↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
PR
80/331

第七章 姫君召集 1

一

 7月半ば、金曜日。

 梅雨も完全に明け、毎日暑い日が続いていた。

 四季が丘は山に囲まれているため、木が多ければ、蝉も多い。

 けたたましい蝉の鳴き声と強烈な日光を浴びながら、榎は汗を流しつつ、四季が丘病院へやってきた。

 終業式も終えて、明日から夏休みだ。今日は一学期最後の、福祉部の活動となった。

 夏休みの間も、時間があれば個人的にお見舞いに来るつもりだ。でも、学校行事としては、いちおう区切りの日なので、少し気持ちを引き締めた。

 405号の個室に辿りついた榎は、ノックをして、静かに扉を開いた。

「こんにちは、綴(つづる)さん。お元気ですか?」

 中に入って、挨拶をする。だが、綴からの返事はなかった。

 綴はいつもと変わらず、ベッドに上半身を起こして、座り込んでいた。榎の来院には気付いている様子だが、何やら、真剣に考え込んでいる。

「どうしたんですか? 深刻そうな顔をして」

 具合でも悪いのだろうか。榎は心配して、綴の耳元で再度、声を掛けた。

 綴は急に榎に向き直り、真面目な顔をして言った。

「榎ちゃん。決して、早まってはいけないよ。慎重に考えて、行動するんだ」

 突然の忠告に、榎は呆気にとられる。

「何の話ですか? 早まるって? 何を慎重に、考えるんです?」

 綴は困惑している榎をしばらく見つめていた。やがて、体の力を抜いて、深く息を吐いた。

「……その様子だと、君は今日の朝刊を読んでいないみたいだね」

 綴は、がっかりしていた。よく分からないが、新聞を読んでいないせいで、幻滅されたのだろうか。

「すいません。新聞とか、文字の多いものは苦手で。番組欄と、四コマ漫画くらいしか……」

 榎は慌てて、言い訳を連ねて謝った。綴は、ベッドの横に置いてあった、添付の地方新聞を手に取り、広げた。広告などと一緒に、地域一帯の新聞に挟まれている、薄い新聞だ。

 紙面の下のほうに、赤いマジックで、印がつけられていた。

「見てごらん。情報欄の、三行広告なんだけれど」

 榎は、差し出された新聞に目を通す。印のついた三行広告欄の一角を、凝視した。


 四季姫様

 来る七月三週目の土曜日

 四季が丘妙霊山(みょうれいさん)までお越しください


 本当に三行の、簡潔な文章だ。だが、この短文につめ込まれた内容は、榎にとってかなり衝撃的なものだった。

「何ですか、この文章……。四季姫って、やっぱり、あたしたちに向けて書かれたものなんでしょうか?」

「だろうね。四季姫の存在を知る何者かが、君たちを誘っていると、考えるべきだろう」

 文面に書かれた七月三週目とは、明日の土曜日を指している。かなり急なお誘いだった。

「妖怪――が、新聞に投稿なんて、する筈がないですしね。でも、あたしたちや綴さん、奏さんの他に、四季姫を知っている人間なんて、思い当たりません」

 正体の分からない誰かが、四季姫を名指しで、呼んでいる。

 何のために?

 分からない。自問自答しても、答など出なかった。

 考えの及ばない領域の問題が、様々な想像を駆り立てる。榎の心は、不安と好奇心の挟み撃ちにあっていた。

「相手の正体も意図も分からない以上、軽はずみな行動はしないほうがいいとは思うけれど……。この機会を逃したために、何らかの不利益を被る危険性もある。難しい判断だね」

 綴は榎以上に、現実的に、真剣に考えてくれていた。

 ただの悪戯ととるべきか。それとも、何らかの悪意ある罠か。

 でも、もしかしたら、協力的な味方かもしれない。どれも心当たりがなさ過ぎて、可能性を絞り込めない。

「榎ちゃんは、どうするつもりだい? この誘いに乗るかい?」

 綴は心配そうな表情で、意見を求めてきた。

 榎は少し考えてみたが、頭の中では大体、考えが纏(まと)まっていた。

「あたしは、行きたいです。呼び出してきた人に会って、話を聞いてみたい。警戒していても、何も変わらないですしね。もちろん、四季姫の皆とも、相談しようと思いますけれど」

 好奇心が勝った結果、出た答だった。だが、綴の言う通り、相手がどこの誰だか分からない以上は、注意して行動しなくては。騙されて誘拐された、なんてオチになったら、洒落にならない。

 もちろん、四季姫として呼ばれているからには、榎一人で決めるわけにもいかない。椿と柊の意見も聞いて、慎重に動くつもりだ。

 綴は榎の考えを聞いて、納得して微笑んだ。

「……君にはもう、頼もしい仲間がいるんだから、大丈夫だね。僕が心配する必要もなかったか」

 少し、寂しげな笑みだった。綴はいつも、榎たちのために色々と気を配り、的確なアドバイスを与えてくれる。でも、基本的に謙虚な性格なのか、出過ぎたと感じると、すぐに身を引こうとする癖があった。

 だからいつも、側にいても遠く感じる。榎には、もどかしい距離感だった。

「綴さんに気に懸けていただいて、とても嬉しいです。ありがとうございます」

 誠心誠意込めて、榎は綴にお礼を言った。

 綴の言葉が不要だなんて、思わない。むしろありがたいくらいだ。綴が教えてくれなければ、こんな新聞の連絡事項なんて、誰も気付かずにスルーしていたに決まっている。

 頭の造りや、表現の乏しさの問題かもしれないが、榎の感謝の気持ちは、綴には、なかなか通じない。綴ともっと気楽に、いろんな話をするには、どうすればいいのだろう。

 榎の今の、切実な課題の一つだった。

「気をつけてね。くれぐれも、無茶はしないで」

 綴は笑顔を浮かべて、榎を応援してくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。よろしかったらクリックお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング。

ツギクルも参加中。
目次ページ下部のバナーをクリックしていただけると嬉しいのですよ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。