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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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第七章 姫君召集 8

 四畳半の、小さな和室。中央には、長方形をした木製の座卓が置かれている。長辺の部分に座布団が敷かれ、卓上にはお茶と茶菓子が人数分、並べられていた。

 四つ用意されていたものを、了生が一人分だけ盆に載せて、脇に避ける。周のために用意していたものだ。榎たちは三人並んで、残りの座布団に正座した。

 机を挟んで向かい側に了生が座り、榎たちと向き合う。

「だいたいは、存じていただいていおるみたいですが、一からお話をさせていただきます。ず、なぜ俺が、四季姫様の存在を知っておったのか。詳しく語るためは、この寺と、教えを受け継ぐ嚥下えんげ家の成り立ちから聞いていただく必要があります。よろしいですか?」

 榎たちは頷いた。

 断片的な情報を持ってはいても、榎たちは実際、了生について、何も知らない。

 結局のところ、了生がどういった人物で、何の目的で四季姫を呼び出したのか。

 しっかりと、当人の口から教えて貰わなくては、何も判断できない。

「嚥下家は、この了封寺にて、代々僧侶として仏に従事する生活を営んできました。仏法以外にも、山岳信仰に基づいて、独自の修験を行う、独立した宗派でもあります。開祖は了念といいまして、系統を遡ると、地祇ちぎの分家の末端にも属しております。かつて、この妙霊山の山奥に、隠れた寺を建てて修験者を募り、呪法の修行を行い……」

 了生は、懇々と寺の歴史を語り始めた。部屋に時計がなかったから、どのくらい時間が経過したのか、分からない。だが、榎にはとんでもなく長い時間に感じられた。

 永遠に続くかと思われる、果てしない語りの時間。榎の意識が、徐々に遠退とおのいてきた。

 頭がくらくらして、眩暈めまいがする。話のテンポが心地よくて、とにかく眠い。

 次第にまぶたが重く垂れ下がり、頭が前方に落ちて、机に当たりそうになった。

「……皆さん、聞いていらっしゃいますか?」

 了生の声色が変わり、榎は勢いよく覚醒した。

 話を聞いている最中にも拘らず、榎は眠りの世界へ、まっしぐらに向かおうとしていた。

 慌てて目を見開き、左右を見る。椿も柊も、流石に眠りはしていなかったが、魂が抜けたみたいに硬直して、額に汗を浮かべていた。

 話に相槌あいづちを打つでもなく、微動だにもしない。了生が心配して声を掛けてきても、おかしくない体たらくだった。

 榎は咄嗟とっさに悟る。誰一人として、了生の話をまともに理解していない、と。

「ごめんなさい! なんか、社会の授業を聞いているみたいで!」

 先陣を切って謝った。了生は穏やかに、かつ申し訳なさそうに微笑んでいた。

「退屈でしたか。すいません、分かりやすく、話したつもりやったんですけどね……」

 退屈以前に、難しくてさっぱり分からない。だが、了生も、今以上にハードルを下げて簡潔に話せないらしく、困った表情を浮かべていた。

 いきなり呼び出されて、強制的に話を聞かされているわけだし、榎たちに負い目はない気はする。だが、四季姫にとって大事な話が絡んでいる以上は、理解できない脳味噌を申し訳なくも思った。

「了生はん、ちょっと、タイムええですか?」

 柊が挙手して、頼んだ。一旦、話を中断してもらい、作戦会議だ。

 榎たちは輪になって、了生に背を向け、小声で相談を始めた。

「何や、難しそうな話やで。うちらだけで聞いても、理解できる気がせんねんけど。前フリ長そうやし」

「椿も、覚えていられる自信がないわ。ノートに書こうにも、言葉だけだと、上手くまとめられないの」

 椿はメモ帳とペンを用意して、了生の話の内容を書き出そうと試みていた。だが、話を聞きながら流しで文字を書いていく芸当が意外と難しく、上手にできずにいた。

 普段からの、黒板丸写し学習の欠点が、とんだ場所で浮き彫りに。

 この場はもう、実力ある助っ人を呼ぶしかない。三人の意見は、躊躇ためらいなく一致した。

「了生さん、ちょっと待っていてください! 書記を呼んできます!」

 榎は立ち上がり、部屋の外に出て縁側に走った。

 横たわる妖怪たちの側で、まったりと日向ぼっこをしていた周を立たせて、室内へと引っ張りこむ。周の膝から、床に頭を落とされた宵月夜が怒鳴っていたが、丸無視だ。

 了生の正面の席を周に譲って、座らせる。脇に寄せてあった余りの茶菓子を眼前に置き、準備万端だ。

「――結局、私も話を聞くんどすか?」

 事情を察し、周は微妙な顔をしていた。何といわれても、弁明の余地はない。榎たちは素直に懇願した。

「お願い、さっちゃん! お話を簡単に要約して、説明して!」

「頼むよ、委員長だけが頼りだ!」

「うちの分の茶菓子も、食べてええさかい。な?」

 挟み撃ちにして必死でご機嫌をとり、なんとか懐柔させる。

 周は深く息を吐いていたが、しぶしぶ、頷いてくれた。

「分かったどす。では、了生はん、お話をお願いします」

 机の上に広げられた、椿が用意したメモ帳を開き、ペンを握って構える。周の目つきが変わった。

 了生は頷き、また最初から、寺の歴史を語り始めた。

 難解な、お経にも似た、了生の淡々とした話を聞きながら、周はものすごい速さでメモを取っていく。椿と柊が脇からペンさばきを凝視して、感嘆の表情を浮かべていた。

 榎もしばらく、感動しながら様子を見ていたが、次第に了生の声が子守唄効果を発揮しはじめ、意識が遠退いてきた。

 きちんと聞いておかなければならない使命と緊張から解放されたせいか、榎は一直線に、夢の世界へ向かって落下していった。


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