表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
8/331

第一章 夏姫覚醒 7


 祈りを捧げた直後。榎の体を、真っ白な光が包み込んだ。

「なんだ!? 体が、すごく熱い……!」

「なんと、この輝きは……! 覚醒の光か!?」

 月麿は眩しそうに両目を手で覆い、指の隙間から榎を見つめて、声をあげた。

 全身を、痺れに似た感覚が襲った。痺れが治まったら、次は体が火照って、頭がいつもより重く感じた。

 朦朧もうろうとする意識の奥から、榎の知り得ない何かが、浮かび上がってきた。

大きな力を秘めた言の葉だと、無意識に理解した。

「いと高き 夏の日差しの 力以て 天へ伸びゆく 清き百合花」

 口が勝手に動き、よくわからない言葉が紡がれていった。まるで榎の体が、榎のものではなくなっていく気がした。

「――夏姫、ここに見参!」

 榎は勝手にポーズをとり、叫んでいた。

わっぱ、お主、女子おなごであったのか……!」

 月麿の言葉で我に返り、驚いた。手に握って構えているものが、木刀ではなく本物の白銀の剣になっていた。

 驚いて体をのけ反らせ、さらに驚いた。肌に触れる着衣の感触が違うと思ったら、榎は赤い袴と、幾重にも重ねられた、緑色や赤を基調としたカラフルな着物を身にまとっていた。前に社会科の教科書でみた記憶のある、平安時代の十二単(じゅうにひとえ、と呼ばれる着物に、よく似ていた。とても重量感がありそうなのに、まったく重くない。とても身軽に体を動かせた。

「綺麗な着物……。髪、長い髪が頭についてる!」

 思わず叫んだ。榎の後頭部から、長い髪がポニーテールとなって、足元近くまで伸びていた。

「どうなっているんだ、いったい!?」

「夏姫よ! 今のお主ならば、退魔の力を使って貧乏神を倒せる! やるのじゃ、一撃必殺じゃ!」

 パニックになる榎に、月麿が激を飛ばした。何がなんだかさっばり分からないままだったが、貧乏神を倒せる、という言葉に反応し、無意識に剣を構えた。

「――空蝉うつせみの如く散れ。〝竹水ちくすい斬撃ざんげき〟!」

 自然と体が動き、榎は貧乏神に剣を振りかざした。剣はぼんやりとした青白い光を帯びていた。

 先ほどとは違い、白銀の刃に物質が触れる感覚がした。一刀両断のもとに、榎の剣戟は貧乏神を切り捨てた。切っ先から、美しい水飛沫が、辺りに飛び散った。

 貧乏神はおぞましい悲鳴を上げて、倒れた。傷口から真っ白い煙を立ち上らせ、その場から跡形もなく消え去った。

「あはれなり! 見事な一撃!」

「倒した。あたしが、貧乏神を……」

 剣を下ろし、榎は改めて、すっかり変わってしまった立ち姿に呆然とした。

 嬉しそうに駆け寄ってくる月麿が視界に入った。瞬間、我に返った。

「っていうか、なんだよ、この格好は! どういうわけか説明しろ、知っているんだろう、お前!」

 思わず月麿の襟首を掴んで、勢いよく前後に振った。

「ぐふあっ、ややめぬか、まま麿を掴んで揺らすとは、ぶぶ無礼な!」

 榎はわめく月麿を問い詰めようと、躍起になった。

「へえ、貧乏神を一撃とは。なかなかやるな、夏姫の生まれ変わり」

 突然、頭上から声が落ちてきた。榎は動きを止め、声のした方角へ顔を上げた。

「誰だ、偉そうに、知った風な口をきく奴は!」

 視線の先には、榎と同じくらいの年の少年が木の又に腰掛けて笑っていた。長い黒髪を後ろで東ねた、同じく黒い着物を身に纏った、目つきの悪い少年だった。

 背中にはえた、烏を連想させる真っ黒な羽が、少年が人間ではない事実を、物語っていた。

「……お前は、さっきの鳥人間!」

「変な名前で呼ぶんじゃねえ。俺の名は、宵月夜(よいつくよ)だ」

「宵月夜……? お前も、貧乏神と同じ、妖怪ってやつなのか?」

「あんな、人間に取り付かないと何もできない低能な輩と、一緒にするな。俺は、妖怪を使役する権利を持つ妖怪だ。格が違うんだよ」

 宵月夜は少し不愉快そうに表情を歪めたが、すぐに榎を見下す形相で、笑みを浮かべた。

「お前が俺を、黒神石こくじんせきの封印から解いてくれたんだってな。一応、感謝しておくぜ。お前には千年前から言いたかった文句が山ほどあるが、礼も兼ねて今日は大人しく引いてやる。次にあったときには八つ裂きにしてやるからな、覚悟しておけ」

 律儀なのかどうかは分からないが、宵月夜は榎に礼らしい言葉を伝え、大空へと飛び去っていった。榎は遠くなっていく黒い影を、唖然と見上げるしかできなかった。

「くっ、お主、夏姫として覚醒したはよいが、とんでもない失態をやらかしてくれたのう。ことの重大さを、理解しておるか!?」

 同じく宵月夜を見上げていた月麿が、榎に怒鳴りつけてきた。

 我に返った榎は、月麿の襟首を掴んでいる理由を、思いだした。

「ことの重大さ? 分かるかぁ―!! 一から百まで、納得のいく説明をしろ―!!」

「分かった、分かったから、揺らすでない!」

 再び、月麿を前後に振りまくって、大声を張り上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。よろしかったらクリックお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルも参加中。
目次ページ下部のバナーをクリックしていただけると嬉しいのですよ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ