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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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第六章 対石追跡 10

 さっそく、月麿のいる庵へ向かおうと、片付けと支度を始めた。

 みんなが慌しく動いている中で、榎はふと、宵月夜の気配に気付いた。

 高い松の木の頂上から降りてきて、低い紅葉の木の股に、腰掛けている。相変わらず、呆然として、遠くを見つめて物思いに耽っていた。

 白神石には、榎たちの心配とは裏腹に、妖怪たちの手に渡れば大きな脅威が訪れそうな危険はなかった。

 宵月夜は単純に、再び封印されないためにと、四季姫の妨害として、石を探していたに過ぎない。

 今から、榎たちは大事な石の探索を行うわけだが――。

 本音を言うと、別に、見つからなくてもいいのではと、思っていた。

 榎は以前、四季山で宵月夜たちを助けたときから、何となく考えていた。

 宵月夜は恐るべき破壊力を持った、危険な妖怪かもしれない。

 だが、今は悪鬼オニに怯えて、その力を制限されているし、手下の妖怪たちと静かに暮らす生活を求めている。

 もし、その願いを現実にできるなら、無理に安全策をとって封印を行わなくても、あまねが実践しているみたいに、仲良く共存しあえる関係を築けるかもしれない。

 宵月夜とのコミュニケーションの確保ができないだろうか。榎の思考は、和解の方向へと傾いていた。

「よう、宵月夜。委員長の家、快適そうだな」

 榎は親しみを込めて、接触を試みた。宵月夜は榎のほうに視線も向けず、軽く息を付いて返事してきた。

「……住めば都」

「……お前、委員長に、ちゃんと感謝しているのか?」

 有難みを感じさせない返事に、榎は呆れた。無償で世話になっている奴の態度とは思えない。

 やっぱり、宵月夜と親密に会話を成立させるには、まだまだ距離がありそうだ。

「構いまへんで、榎はん。私が一方的に、うちに住んでくれ、とお願いしただけどすから」

 側に周がやってきて、苦笑いを浮かべていた。相変わらず、妖怪が相手だと、態度が寛大だ。

 周は妖怪たちに甘すぎる。宵月夜みたいな、やさぐれた態度は、きちんと改善させるべきだと思う。

「お前ら、白神石が、俺に渡してはならないものだと、気付いたらしいな。せっかく、ひと働きしてもらおうと思っていたのに、残念だ」

 突然、宵月夜が話を振ってきた。妙に含みのある台詞だ。

「残念って、どういう意味だよ?」

 尋ねると、宵月夜は鼻で笑った。

「白神石は、陰陽師が作り出した封印石だ。俺たち妖怪よりも、お前らのほうが情報網が広く、探索者として有利だ。俺たちが無計画に探し回るよりも、お前らに見つけさせて、奪ったほうが早いと思った。だから、そこにいる変な人間に情報を流して、泳がせていたのさ」

 周が、驚いた様子で体を震わせた。榎も衝撃を受け、嫌味に笑う宵月夜を睨み上げた。

「お前、白神石を手に入れるために、あたしたちを利用するつもりだったのか!?」

 宵月夜が、探し物が見つからなくて困っていると知れば、周は絶対に、協力しようと行動する。その心理を巧みに突いて、宵月夜は楽をして、榎たちに石探しをさせようとしていたのか。

「お前たち、月麿から、白神石について何も聞かされていなかったんだろう? 石について無知なくせに、馬鹿みたいに行動力だけはある。優秀な手足として使えそうだったから、使ってやろうと思っただけだ」

 使うなんて、人を物みたいに。

 聞き捨てならない言葉だ。あまりに狡猾で薄情で、人の優しさを無碍むげにする宵月夜の態度に、榎は怒りを隠しきれなかった。

「そんな考え、酷すぎるだろう。委員長は、お前らのためを思って、色々と親切にしてくれているんだぞ。恩を仇で返すなんて、最低だ!」

「知るか。別に頼んだわけでもない。熱心に妖怪に接触しようとしてくるから、相手をしてやっているんだ。感謝されるべきは、俺たちのほうだぞ」

 宵月夜に、悔い改める姿勢は見られない。榎には信じられなかった。敵対する立場の榎たちならともかく、妖怪たちと親しくなりたいと、努力している周に対しては、僅かでも心を開いてくれていると思っていたのに。

「だいたい、その人間だって、妖怪についてあれこれ詮索してくるが、何が目的なのか、さっぱり分からねえ。そいつこそ、俺たちを利用して、何か悪事をやらかそうとしてるんじゃねえのか?」

「宵月夜、お前な……!」

 怒りが限界に達した榎は、縁側に降り立とうとした。木によじ登って、とっ捕まえてやらなくては気が済まない。

 だが、腕を周に掴まれ、制止された。周は悲しげな表情を浮かべつつ、必死で首を横に振っていた。

 榎も、無理には振り解けなかった。

「お前みたいな、甘っちょろい四季姫には分からないだろうけれどな、親切ぶって妖怪に近付いて来る人間なんて、ろくな奴はいねえんだ。千年前だって同じだ、俺が人間なんかに心を許したばかりに、大切なものをたくさん失った。同じ過ちを、繰り返すわけにはいかないんだよ!」

「つまり、委員長がお前たちのために行ってきた親切も、あたしがお前たちを悪鬼から助けた行動も、全部、人間の自己満足だって言いたいわけだな。あたしは、もし、妖怪たちと分かり合えるなら、無理に封印なんてしなくてもいいと思っていたんだ。みんなで、別の方法を考える道だって、あると信じていたのに――」

 くだらない希望を抱いていた、榎が馬鹿だった。

 やっぱり、妖怪は人間の敵。倒し、封じるべき標的でしかないのかもしれない。

「お前がそういう態度なら、あたしたちだって、黙っていないからな! 先に白神石を見つけて、四季姫を揃えて、お前を封印する!」

 榎は声を荒げ、宵月夜に指を突き出した。初めて、心から行う、妖怪への宣戦布告でもあった。

「やれるもんなら、やってみろ。白神石は、俺たちが先に手に入れる」

 宵月夜も榎を睨みつけ、空へと飛び去っていった。

「榎はん、落ちついてください。興奮せんと」

 周に宥められ、榎は昂ぶった気持ちを鎮めた。急に体の力が抜けて、縁側にへたりこむ。

「大丈夫どすか? 榎はん」

「ごめん。でも、何だかショックでさ。……あいつは、もっと、いい奴だと思っていたんだ。あんまりだよな。妖怪と仲良くしたくて、努力している委員長の気持ちまで、踏みにじるなんて」

 榎への態度よりも、周に向けられた敵意のほうが、許しがたかった。

 でも、周は優しく微笑んで、榎の背中をさすって、落ち着かせてくれた。

「たとえ、利用するつもりでも、私と関わりを持とうとしてくださった。宵月夜はんの態度としては、大きな前進やと思うとります。私は、満足どすえ」

 とても前向きな周だったが、榎には同じ考えを、持てそうになかった。

 絶対に、白神石を手に入れる。宵月夜に、邪魔なんてさせない。

 気持ちを固めて、意気込んだ。

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