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第11話 「ああ、異変だ。良いことか、悪いことかはわからんがな」

「俺か」


 狙われていると聞いてもアランは平静であった。

 探索者という稼業だ、危険は常にある。命を狙われているくらいで騒いでいれば探索者とは言えない。


「冷静ですのね」

「騒いで何になる。無駄なことはせんよ」


 気になるのはフェイではなくアランを狙う理由だが、郎党を殺されたことに対する復讐だろう。

 相手はアランの容貌など知らないため、強者を狙ったというところか。


「おお、アランの兄貴はすげーな! オレだったら、慌てちまうぜ! やっぱすげーや! 本当、尊敬ですわ」

「……おい、リゼナ。こいつどうにかならんか」

「追い払っても戻ってくるんですから、どうしようもないですわ」


 ギルドに来て報告している間も付きまとっていたのだからどうしようもない。どんなに邪見にしても気にせずついてくるのだ。

 まるでブーメランのような男だった。それでいて一切悪意というものがない。何か企んでいるわけでもなく、完全に素でこれなのだ。


 それでいてどこか所作に品が感じられるあたり、根っからの無頼の輩ではないだろう。


「ジェード、何が目的だ?」

「目的? そうだな……オレ、英雄になりたいんだ。だから、リゼナの姐御やアランの兄貴についていきてえって思ってる」

「俺は鋼級だぞ、おまえと同じだ」

「いやいや、リゼナの姐御との決闘を見たぜ、あれを見たら誰だってあんたを鋼だからって馬鹿にするわけねえ。まあ、ここで会ったのも何かの縁ってやつだし、オレ、ここにいま知り合いいねえからパーティーも組めなくて難儀してたところなんだ」

「なるほど……ふっ、ははは。なるほどなるほど。大成するやも知れんな。リゼナ、おまえに任せる」

「押し付けましたわね」


 ともあれ風呂から上がれば迷宮へ行く時間だ。チームは鉄級となり迷宮に挑む。

 相変わらずジェードはついてきているし、フェイもいる。最初、フェイは置いていくつもりであったのだがアランから引き離そうとすると泣き出すのだ。


 これにはアランも困り果てた。しかし、そこにジェードという丁度よい人材がいた。

 ならばフェイを彼に任せ、迷宮へ行くことにしたのである。


「いやぁ、兄貴の娘さんを任されるたぁ、光栄だ。任せてくだせぇ兄貴! このジェードが責任持って護りますんで! 護衛にはなれてますんで」


 そう言うわけでアランの後ろをとことこついて行くフェイとその後ろをついて来るジェードという光景が生まれた。

 護衛には慣れているという彼の言葉通り、気の配り方などしっかりとしている。その言葉に偽りはないのだろうが、動き自体は素人じみていた。


 そんな彼を横目に、リゼナがアランへと今日の予定を尋ねる。


「――そう言えば、色々ある過ぎて今日の依頼について話していませんでしたわね。今日はどうしますの?」

「鉄級の依頼は迷宮第1層での採集が主だ。迷宮に慣れることが目的だな。慣れぬ子がいるのなら、丁度良かろう」

「この子、本当に連れていくつもりですの?」

「某らに狙われておるなら、街中よりもここの方が良かろう。市勢に被害がでらんし、なにより備えられるからな」


 そう言いながら迷宮1層の依頼をこなしていく。リゼナも迷宮内には慣れており、採集もこれまで依頼をこなして来たため問題はない。


「ぱぱ、あれなあに?」

「あれか。あれは光岩虫と言ってな、暗闇で光る虫だ」


 アランは、迷宮の松明を新しいものに替えながらフェイに説明してやる。

 第1層は古代の遺跡だ。すっかり探索がしつくされており、現時点での完璧な地図もある。

 松明も均等に配置されており、年若い鉄級冒険者たちが時おりやって来ては、松明を取り替えている。


 しかし、松明はすべてを照らすほど優秀ではない。端の方はまだ暗い。そこに光岩虫はいる。

 死者の魂が光らせていると言われている彼の虫は闇の中、揺らめく淡い光を発していた。


「こいつが出るってことは、迷宮で何か異変があるってことだ」


 この虫は非常に臆病だ。生きた人間がいる場所には一切出現しない。

 彼らが人前に出るときは、必ず何かが起きている時だ。


「異変?」

「ああ、異変だ。良いことか、悪いことかはわからんがな」


 大抵の場合、悪いことしか起きないのだが無為に不安にさせることもない。わかっているものだけが警戒しておけばいい。

 迷宮第1層、そう手強いモンスターが出るわけでもない。一部の例外を除いて。その例外にぶち当たるようならば、相当に運が悪いと諦めるほかない。


「じゃあ、あれは?」


 次にフェイが指し示したのは、扉だった。かつての遺構の名残。木製の扉は、今もしっかりと原型を残している。

 打ち付けられたプレートにあるのは、資料室。迷宮第1層にはこのような部屋がいくつもある。かつての文明時代を示す記録であるが、中身はめちゃくちゃな代物だ。


 当時の記録など残っていない。あるのは、乱れに乱れた文字の羅列。昔の学者が無理やりこじつけようと数十年をかけなんの規則性も見つけられず、意味のないものと捨て置かれたそれだ。

 今更、資料室に入る意味などない。だが――。


「アラン」

「ああ、いるな」

「え? え? なんです、なんかいるんすか?」

「?」


 気がついていないのはふたりだけのようだ。


「放っておくわけにもいかんが、何が出るかわからんからな。ここは、一旦引いて、準備を整えてから来るぞ。変な特性持ちにあたってみろ目も当てられん」

「あら、日頃から準備をしているのでは?」

「あいにく、必要なものを必要な分、あとは多少の予備くらいだ。もし、本気でヤバイのに当たった場合、足りるものではない」


 せめて必要量の倍くらいは持ち込みたいとアランは思っている。


「なら、問題ありませんわね」


 だが、リゼナは止まらない。何かいる、それがド級の危険であるとわかっていて放置することなど彼女には出来ない。

 慎重に中の気配を探る。視覚、木の扉に阻まれ用を成さない。聴覚、無音だけだ。嗅覚、特段引っかかるものはない。味覚は使わない。触角、不穏な気配。第六感、感知。


 第六感は、霊府、冥界、異なる階層に通じる感覚だ。ならば、この中で待ち受けているのは少なくともそういった異界存在ということになる。

 そういった存在は手ごわいのが相場だ。そして、厄介な特性を持ち合わせている。


 例えば、石化の特性といったものが該当する。下手をすれば視線を合わせただけで死をもたらすといった異形すらも存在する。

 故に、アランの意見は撤退。無謀と勇気は違う。あたら命を散らすより、撤退し万全を期した方がよい。


「まあ、当たって砕けろですわね」

「このじゃじゃ馬め」


 リゼナは即座にその扉を蹴破り中へと飛び込んでいく。やれやれとあきれた様子で、アランも中へ入り、戦意を察知し、ジェードも武器を構え続く。フェイはさらにその後ろだ。


 中は多くの書架で埋まった狭い部屋だ。モンスターの気配はない。しかし、何かがいる感覚だけは確かだった。


「そこですわ!」


 己のセンスに任せ、リゼナは突きを放つ。かすかな手ごたえ、躱された。

 しかし、わずかに漏れ出した妖気に、相手の隠形も解ける。


「見たことないモンスターですわね」

「……こいつは、鬼か」

「知ってますの?」

「ああ、昔、出会ったことがある。こいつの特性は――」


 放たれる咆哮(ハウリング)。鬼の姿がブレ、三体へと増える。


「即死だ」


 身にまとった闇の気配が、増大し遅いかかってくる。

 逃げるのは不可能。しかして、その技を受けることはすなわち死を意味する。彼らは、地獄の獄卒。生者にとっては最も相反する敵だ。


「なら、当たらなければいいだけですわ!」


 リゼナは、危険に飛び込むように鬼へと立ち向かう。鬼の持つこん棒の間合いの内側、剣の間合いへと入る。

 もはやそれは疾走というよりは滑空と言えた。極低空を飛行するが如き歩法で、後からの起動であったはずが、容易く鬼たちの速度を振り切り先に間合いに到達する。


 相手より速く斬りつけ殺す。もともとファインアット剣術は防御などいらぬと常日頃からほざくような剣術流派である。

 相手より速ければいい。それだけを考え、貫通力と速度を極限まで研ぎ澄ませれば、まさしくリゼナは風となる。


「セイッ!!」


 放たれた突きは無拍子の間から一拍に区間に五つ重なる。頭蓋、頚髄、心臓、肝臓、股間。人体の急所へ素早く放たれた一閃。

 しかし、相手は異界から現れたモンスター。こういった種は大抵の場合――。


『GRAAAAA――!!』


 そういった部分に中身はない。

 攻撃に何ら痛痒を浮かべず、鬼のこん棒がリゼナの顔面を通り過ぎ、髪の一房、二房散らしていく。


「相変わらず、面倒ですわね!」


 さらに連続する闇をまとったこん棒を剣でいなしながらリゼナが叫ぶ。

 一撃でも貰えば死ぬというのに、まだ余裕がある。そうでなければこれほど短期間に銀級にまで上がっていない。


「ならば、これはどうかしら!」


 今度はさらに間合いの奥へ。拳の間合いへと踏み込み、リゼナは殴りかかった。

 身体強化を施された拳は、岩石を打ち砕くほどだ。それが相手の顔面に炸裂し、鬼にたたらを踏ませる。中身はないが、動きは人間とそう変わりはないのだ。


 わずかに空いた距離、そこは剣の領域だ。すかさず放たれる五連撃。突きではない斬撃は、相手の四肢と首を一本一本丁寧に切断していった。


「これで終わりですわよ!」


 魔力とともに妖気が剣へとまとわりつき、炎を上げる。切断され空中にある四肢をリゼナは焔にて灰燼と化した。


「まったく、思い切りが良すぎだ」


 アランも剣を抜き、振り下ろされたこん棒を受け、そのまま鍔競り合う。接近した拍子に鬼の足を踏みつけ、頭突きを食らわせる。

 同時に左の手刀を鬼の手首に叩き込む。身体強化と硬度強化を合わせた二重強化により、アランの肉体は鋼鉄と変わらない。


 その手刀はまさしく斬鉄を可能とする名刀と同義だ。殴りつけたはずの手首は、その先から切断されていた。

 鬼の体の強度は決して低いわけではない。


「えっぐいですわねぇ。なんですの、あの強化率。どうしてアレであそこまで慎重なのかわかりませんわ」


 リゼナですらその硬質の皮膚を切断するのに、割合全力を出さざるを得なかったほどだ。だというのに、手刀で切り裂くなど規格外にもほどがある。


「なに、年の功のようなものだ」

「あなた、老け顔ですから忘れますけど、まだ若いですわよね、それなりに。自分で言ってましたわよね」

「さてな。そら、させんさ」


 鬼の手首から闇が噴出し、落ちた手を再生しようとするがさせるはずもない。

 神気をまとった剣は闇を打ち払う効果がある。闇を断ち切れば、もう再生は出来ない。


「あとはひとつひとつ細切れにしていけば終わりだ。おまえたちは食べる部位もないから上に、消滅するからな」


 無駄なく、関節ごとに裁断する。最後に首を断ち切れば、粉になるように鬼は消え失せた。


「は、せい、やあ!!」


 資料室の書架をなぎ倒し、槍を振るスペースを確保しながらジェードは鬼と一騎打ちだ。背後には、守るべきフェイがいる。


「燃えるぜ、まさにお姫様を守る騎士って感じだ!」


 ジェードのテンションに呼応するように彼の技の速度が上がっていく。愚直に放たれる槍の突きは、命中こそしないが、書架を破壊し壁を砕く。

 威力は十二分。しかし、当たらねば意味がないと鬼が笑う。


「なら、こいつはどうだ!」


 体を回し、遠心力を槍へと伝播させての薙ぎだ。勢いよく放たれた回転薙ぎを鬼はしゃがみ込んで躱す。


「なに!?」


 躱されたと同時に、鬼は駆けていた。振りぬいたジェードの眼前にこん棒がある。


「ぐぁああ!?」


 叩き込まれる闇のこん棒。矮躯でやせぼそった鬼の一撃はそう強くはない。せいぜい顔面の骨が砕ける程度である。

 最も怖いのは、そこに付与された即死の特性。当たれば最後、それは冥府へと叩き込む。


 顔面に食らったジェードは書架へと突っ込み書物を散らす。死んだ。紛れもなく。そう確信する鬼は、次の獲物フェイへと狙いを定め。


『ゲ――?』


 投擲された槍に磔にされた。槍は、フェイの顔面すれすれに突き刺さっている。

 フェイはそれを無表情で見ていた。


「いってし、あっぶねえ、娘さんに当たってたらどうすりゃいいんだよ、オレの馬鹿! まあ、当たってなかったし良いか」


 なぜ無事なのか、鬼が認識する前に、殴りつけられた槍に莫大な気が流し込まれ、鬼は爆発四散した。


「ふー、これで良しっと」

「なかなかやるが、即死の対策をしていたのか?」

「んー、あー、いや、まあ、そんなとこだな。兄貴も流石だな! 手刀で鬼の手首を落としちまうなんて!」

「神気も使えるからな」

「おー、そいつはすげーや!」

「ともかく、これで終わりですの?」

「ほかに気配は感じない。終わりだろう」


 戦闘を終了した一行は、そのまま依頼の品を探すべく探索へと戻った。


遅くなり申し訳ない! リアル忙しい。

でも頑張ります。

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