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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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第七章 姫君召集 7

 了生は手早く、辺りに散らばって倒れている、小柄な下等妖怪たちを拾い集めて、寺の境内へと運んだ。体が自由に動くまで、保護するつもりだ。

 最後に、身動きが取れなくなった宵月夜を肩に担ぎ、榎たちを先導して、歩き出す。

 榎たちは了生の後に続き、寺の敷居をくぐった。

 靴を脱いで、寺の中へとお邪魔する。

 漆喰で黒光りする、薄暗い木造の室内。木材と線香の匂いが漂い、開けた大部屋に金ピカの大仏が置いてある。紫色の幕が張られ、周囲には、木や金属で作られた、沢山の小さな仏像様が集結していた。

 たいてい、寺の内部構造とは、どこも似たり寄ったりだ。榎がお世話になっている椿の家――花春寺の間取りにそっくりで、あまり他所よそへきた感じがしなかった。椿などは、尚更だろう。

 了生に案内されて、縁側の廊下を一列になって進む。客間の前で立ち止まり、少し待つように指示された。

 縁側に宵月夜を横たわらせて、了生は客間へと入っていった。

 廊下からは、日本庭園風の景色が一望できた。山の上だからか、涼しい風が通り抜け、夏とは思えない快適さだ。近くに滝があるらしく、水が勢いよく流れ落ちる音が聞こえてきて、さらに癒された。

 普段ならば、みやびた景色に心を落ち着かせるところだが、今は妖怪たちが陣取って寝転がる、集団合宿場みたいな様相になっていた。全然、落ち着ける雰囲気ではない。

「時間が経てば、変な輪っかも外れるそうどす。良かったどすな、宵月夜はん」

 周は宵月夜に駆け寄り、側に座り込んで介抱を始めた。宵月夜は不機嫌そうな顔をして黙り込んでいたが、つたなく体をくねらせながら、周の膝の上に頭を乗せると、少し落ちつきを取り戻していた。

 あの宵月夜が、自ら周に近寄って行くなんて。榎は意外なものを見たと、複雑な気持ちに襲われた。

 隣を見ると、椿も柊も、物珍しそうな形相で、周と宵月夜を見ていた。思うところは、榎と同じらしい。

「色々と、事情があるんやと思いますけれど、やっぱり、強引に人に危害を加えたらあきまへんで」

 背後から視線を向けられてもお構いなく、周は宵月夜との会話に精を出している。宵月夜を宥めながら、懇々と説教をしていた。

 いつもなら、「人間の指図は受けない」と、突っねていそうなところなのに、宵月夜は黙って周の話に耳を傾けていた。

「宵月夜の奴、大人しいな。黙って委員長の説教を聞いているなんて。何だか、雰囲気が変わった気もするし」

 不思議だ。疑問を通り越して、奇妙にさえ思えた。

「宵月夜さまは、最近では非常に、周どのに心を開いてきておられる。家でも、色々と世話をしてもらったり、よく甘えていらっしゃるぞ」

 周を挟んで、宵月夜の反対隣で横になっていた烏の妖怪――八咫やたが口を挟んだ。

「お前、回復が早いな……」

 他の下等妖怪たちは、ろくに動けない有様なのに、この烏だけは、早くも痺れを克服して、流暢りゅうちょうくちばしを動かしていた。

「体が動かせんくても、口だけは何が何でも動かす。大阪のおばちゃんみたいな烏やな。五月蝿うるそうて敵わんわ」

 八咫の姿を見て、柊は肩を竦めて呆れた声を上げていた。

 やかましい烏はともかく、周と宵月夜の様子を見ていると、謎が深まる。

 先日、宵月夜が白神石を手に入れるために周の気遣いを利用し、道具みたいに扱った。周は気にしていなさそうな態度だったが、きっと傷付いたはずだ。

 当時の出来事のせいで、周と妖怪たちとの関係に溝ができたり、よくない変化が起きているかもしれないと、榎は少し、気にしていた。

 でも、実際に現状をこの目で見てみると、対して悪化している様子はない。

 むしろ、周と宵月夜の距離が、明らかに縮まって見える。

 どうしてだろう。

 宵月夜が、また何か悪巧みを考えているのか。

 それとも、周が宵月夜を大人しくさせられそうな、何らかのアクションを起こしたのか。

 案外、周にマジ切れされて、萎縮いしゅくしているのかもしれない。周は怒ると、すごく怖いし。榎は思わず、鼻で軽く笑った。

 一瞬、嘲笑に反応した宵月夜ににらみを効かされたが、無視した。

 しばらくすると、了生が再び、榎たちの前に姿を現した。

 修験者の装束を解いて、楽そうな藍色の作務衣さむえに着替えていた。頭には手ぬぐいを巻きつけている。

「暑いし、お疲れになったでしょう。お茶を用意しました。皆さん、中へお入りください」

 客間の準備が整ったらしく、ふすまを開けて、了生が顔を覗かせた。

「委員長も、お茶飲んで、少し休まないか?」

「結構どす。四季姫はんにとって大事な話があるんでっしゃろ? 私は、外で妖怪はんたちと待っておくどす」

 誘うと、周は榎たちに手を振り、遠慮がちに言った。

「どうぞ、遠慮なさらず。四季姫様たち、全員に聞いていただきたいんで……」

 了生は引かずに、積極的に招いてくる。どうやら了生は、周も四季姫の一人だと、勘違いしているみたいだ。

 周は慌てた様子で、首と手を横に振っていた。

「私は、四季姫やないんどす。縁あって、一緒に行動しとるだけの、一般人どす」

「ほんまですか!? まずったなぁ。では四季姫は、まだ全員、揃うていませんのか」

 了生は驚き、ばつが悪そうに、手拭に指を突っ込んで頭を掻いていた。

「全員で聞かないと、いけない話なんですか?」

 大事な話なのだとは思うが、一人欠けていても問題ない気がする。もちろん、揃って聞ければ好条件だろうが、秋姫には、合流できた後で教えればいいわけだし。

「できれば、揃っておられたほうが、話は早かったんですが。……まあ、ええでしょう。せっかく来ていただいたんやから、お三方だけでも、耳に入れておいてください」

 了生は曖昧に返事をしながらも、考え直して頷いた。

 榎たち三人は、畳の間に通された。

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