第9話 ランクアップ試験
レイジナさん指導のもと訓練を受けるようになって一年と5ヵ月程経つと、魔導は時空を除けば全部の属性を使えるようになった。そして、3つだけだと誤魔化すにも限界があった。
その為、(属性を持つ人と暮らすと千組に一組程の割合でその属性が増えるそうなので、不自然ではない)地属性が増えた報告を3週間程前にした。
すると、『紫の試験』を行うとギルドから連絡があり、明日実際に地属性の魔導を使い合否を決める。
◇◇◇
20歳の孤児院出身者が登録後二年足らずで『紫の試験』を受けるのは珍しいとのことで、かなりの話題になっている。
ランクアップ試験があるのは白から黄色、赤から紫、青から銀になる時なのでそれぞれ『黄の試験』『紫の試験』『銀の試験』と呼ばれている。
『紫の試験』は新人を終え中堅と呼ばれるようになるランクなのでこれより上のランクでやっとギルドのみんなに仲間認定される。
♢♢♢
レイジナさんの説明を要約するとこんな感じかな。
翌日、ギルドに行くと好奇心に満ちた視線に晒された。少し怖くて義眼を角狼(ウルフィニウスという種族らしい)の毛皮に包んだ手作りの首飾り(巾着風)を握りしめた。
緊張を察してくれたのか、受付嬢のミーアさんが案内してくれた。二階に着くと、
「ヒュージさん、試験者は奥の突き当たり右の会議室で待機してもらうことになっております。カーベイン様はご見学なされるのでしたら、三階に観客席がございますのでそちらへどうぞ」
ミーアさんが下に戻ると、レイジナさんに質問された。
「その首飾りの中身はなんだ?」
なんでそんな事聞くんだろうと思ったが、素直に答えた。
「幼馴染の遺品です。義眼といって、義肢の1つです。……引かないでくださいよ」
義眼を取り出して見せると『ヒャワァッ』と、がっつり引かれた。
(素材回収で解体する時は平気っぽいのにこういう所は普通の女の子って感じだな)
って思ったのは秘密だ。
◆◆◆
会議室で一通り説明を受け、訓練場で実技の試験を受ける。地属性と今現在使えるものの中で一番難度の高い魔導を撃つように言われた。まずは地属性で槍を造りだすか。
【大地よ、我に力を与えよ。その槍は、全ての敵を打ち滅ぼさん。我が手の内に来たれ。そして、我が敵に粛清を。大地の槍】
3メートル程の大きさにした槍は銀色に輝いていて、握るとしっくりとした。穂先には細かな燃え上がる炎のような模様が彫ってある。
【集え、火の精霊。火が現すは死と再生。死は我らが肉体を滅ぼし、魂に再び生を与える。地をかけ、空を飛び、海に戻りて新たな生は死に向かう。炎は我が敵の魂を導きて、新たなる地に連れ行くだろう】
柔らかな光の火の玉が浮かんだ。俺は手をかざして上から槍の穂先に押し付けるような動作をする。火の玉が穂先と重なったところで、穂先の模様をなぞりながら魔導を【写す】。
【炎が宿るは強き意志を持つ者のみなり。我が願いはただ一つ。我が敵を打ち滅ぼせ】
彫刻部分は血のように朱くなった。魔導が写った事を確認して、的を無属性の無詠唱で狙い撃つ。槍は的の藁人形に吸い込まれるように飛んでいった。
だが、ここで予想外が一つ。思ったより的が燃え過ぎたのだ。時間も惜しいので、無詠唱で水を大量に出した。
火は鎮火したが、的は跡形もなかった。少しやり過ぎた感からあるが大丈夫だろうかとレイジナさんのいる観客席を見る。すると、穏やかな笑顔で優雅に手を振っていた。最悪の事態は避けられたならいいか。
玲が剣道の試合を見にきた時のようだと思ったのは気のせいか。……駄目だな。最近どうも『レイジナ』さんと『松川 玲』が重なる。命の恩人と幼馴染を重ねるとか、俺の頭はどうなってんだか。失礼にも程がある。
試験官の人に結果を聞くと、
「文句なしの合格だ。無・火・地の三属性混合魔導に、無詠唱であれほど大量の水を瞬時に出したんだ。むしろ青ランクにしてもいいだろうと報告してやるからな」
試験官からお墨付きを貰い、ギルドで合格祝いをしたのだが、見知らぬ人も多かったので騒がしかった。




