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呪術師と迷い人は異世界で再会する  作者: Y.A.&H.S.
第2章 異世界生活は快適ですか
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第11話 『アクアマリン』の冒険者

 

 ランクアップ試験の1ヶ月後、俺は青ランクになった。その為、登録後2年足らずで3ランクアップの天才としてを二つ名を拝銘する事になった。


 青ランクというのも、三属性魔導を使った上にあの大量の水を無詠唱で作るには高い技術が必要なので、紫から更に青に上がったのだ。二つ名は銀ランク以上で貰うのが一般的なので、また話題になっている。


(レイジナさんはどこまで教えるなんだろう。同い年……いやギリギリ年下とも言えるけど、雇い主で師匠とはいえ、さん付けはどうなんだろう)


 四属性持ちなので、どの属性でもない動植物、花、宝石、星のどれかになるだろうと言われた。花と宝石は女性限定だと思うんだが……


 ちなみに、レイジナさんは最高ランクの金なのだが、国家魔導師になる際に主席で卒業した為、既に『呪術師』の二つ名があり、これ以上は持てないらしい。


 ◆◆◆


 拝命式は会議室で行われた。ギルドマスターが入室するように言い、それに合わせて扉がゆっくりと開く。背筋を伸ばし右手を左胸に添え、礼をする。顎を軽くひき、優雅に見えるように何度も練習させられた姿勢を保ち、15.6歩歩き、ギルドマスターが座る社長机の前で跪く。


  ギルドマスターと言えば、某魔法魔術学校校長のような外見の魔法使いのイメージが強い。ゲーム内なら絶世の美女のパターンもあるが、ここではどちらでもなかった。


 だいたい30代から40代程で顔に大きな傷を負っている。大きな猫に引っかかれたような傷だが、生々しく闘いの日々を語っている。それでも顔の傷さえ除けば、THE・貴族の細マッチョでダンディな赤髪翠目のおじ様だった。


「冒険者・ヒュージは『聡明』な頭脳にて無詠唱で水属性を使いこなし、『勇敢』な心で人々を守らんとする。その目は海の如く『沈着』さを失なわぬ。正に、この名を授けるに相応しい者である。よってここに、青ランク冒険者・ヒュージに『アクアマリン』の二つ名を与えよう」


 ギルドマスターが言い終えたところで頭を更に深く下げる。


「私にそのような名をお授けくださいまして、感謝の意を言い表わません。『アクアマリン』の名にふさわしき者に成れるよう、より一層精進して参ります。」



 その後、俺が言葉を発する事はなかったが、細かい動作をこなすので精いっぱいだった。拝命式がなんとか終わり、俺が退室する時にチラリと見えたギルドマスターとレイジナさんの顔はどちらも満足そうだった。


 ◆◆◆


「疲れた〜〜。もうやだ、なんであんなのしなきゃダメなの⁉︎めっちゃ緊張したんだけど〜」


 家のソファをボフッ、ボフッとはたくと、

 ハァとため息が聞こえ、チョップされた。


「お前は初等部の学院生か」


 初等部は小学校のようなものだったはず……

 ん?てことは『お前は小学生か』って言われたのか……


「残念ですけど、俺は高等部でしたし、レイジナさんより年上です」


 するとなぜか「ククッ」と笑われた。何がおかしいんですか?と聞くと、


「その年下に実質居候してる奴が金ランクになるまで私の弟子という事を忘れているからな。これ程愚かなこともなかろう」


 そこでニヤニヤという言葉がぴったりだった表情が一変し、獲物を見つけたライオンのような笑みを浮かべた。


「嫌だといっても、金ランクまでは育てるからな。修行は覚悟しとけよ」

「鬼だー。レイジナさんは鬼だ」

「なんとでも言え。居候兼弟子に言われて凹むような精神は持っておらん」

「なんか、そういうとこ玲に似てるなぁ」


  レイジナさんは目を見開いた。そして、しばらくの間沈黙が続いた。十数秒後、ようやくレイジナさんから口を開いた。


「玲とは誰だ?」


 俺は名前を聞いただけで、懐かしくて、愛おしい彼女が瞼の裏に浮かんできた。塾の終わりに街灯の少ない道を歩いていた思い出と言えるかも定かではない記憶の一つ。


 空は黒が多くなりつつあり、山際には星が2つ3つ輝いていた。残り少ない赤が彼女の綺麗な黒よりの茶髪を更に美しく照らし、赤よりのチョコレートブラウンに見えるその髪は初めて会った時のレイジナさんと全く同じ色合いだったんだよなぁ。


 ガラスのように空き通っていて、薔薇のように綺麗だけど危なっかしい。にも関わらずフワリとしていて気持ちいい不思議な声の持ち主は、門の前でニコリと笑って、たった三文字だけを残して行く。




「またね」




 あの日に聞けなかったその言葉に


 あの日に見れなかったその姿に



 たしかに


 疑いようもないほど、


 俺は惚れていたんだ。



 レイジナさんの声が震えていたような気もするが気のせいだろう。溢れ出てくる彼女との懐かしい思い出と悔しかった事故の記憶が俺の喉を震わせこう答えていた。


「秀司の幼馴染で、『松川玲』って名前の女子です」

 

 そうか、と俯く声は哀しそうだった。

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