おかっぱの少年
草間と”おかっぱの少年”との付き合いは長い。
初めて彼を見たのは、草間が幼稚園の頃である。
当時田舎に住んでいた彼は、家から数分の処にある公園の横の、池の前である日、”見知らぬ少年”がうずくまっているのを見かけた。
優しい草間少年は、仲間はずれ(と言っても、周囲には誰も居なかった)になっているその”少年”に、「一緒に遊ぼう」と声を掛けた。
”少年は”驚いたように素早く顔を上げ、草間少年を見ながら、確認するかの様に自分を指さした。
それを見た草間少年は、満面の笑みで「うん!」と答えてしまった。
それ以来、四六時中家の何処でも、彼の視界に写り続ける仲になった。
勿論、寝ても覚めてもそこかしこに見える”少年”に、草間は何度も両親や、挙句の果てに医者にまで相談をした。
しかし、大人達の判断は冷酷で、ヤレ夢だの、ソレ成長のせいだのと、彼が迚も納得できない様な説明をし、片付けようとした。
にっちもさっちもいかなくなった草間は、最後に彼を見た精神科医が言った「精神疾患による幻覚」という言葉を信じることにした。
全ては、自分の脳が見せる幻だ。
そう信じ込むことで、草間の心はつかの間の平静を得ることが出来た。
薬も出され、これで”おかっぱの少年”から開放されると安心した。
しかし、”病”は”異常”という言葉を侍らせ、快方の兆候が全く見られないそれに、次第に苦しめられることとなった。
草間は10年近く、自身が他の人に比べ”病”という”異常”を持ち続けているというコンプレックスを、”おかっぱの少年”を見るたびに考えさせられるていた。
”おかっぱの少年”は日頃、ただにこにことし、草間の視界の何処かに映り込むだけである。
しかし、そんな一見無邪気そうな少年が、怒る事がある。
それは”悪い人”を見つけた時だ。
”悪い人”を見つけると、少年は幽霊特有の薄暗い怒りを醸し出し、草間に”こいつは悪い奴だ”と示すのである。
先程の面接官の様に。
しかし、草間の方は”悪い人”を教えられたからといってどうすることも出来ないし、そもそもそれが本当に”悪い人”なのか、どう悪いのかも分からない。
おまけに、草間にとって”おかっぱの少年”は、頭が作り出した幻なのだ。
そう思っている彼が、少年の主張に対してまともに取り合うことはない。
何もしない草間に業を煮やした少年は、挙句の果てに”いたずら”をするのだ。
それは、草間の目を晦まし、僅かの間前後不覚にする程度であるが…