第3話「この際、思い切って」
今回で導入部分が終了します。
麻美さんの部屋はすぐに見つかった。2階に上がって左側のドアに「ASAMI」のプレートがかかっていた。ノックをすると中から「入っていいよ~」と声がした。「おじゃまします」と声をかけ、麻美さんの姿を見て優基は固まってしまった。麻美さんは小さなリボンの付いたパステルピンクのブラとショーツだけの姿だった。麻美さんも着替え中だったようだ。
「ご、ごめんなさい!」
数秒後、何とか復帰した優基は部屋を出ようとするが、麻美さんに腕を取られてしまった。
「気にしないでいいよ~女の子同士だし」
すみませんスカート穿いてますが男です……なんて言える筈も無く。もうこうなったら女の子で通してしまおう。怪しまれない為にも視線を麻美さんに向ける。しかし今度は胸から目を離せない。
「あの、流石にじっと見られると同性でも恥ずかしいのだけど……」
「ご、ごめんなさい!」
優基は慌てて目をそらす。まぁじっくり見てしまったので記憶にもしっかり定着したと思う。
「そういえばまだ自己紹介してなかったね。私は斉藤麻美、山手南高校の1年生だよ。あなたは?」
「えっと、岡田優――」
って本名言ったら流石にバレるだろう!
「ゆうちゃんか~、可愛い名前だね。どんな字書くの?」
……あれ?バレてない?ってそうか、優だけなら女の子の名前に聞こえる。名字もそこまで珍しくはない。それに幼稚園の頃とか「優ちゃん」呼びされていた時期もあったっけ。
「……優しいの優です」
「優ちゃんのイメージぴったりだね。年齢は?」
「小学6年です。誕生日はまだなので11歳です」
今更高校生ですとは言えないので、麻美さんと出会った時は私服だったので小学生ということにした。
「あ~まぁそれなら胸は気になるか。周りの子も膨らみ始めてない?」
「……そうですね。早い子は昨年当たりから……」
自分の小学生時代の記憶を頼りにそう答える。というか会話がちょっと生々しくなってきた。それと早く着替えをして下さい。麻美さんはまだ下着姿のままだった。
「胸はどうしても個人差が大きいからまだ気にしないで良いよ。私も生理や胸が膨らみ始めたのも中学1年の終わり頃だったし」
「えっ、そうなんですか?」
流石にビックリしてそらしていた視線を麻美さんの胸へ向けてしまった。ということは2年程で現在の豊満な胸が出来たという訳で……
「触ってみる?」
「……えっと、はい?」
「優ちゃんならいいよ。自信を持つ為にも」
そう言って麻美さんは背中へ手を向けると、何とホックを外してブラをとってしまった。掌では包めそうもない膨らみに先端にはピンクの小さな――ってこの状況は色々マズい!!
勿論見た目と一致しないが優基だって男子高校生だ。女子の身体には勿論興味はある。しかも目の前の相手は入学以降学年問わず告白されまくっているという(そして全員撃沈している)学校のアイドル的存在だ。麻美さんの自室に入る、下着姿を見るとこの時点で学校の男子から半殺しは覚悟しなければならない状況だというのに、更に胸を直接触るだと?
優が男だとバレたら恐らく社会的に抹殺されてもおかしくない。触らない方がいいに決まっているが、すみません、欲望には勝てませんでした。ゆっくり手を伸ばすとショーツだけの麻美さんの胸に手を乗せる。
(うわ~これが麻美さんの胸か)
優基の手が小さいという事もあるが、掌では包めない大きさであるにも関わらず、重力に負けることなく膨らんでいる。そして肌理の細かいすべすべの肌に柔らかい感触。ほのかに感じる体温も心地良い。
「……くしゅっ」
「あ、ごめんなさい。もういいので着替えて下さい」
小さく麻美さんがくしゃみをした所で我に返り、胸から手を離す。長く触り過ぎてしまったようだ。大分暖かくなってきたとはいえまだ5月だ。室内とはいえ裸に近い格好だったわけだし身体を冷やしてしまったかも。
ブラも付けて着替えをして、ようやく麻美さんを落ち着いて見る事が出来た。タンクトップにホットパンツと完全に部屋着というべき格好だったけど。
「あの、すみません。もう帰ります」
「うん、分かった。……あっ、優ちゃん、一つお願いがあるんだけど……」
そう言って麻美さんは優基に対して一つお願いをしてきた。
「ねえ、優ちゃんの事を私の妹として接して良い?」
「……え~と、どういう事でしょうか?」
麻美さんからのお願いという事で少し身構えていたが、予想外の発言に理解が追いつかない。妹?
「私は一人っ子なの。だから昔から妹が欲しかったんだけど、お母さんは私を産む時結構無理したみたい。命は助かったけどもう出産は出来ないんだ」
……結構重い話だ。
「だから昔は結構お母さんを困らせちゃった。もう産めないって理解してからは勿論言ってないけど……優ちゃんって私の理想の妹そのものなんだよね」
り、理想の妹ときましたか。……でも麻美さんの気持ちも分かるから。
「……良いですよ」
「……本当に?」
「はい。そういう意味ではお……私も一人っ子ですし、兄や姉は憧れてました。まぁ親が再婚でもしない限り不可能なので、諦めてますけど」
俺と言いかけ慌てて理由を述べる。そう、優基も一人っ子故に麻美さんの気持ちも理解出来る。因みに両親共仕事中毒で滅多に帰ってこない上に優基の事も放任気味だが、何故か夫婦間の仲は良く離婚はまず有り得ない。
「ありがとう優ちゃん。早速なんだけど……私の事、『お姉ちゃん』って呼んでくれないかな?」
う~ん、同級生に対して『お姉ちゃん』……か。
「……はい。麻美お姉ちゃん」
ちょっと葛藤はあったが、思い切って呼んでみる事にした。
「ありがとう。私のわがまま聞いてくれて」
そう言って麻美さんは優基に抱きついてきた。身長差故に麻美さんの胸に顔を埋めるような体勢になってしまい、男として反応しないように心を落ち着かせるのでいっぱいいっぱいだった。
こうして優基は学校のアイドルと言っても良い麻美さんの擬似的妹ポジションをゲットした。でもこれは後戻りが出来ない関係の始まりでもあった。
次回は少し間隔を開けて31日更新予定です。