表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

第5話「優としての準備」

思っていた以上に長くなってました。

「さ、座って頂戴。……あ、何か誤解しているかもしれないけど、別に怒るとかじゃないからね?ちゃんと買うならどんな人でも関係無いから」

「はぁ……」

 本庄香織と名乗った店員は、優基が警戒しているのを見て倚子に座るように促し、片隅にあった冷蔵庫からお茶を出してくれた。

「元々はモデルをやってくれないかな~と思って声を掛けたんだけど……本当に男の子なの?」

 やはり気になるのはそこらしい。

「……そうですよ」

「その格好でその声だと信じられないわね……ねぇ、何か証拠になる物はある?」

「え~と、学生証ならあります」

 優基は財布から学生証を取り出して本庄さんに手渡す。

「う~ん、確かに男ね……って高校生!?うわ~見えないわ……」

 やっぱり驚かれてしまった。

「……因みにいくつだと思いました?」

「年齢の事?……実年齢を知った後だと悪いけど、正直に言って小学生だと思ったわ」

 ……本庄さんの驚きようからそうだとは思いました。

「所でモデルというのは?」

 とりあえず学生証を返して貰いつつ、声を掛けた理由のモデルが気になった。

「あぁ、モデルというのは基本的に店の広告のチラシの事よ。見たこと位あるでしょ?」

「あぁ、新聞に挟まってるあれですか」

 確かに新聞の折り込み広告でたまに見かける。

「そう、それよ。やっぱり服はその物単体よりも誰かが着ていた方がイメージしやすいってのがあってね。普通は芸能事務所所属の新人とかをアルバイトみたいな感じで来て貰ってるんだけど……」

「もしかして人がいないとかですか?」

「今は大丈夫なんだけど、今の子との契約が6月末迄なのよね。後継者を探しているんだけと、中々条件に合う子がいなくてね」

「それで俺に声を掛けたと」

「そうなんだけど……ゴメン、今だけでも良いから『俺』って止めてくれない?違和感が半端ない」

 まぁ今は女の格好だし『俺』だと違和感が凄いか。余り他人にはバレたくないから従っておこうか。

「えっと……私で良いですか?」

「うんOK。何なら『あたし』でも『優』でも良いけど」

「……私でいきます」

 いったい本庄さんは何を期待しているのやら。

「話を戻すわね。募集はしているんだけど今の所条件を満たす子がいないのよ。それで店に来た人にも声を掛けてるの。緊張しているみたいだったから冗談のつもりで男でもって言ったんだけどね」

「そしてお……私は自爆したと」

 今の格好で外見で男だと気付かれないのは利点だが、ちょっと……いや、かなり虚しい。

「まぁこちらの事情はともかくとして……どうして女装してここに来たの?」

 まぁそこがそこが気になりますよね。

「実は……」

 信じてもらえるかはともかく、優基は正直に事情を話す事にした。


「……中々愉快な状況になったわね」

「私もそう思います……」

 とりあえず一通り昨日の出来事を話した訳だが、本庄さんには呆れられてしまった。というか、自分も未だに信じられないでいる。

「それで麻美さんだっけ? の妹として過ごす為の服が欲しいと」

「その通りです」

「それで店まで来たけど、選べずに困っている所に私が声を掛けたと」

「はい……」

 そして自爆して女装だとバレてしまい、事務所に連行された。

「あぁ、そんなに怯えなくて良いから。むしろ喜んで良いと思う」

「……え?」

「私が全面的に協力してあげる」

 そうはっきりと本庄さんは宣言した。

「……本当ですか?」

「えぇ、服じゃなくても良いわ。必要なら今後も相談に乗ってあげる」

 それは確かに優基としても有難いのだが。

「頼りにしても良いのですか?」

「勿論。但し私と2つ約束」

「約束……ですか?」

 何だろうか。

「一つ目は女装は今回の目的のみにする事。更衣室とかトイレとかは女性専用のスペースは基本的に使わない事。まぁ麻美さんと出掛けたりする事もあるだろうから絶対とまでは言わないけど、本来なら犯罪行為だからね?」

「りょ、了解です……」

 まぁそれは当然だよね。

「二つ目は相談にのる代わりに今後も内の店を利用して欲しいのと、出来ればモデルの事も考えて欲しいなぁ~と」

「……それ重要ですか?」

「重要よ。売り上げが上がれば店としても助かるし、本当にモデルは切実な問題だから」

「……因みにモデルの頻度や報酬は?」

「そういえば説明して無かったわね。およそ月2回、撮影する量にもよるけど4~6時間で日当8,000円と、撮影で使用した服から1組持ち帰れるわ」

「結構条件は良いんですね」

「内みたいな小規模チェーンとしてはギリギリみたい。それでどうかなモデルは?というか高校の校則でバイトはどうなってるの?」

 確かに保護者の同意もだけど、それも重要か。

「校則については大丈夫ですよ。週2日以内かつ週10時間以内なら申請だけでバイトOKですから」

 正確にいうと1年生最初の定期試験後から3年生の12月末迄がバイト可能期間となっている。最初の定期試験は先週終わったので、教室内では結構バイトの話は出ている。

申請範囲を超える場合でも、担任による面接こそあるが、試験で赤点さえ無ければ基本的には許可される緩い物らしい。

その代わり申請や許可無くバイトが発覚した場合は退学も有り得るそうで、その辺は入学時に説明があった。まぁ高校生の小遣いレベルなら申請範囲でも充分なので、バイトをしている生徒の8割は申請範囲なんだとか。

後は長期休暇中の短期バイト(海の家や引っ越し、年賀はがきの配達等)も勤務時間に関わらず申請のみで可能だそう。

「じゃあ是非ともモデルの事は親に相談してみて頂戴。期待しているから」

「余り期待はして欲しく無いですが……話すだけはしてみます。そもそも親が海外から直ぐ帰って来るとは思えませんが……」

 仕事中毒というべき両親は、国内にいる時でもお盆の時期に帰ってくるか怪しいレベルだったし。

「まぁ一応保護者の承諾書を渡しておくわ。後は個人的になるけど、連絡先を交換しましょうか」

「あ、はい。お願いします」

 本庄さんはスマホを、優基は一度ガラケーを取り出すが、少し考えてスマホにする。

「あら、2台持ち?」

「メインはガラケーですけど。殆ど通話とメールしかしないんで」

「ならどうして2台持ち?」

「簡単にいうと外出中のネット環境とアプリですね。最近は殆どがスマホ前提なので、ガラケーだとパケットの通信料が高く成りがちで」

 そこで半年程前に親に相談して、格安SIMのスマホを入手した経緯がある。データ通信専用でも良かったのだが、万が一に備えてという事で通話も対応している。

とは言え通話は数える程しか使っていなかった(親にしか教えていない)ので通話は解約可能となったら切ろうか考えていたが、ここにきて優の連絡先として化ける事になった。

 入学早々のオリエンテーションで麻美さんと同じ班になった(担任によるくじ引きなので完全なる偶然)関係でガラケーの連絡先は交換しているので、もしスマホの番号が無ければそこから優=優基がバレた可能性もあった。

「ガラケーがメインなら連絡先はそっちの方が良いんじゃない?」

「それも考えたんですが……どうせならスマホの方を優専用にしてしまおうかと」

「あぁ、使い分けね。確かにその方が良いかもね」

 お互い連絡先を入力する。これで偶然ながら相談相手が出来たのは大きい。

「さて、思ってより時間が掛かってしまったわね」

「え?あ、本当だ……」

 気付いたら事務所に入ってから1時間が経過していた。

「あの、仕事中でしたよね。大丈夫でしたか?」

「え、別に優ちゃんが気にしなくても平気よ?素直にモデルのスカウトしてたけど保留になりました~って言うだけだから。それよりも服を揃えるんでしょ?」

「そうでしたね……ってモデルの可能性は限りなく低いと思いますけど」

 そもそも地域限定のチラシとはいえ、不特定多数に女装姿が見られてしまう。

「まぁそこは上司説得の為の理由だから。それよりも服を選びましょうか」

「そうですね。ではよろしくお願いします」

 事務所を出て店内に戻る。本庄さんは上司に事情説明の上、優基の服選びを全面的に手伝ってくれた。……下着も含めて。

ジュニアブラとショーツ3組から始まり、キャミソールやTシャツ、薄手のカーディガンに色々とデザインの異なるスカート(全て膝丈以下のミニスカート。細かい名称も説明されたが覚えられず)、デザイン的に避暑地のお嬢様といった感じのワンピースと靴下やハンカチ等の小物類、トートバッグとほぼ全身コーディネートとなった。

因みに試着はトータルで5時間にも及び、昼過ぎに店に着いたのに外は既に日が沈んでいて、その事に気付いてびっくりした。……試着中優基は本庄さんのおもちゃ状態だったのは言うまでも無い。

色々と一気に揃えたというのも理由だが、厚意で割引き(2割引き)までして貰ったにも関わらず総額で5万円を超えた。そして――

「じゃあ頑張ってね」

「は、はい。もう挫けそうですが……」

 そう、おもちゃ状態から解放されて買い物が終わった今の優基の格好は、膝丈のレースの多い白のワンピース。勿論下着も着けている。胸の下を締め付けられるような感覚の違和感が半端ない。

「でも麻美さんと絶対に会わないとは言えないのでしょ?なるべくリスクは減らすべきよ」

「それはそうですが……」

 そう、最初は着てきた服――麻美さんから借りた服で帰るつもりだったが、せっかくなので買った服を着ていく事になった。

勿論優基は拒否したのだが、麻美さんと会ったらどうするの?と言われ、万が一にも会ってしまったら説明が大変というのも理解出来るので買った服から選ぶ事になったのだが。

「非常に足元が心許ないんですが……」

 何せワンピースなので、触れ合う太股の感触といい直接足に感じる風の感覚に慣れない。オマケに腰の部分はゴムやベルトが無いので下着の感触しかなく、何も穿いていないような感じがして下半身が非常に心許ない。

「スカートはそれが普通だから慣れなさい。それにこれが一番丈が長いのだから」

「それはそうですが……」

 本庄さんの言うとおり、着ているワンピースは本日買った服の中では丈が長い。と言っても膝丈だけど。

「まぁ、何かあったら遠慮無く連絡しなさい。可能な限り協力してあげるから」

 本庄さんは原則として月曜日と木曜日が休みで、それ以外は午後から店にいるのが基本だそうで。いつでも頼って良いからねと、非常に心強い宣言をしてくれた。

「今日はありがとうございました。なるべく自力で解決するようにしますが、何かあったら頼りにしますね」

「じゃあ頑張りなさい。これからもご贔屓してね。出来ればモデルも」

「余り期待されても困りますが……」

 両手にいっぱいとなった服を持ち、駅へと向かう。駅前のパン屋の前を通った時、微かに漂ってくる匂いに釣られてお腹が鳴る。……周りに聞こえてしまっていないか気になり、顔が赤くなるのがはっきりと感じる。

「う~ん、今日は疲れたし何か買って帰ろうかな……あ、駄目だ。カレー作ったんだった」

 最近は土曜日の昼にカレーかシチューをまとめて作り、土日はそれをメインで消費する生活にしている為、まだまだ大量に残っているのだ。

「予算的には買っても大丈夫だけど……我慢しますか」

 先週作ったチキンカツがまだ残ってたよなと思いつつ、自宅に急ぐ事にする。優基は可能な限り自炊もしているのだった。

優(基)は女服を手に入れた!と言う事で協力者もゲット。とは言え余り登場させる予定は今の所ありませんが。活動報告にも書いた通り、暫く週1(土曜日)更新でいきますよ。次回は10月7日更新です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ