもう教えなかったとしても彼はすぐにでも銀ランクだろうが金ランクだろうが辿り着いてしまうだろう。だけど、しゅう君じゃないヒュージになら一つだけお願いしてもいいかな。
「もし、私が国家魔導師主席になったら、ずっと私の側にいてくれないか?」
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