第10話 ランクアップ試験〜sideレイジナ〜
ヒュージが握りしめている巾着?の中身が気になったので聞いてみる。
「その袋の中身はなんだ?」
「幼馴染の遺品です。義眼といって義肢の1つです。……引かないでくださいよ」
巾着、もとい首飾りの中身は私が使っていた義眼だった。だが、いきなり出されたせいで『ヒャワァッ』と、変な声が出た。
幾ら魔物解体してるからっていきなり出されたら驚く。
これは間違いなく前世の私が使っていた義眼だ。ということは
『シュージ』は『シュウ君』なんだ。
良かった
身代わりになんか
してなかったんだ。
でも、シュウ君は
『レイジナ』が『玲』
だなんて
気付いてないよね。
◆◆◆
観客席に行くと先客がいた。だがそれは見慣れた癖のあるブロンドの髪。なんら気にせず、話しかける。
「こんにちは、男爵」
「Ms.カーベイン、ご機嫌よう」
振り向いて応えた彼はバルシオン・クリス・ハルマキア次期子爵。Blusionなのでbulonと呼んでいる。私と彼は親(私にとっては里親)が国家魔導師なので昔から交流があるのだ。
情報網が子爵にしてはありえないほど細かく広範囲に広がっており、貴族の噂(むしろ真実)のはこの家から広がっていると言っても過言ではないから恐ろしい。
「ところで僕は子爵なんだけど?男爵(baron)じゃないよ」
「子爵の次なんだから、対して間違ってないでしょ。そもそも、貴方は発音の違いを気にするタイプだったかしら?」
軽口を叩きあえる人は少ないので、なかなか良い家族ぐるみの付き合いをさせてもらっている。まぁ、5歳も年上なので精神年齢的にも合うのだ。
しばらく、雑談という名の情報交換をしているとヒュージが訓練場に入った。
「あっ、ヒュージが来たよ」
「君が呼び捨てにするとは、珍しいね。孤児院から一緒にいるからかな?うん、良い事聞いたな」
なんというか少し怪しい。こういうとこはちゃんと言わないと、後で面倒くさいのは身に染みて分かっている。釘を刺しておくのを忘れたら、噂がいくつも流される。
みんな真偽を調べるから、本当ならすぐバレて、嘘でもそこから別の隠し事がバレる事もあり、本当に釘を刺さないと怖い。
「あら、有事の際に私の人質にでもするつもりなのかしら。それなら、売らない方が良いわよ。私の使用人なんだから、ふつう呼び捨てにするでしょう?」
暗に手を出すなと伝える。
「そうかい?なら、裏が取れるまでは売らないでおいた方がいいか」
(裏が取れなくても売るんでしょうね)
本当にハルマキア家は敵にしてはいけない。力をつけられないように王家が男爵・子爵しか与えないようにしてる噂もある程だ。
4代前の分家の当主が噂を流して、伯爵家を取り潰させたくらいなのだから。しかも、噂を流した犯人の男爵家は、取り潰されなかった。
「ない裏は取れないわよ」
「そうかな?だとしても、彼のことを知りたい、あわよくば紐付きにしたい奴は多いよ。まぁ、本当に裏がなかったらすぐ奪われるから、さっさと首輪を付けときなよ」
「それ、裏がないなら作ってでも売れ。って言いたいの?嫌よ。わざわざ、隙を作りたくないもの」
本当この家には隙を見せられないわ。変な事探られたくないんだけど。そんなことを考えていると、バロンは珍しく苦笑していた。
「いんや。そっちは4割かな。君の虫除けとしての方が6割だ。」
(半分くらいは本音なのね)
というか、なんで虫除けが必要になるのよ。
「何虫の?」
「そりゃあ、決まってんじゃん。『君を妻にしたい虫』のだよ」
養女とはいえ、長年の間国家魔導師主席を務め上げたミーシャ・カーベインの一人娘で天才呪術魔導師。
しかも、四属性持ちで、容姿端麗、温和な性格ながらも冷静な判断を下す頭も持つ。
付け足すなら、王女も羨む程艶やかなチョコレートブラウンの髪と星空のような瞳を持つ君を妻にしたい人は少なくない。
そこまで一気に言い切るとグイッと顔を近づけ、
「僕以外にも君を気になっている人は結構いるんだよ」
これで情報収集癖があることを知られて無ければ、堕ちる女性もたくさんいただろうに。でも残念。
「ふーん、そうなのね」
貴方に興味はないの。すると、わざとらしく傷つきましたアピールをしてくる。
「ちょっと、流さないでよ。本当そういうとこどうなの?」
ほっぺた膨らましても無駄。貴方にはこれぐらいの扱いでちょうどいいでしょう。
ああ、もう始まるわね。
◆◆◆
シュウ君。いやヒュージは凄いなぁ。まだ2年も経ってないのに大分自由自在に操れるようになってる。
私だって三属性魔導が使えるようになったのは、養子になってから3年もかかったのに。ちょこっとだけ嫉妬もしちゃうけども、ここまで教えたのは私だと思うと、思わず頰が緩む。
(あっ、こっち向いた。100点満点だよ。よくできました)
手を振るとヒュージは嬉しそうだった。
なんだか、部活の剣道の試合を見に行った時みたいだね。『付き合ってんのか?』なんて何度もからかわれたんだよね。懐かしいな。
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