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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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第七章 姫君召集 11

十一

 月麿との交信を終え、榎たちは応接間に戻ろうとして、少し躊躇した。

「了生さんに、何て言って断ればいいのかな。あんまり、はっきりと物申すと、悪い気がするし」

 断るにしても、言葉は選ばなくてはいけない。

「でも、了生さん、嘘をついているんでしょう? 曖昧な態度をとっていると、また話術にはまるかもしれないわよ」

 勘繰った顔で椿が忠告してくるが、榎には、どうしても了生が悪い人だとは思えなかった。

「麿が言っていた、昔の嚥下えんげ家は、たしかに四季姫を騙したんだろうけれど、了生さんまで同じ動機であたしたちに声を掛けたとは限らないよ。本当に知らなくて、四季姫を助けろって伝承を信じて、力になってくれようとしているだけかもしれない」

 了生が本当に好意で榎たちに協力しようとしてくれているのなら、あまり乱暴に突っ撥ねる行為は、良心が痛む。

「向こうさんの本心はどうであれ、うちらは断るんやから、負い目を持たずに、正々堂々と話をしたほうがええと思うで」

 優柔不断に迷っている榎に、柊がずばりと言い放った。

 やはり、正直が一番いいか。

 榎ごときが、下手に社交辞令なんてしようとすれば、ボロが出るに決まっている。

 深く考えず、いつも通りにいこう。

 決意を固めて、榎は障子を開いた。

「お話は、終わられましたか」

 中で、茶を啜っていた了生とあまねが迎えてくれた。

「なんや、伝師の御家おいえの方からのご連絡やったとか。お急ぎの用事でしょうか?」

 周から、通信について完結に説明を聞いたのだろう。引き止めては申し訳ない、といった感じで、尋ねてきた。

「いえ、別に、急ぎではないんですが……」

 座布団に座り直し、了生と向き合う。呼吸を整えて、榎は本題を切り出した。

「了生さん。手助けをしていただけると、有難い申し出を頂いて、感謝しています。でも、あたしたちは、あたしたちのやり方で、宵月夜の封印を行おうと思います」

 榎は、勇気を振り絞って、申し出を断った。

 了生は怒りもせず、不快にもならず、落ち着いて話を聞いてくれた。少しだけ眉を顰めて、疑問を顔に浮かべていた。

「俺を、力不足やと思われたんでしょうか。よろしければ、ご理由をお聞かせ願いたい」

「あたしたちの覚醒や修行を手助けしてくれた、伝師の下で働いている人から、嚥下えんげ家について聞いたんです」

 榎は、月麿から聞いた、千年前の嚥下家の行いを、包み隠さず説明した。

 了生は、普通に驚いていた。その表情からは、動揺や後ろめたさは微塵もなく、心底、素直な感情を表に出していた。

 話し終わると、了生は少し俯き、小さく唸った。

「詐欺師、ですか。……初めて聞く話ですんで、何も弁明ができませんが。伝師一族に、そないな話が残っておるんやったら、相当、悪く思われ続けておったんでしょうな」

 ショックを受けているわけではなさそうだが、やはり、意外な話だったのだろう。少し呆然とした様子で、声に今までの張りも、なくなっていた。

「了生さんが、あたしたちを騙そうと思って話を持ちかけてきたとは、思っていません。でも、あたしたちの中にも、優先順位はあります。普段からお世話になっている人の意見を一番に、受け入れたいと思うんです」

 それに、と、榎は続ける。

「伝師や、この世界の未来を守るために、あたしたちは生まれ変わりました。でも、あたしたちが陰陽師として覚醒して、今まで四季姫として戦ってこれた背景には、大事な恩人の存在があります。あたしたちは、他の誰よりも、その人に感謝しています。恩を返すには、その人の考えに従って、封印を完了させるべきだと思うんです」

 月麿の意志を汲むためには、嚥下家の力は借りられない。あくまでも、四季姫と、月麿との力で、完璧な封印を行わなくてはならない。

 榎たちの気持ちを、了生は黙って受け止めてくれた。

「立派なお考えやと思います。俺も、俺自身が知らなんだ、家の事情を知れて、たいへん勉強になりました。いくら伝承とはいえ、そないな疑いのある身分で、四季姫様たちに力を貸そうなどとは、おこがましい考えでした。今一度、詳しく調べ直して、真相を明らかにしたいと思います」

 榎は本当にすまなく思い、身を縮ませた。

 根は間違いなく、いい人だ。なのに、妖怪たちから恨まれて、伝師からも疎まれて。不憫ふびんな立場に、同情したくなった。

 過去の出来事なんて水に流して、伝師ともよい関係が築ければいいのに。

 今は無理でも、きっと、いつかは、そんな願いも叶うだろうか。

「今日は、ご足労頂いてありがとうございました。今後とも、精進させていただきます。いずれ、本当に、四季姫様のお力になれるように――」

 潔く合掌して、了生は話を切り上げた。

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