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[望みが、ないのか? それとも本当に生きる希望がないのか?]
どちらかと言えば後者が当たっている。望みがない人間なんていない。俺は死ぬことが望みだし、それを変えようとも思えない。
生まれ変わるだとかまっぴらごめんだ。希望なんてものがあったらとっくにその話に乗っている。
「俺さ、なんで生まれてきたのかわからないんだよね。なんで親に大切にされず、友達って思えた相手には裏切られてるんだろうってずーっと考えてた。生まれ変わってまた繰り返すのが怖いんだよ」
毎日が恐怖だった。毎日むかついた。
とことん殴られ、痛いのに大怪我しないと死なない人間の体が。
状況によって変わっていき、裏切る存在の者達が。
一番は、死ぬことが望みなのに自分から逝けない弱虫な心が。
俺は皆と同じじゃないのかとも考えたけど違った。どう見ても俺は普通だった。イケメンでもなく、不細工でもなく。
勉強は得意だと思ってたけど、褒められるどころか破り捨てられ笑われるからそこまで得意とは言えないのかも。とりあえず普通だったんだ。
「もういいんだ。満足なんだよ人生に。死ねるならすっきりするんだよ」
何もない上を見上げる。純粋な黒。俺の心みたいだ。
[なにもかも諦めると? 苦しくないのか。悔しくないのか。差別され蔑まれ妬まれたのに、欲を見せたりしないのか。諦めるのはまだ早い。新しい世界で何も望まないのならそれでいい。しかしそこは光で溢れてるぞ。お前が見てこれなかったモノがたくさんある]
俺が見てこなれなかったモノ。きっと手に入れることすらできなかったモノなのだろう。
「それはどんな……っ!? 眩しい!」
男が空中に緩く手を振ると急に周りの暗さが一転し真っ白包まれた。眩しくて瞼を閉じてもチカチカする。
[目を開けてみろ]
男が言った瞬間光が止んだので、言われるままに目を開けた。
「嘘だろ……」
目の前には無限の草原が広がっていた。太陽の光を浴びてキラキラと輝く自然の草原。空を見上げれば青い空を良く分からない鳥が飛んでいる。
大自然で感じる暖かさは心地よい。初めて外に出た気がした。ずっと部屋の中に閉じこもっていた感覚があったのだ。
[これは魔法だ]
「魔法?」
[私がお前を魔法でここにつれてきた。断じて幻ではないぞ。ここはこれからお前が行く世界の一部だ。空間移動ってやつだ。お前が元いた世界には魔法は無いものだが……これから行く世界には学ばねばならない知識だ]
「魔法を、学べるのか?」
興味が湧いた。物凄く単純だけど、魔法は誰でも興味があると思う。
[魔法以外にも妖精、妖魔の種類や神々の話もされるだろう。それ以上に、ここなら止まった時間も動き出すことができる。恐怖なんてものは誰にでもあるんだ。あるからこそ逸らしちゃいけない。なんなら一歩踏み出して来い。踏み出せない道はない]
黒い瞳が俺を見つめた。温かさがこもった目。物理的なものとは違う別の温かさ。
その温かさになんとなく行ってみてもいいかな、なんて。
自然と、口が動いた。
「……行くよ。そこまで言うなら行く。嫌になったら、死にたくなったら今度こそ死ぬことができるならその時はほっといてくれよ」
死ぬことを諦めたわけではない。嫌になったらまた死ねばいい。
あの時は不可抗力で車に引かれたけれど。
[では、行こう。新しい世界へ]
そう言って男は男らしい笑顔で笑った。
そしてなんか変な言葉? 呪文みたいなのを唱え終えた瞬間に俺の体はまた光に包まれた。
[行ってこい、少年。叶えてこい]
不思議だった。何もかもが不思議でたまらなかったけど、受け止めることにした。
「そういえば、あんたの名前は?」
光に全身が包まれる前に一番気になっていたことを聞いた。
[ん? 名乗ってなかったな。私の名前は--だ]
聞こえなかった。遅かった。飲み込まれて真っ逆さまに俺はどこかに落ちていった。次会ったら聞けばいいか。
そして、これから行く世界は俺にとっては美しすぎたんだ。