その十二 ケツァル鳥
マヤの神話と伝説
ケツァル鳥
マヤの古代の神々の息子であったククは、メキシコの南東の熱帯の密林で後年棲むようになった、色彩鮮やかな羽根を持った美しい鳥になったという伝説があります。
沈黙が支配し、この世に人間が居なかった頃、神々とその息子たちは宇宙を創造するために集まって話し合いを持ったと言われています。
彼らは地面、山、川そして谷を誕生させること、森、断崖、茂みそして草ぐさの配置分布に関して話し合っておりました。
何日かかけて話し合いは一致し、とうとう完璧な創造を完結させることとなりました。
それにもかかわらず、おちびさんのククは神々によって決定されたことを認めようとはしませんでした。
彼の表情と漆黒の頭髪は彼の非順応主義を反映させるばかりでなく、その当時の地球の創造物と共に暮らすために地上に降りたいという願望をも映し出していました。
そんな風であったので、彼はカバヒル(天の魂)に懇願しました。
「なぜ、今、地球と呼ばれているところに降りて行ってはいけないのですか?」
天の神はこの若者の言いたかったことが理解できずにいました。
「あなたがたご自身がお作りになられた鳥や獣たちと遊びたいのです」
そのおちびさんは言い張りました。
カバヒルは大変驚き、即刻グクマツ(天の権力者)、ツァコル(建設者)、ビトル(形成者)、テペウ(支配者)、アロム(前創造者)とかカホロム(誕生神)といった神々を集め、会議を開きました。
小さなククの懇願にもかかわらず、神々は即座に願いを却下しました。
しかし、チラカン(太陽)の祖父母であるイシュピヤコックとイシュクマネはその若者の願望を受け入れました。
もうそうなった以上は、残りの神々はククが地上への旅を始めることに同意することとなりました。
このようにして、ククは貴重な石で覆われて、衣服も着ずに、また身を守るものも持たずに地上へ下り立ちました
その地上に住んでいた創造物は全てとても美しかったのですが、その若者の肌の滑らかさは小さな潅木の茂みの厚さと対象をなすものであり、さえないものではなかったのです。
鳥とか猛獣とかがククが通っていく様を見たり、果ては元々からあった湖でさえもククを見ましたが、あまりにククが美しいのに驚いておりました。
マヤの歴史家は夜毎にその若者が透明な水を湛えた川の流れで水浴していたと書いております。
その当時、猛獣たちはククを激しく愛し、貴重な石を彼に捧げました。
この若者ククはそれらの心遣いを感謝してその肌をそれらの石で飾りました。
エメラルド、翡翠といった石の輝きはククの肌に映え、水の輝きとも相まって交じり合い、洗練された光景を形作っておりました。
ククは彼を讃え、愛してくれる鳥、爬虫類、猛獣たちの間で暮らすことに幸せを感じていたのです。
しかし、時が経つにつれて、尊大さとナルシシズム(自己陶酔)がククの心を支配するようになりました。
ククはもはや動物たちと遊んだり、共に暮らすといった時間を過ごさず、小川の水の中や姿を映し出すものであればどんなものでも、自分の姿を映し出して眺めることに時間を費やすばかりとなりました。
そんなククを見て、神々は不安になって集まりました。
ククを緑のマント、すなわちグッグと呼ばれる天の館に呼び戻し、地上に住む別な生き物を創ろうという決定を行いました。
これらはとうもろこしと木を司る神によって創造されました。
ククは実に激しく怒りました。
彼は自分以外の何人たりも地上に住むことを欲していなかったのです。
彼はこれらの木から作られた不幸な生き物は彼の類稀な美しさの前では衰弱して倒れてしまうような十分な知性を持ち合わせていないと思っていました。
この傲慢な若者は神々が彼に、シェコテオグアは眼を引き抜く、カマロツは頭を切り落とす、ツクムバラムは骨をすり潰し、神経をずたずたにし、最後にはコツバラムが彼をがつがつ食ってしまうぞと警告したにもかかわらず、神々に対する不満を明らかにしました。
ククは自分の美しさを失うこと以外には絶対的な恐怖は感じませんでしたが、自分に対する神々の無邪気な決定に関しては恐れを感じました。
この若者は日に日にグッグの住民に怒りをつのらせていきました。
ついに、天の神々は彼の祖父母を地上に特使として下り立たせ、その若者を説得させようとする決定をしました。
祖父母が地上に降り立った時、小さなククは密林を完璧な隠れ家として選び、茂みに隠れました。
しかし、とうとう、ツクムバラムが空から彼を探し出し、祖父母の前に彼を引きずり出して来ました。
イシュピヤコックの懇願やイシュクマネの涙もこの高慢な若者には効き目がありませんでした。
そして、神々は見せしめの罰をこの若者に与えることにしました。
伝説は、翌日動物たちは新種の鳥が現われたのに驚いて、その鳥を見るために集まって来ました。
その鳥は灰色の羽根と長く延びた翼、長い尾、緑に輝く冠羽で飾られた頭を持った美しい鳥でありました。
その時から、その凛凛しい鳥は木の枝に棲むようになりました。
鳥の意味深長な眼を見て、猛獣と動物たちはその鳥が以前は誰だったのかを知りました。
お前はクク、神々の息子。
メキシコと中央アメリカの山岳の森を美しく飾るために変身されられた者よ。
- 完 -