第六章 対石追跡 5
五
周から聞いた情報について、榎たちは色々と疑問を過ぎらせた。
「白神石? 確か、宵月夜が封印されていた石の名前は、黒神石だった。すごく似ているけど、同じ系統の石なのかな?」
榎の疑問に、周は分からないといった感じで、首を横に振って見せた。
「詳しいお話は、妖怪はんたちも知らへんらしくて。ただ、宵月夜はんが、封印から解き放たれてから、ずっと探しておるとか。けれど、手掛かりがまったくなくて、難航しておるみたいどす」
宵月夜が探している石。榎も少し、興味があった。
「私は、白神石の探索のお手伝いをしたいと思うとるんですが。皆さんも、ご一緒にどうでっしゃろか?」
周の提案を受け、榎たちは腕を組んで、考えた。
「敵の探し物を、一緒に探すの? さっちゃんはともかく、椿たち四季姫がやると……。ちょっと違和感があるかも」
椿は難色を示した。榎は妖怪と馴れ合う行為に、それほど抵抗はないが、椿の中では、敵味方の位置付けがはっきりしている。
「せやけど、もし、うちらが先に見つけて確保したら、その石を元手に、妖怪たちを強請れるかもしれんな。石を渡す代わりに、色々と要求を吹っかける交渉の材料になりそうや」
交渉ときたか。商売人の心得を持つ柊は、発想も独特だ。商売人の頭に〝悪徳〟がつきそうだが。
椿と柊の意見は、正反対だった。互いに妥協せず、意見が纏まらない。
「榎はんは、どうお考えどす?」
「うちらが案を出し合うとっても、埒が明かんわ。ちゃっちゃと指示、出してぇな。自称リーダー」
「誰が自称だ。自他共に認めるリーダーなんだよ、あたしは」
茶化してくる柊を威嚇しつつ、榎はずっと考えていた意見を口にした。
「探してもいいと思うけれど、白神石がどういった石で、どうして宵月夜が探しているのか、基本的な情報を、詳しく知りたいな」
そもそも、その白神石がどういった存在なのかも、分からない。安易に探す、なんて口にすると、無責任な気がする。
どんな行動をするにしても、情報はしっかり持っておくべきだと思う。榎の意見に、三人も同意してくれた。
「でも、宵月夜はんしか、知らん情報どすからなぁ。口を割らすにも、骨が折れます。どないして調べまひょ」
周は途方に暮れる。確かに、宵月夜が快く語ってくれるとも思えなかった。
「麿ちゃん、何か知らないかしら」
妖怪に関する情報と言えば、月麿に聞けば確実だ。白神石についても、色々と知っている可能性が高い。
困ったときの麿頼み。椿の案に賛成しかけたが、榎は少し思い直して唸った。
なんせ、奴には隠し事が多い。本当に必要最小限の情報しか教えてくれないから、四季姫の使命には必要ない、とか言って、渋るかもしれないが。
「駄目もとで、聞いてみるか」
榎は、百合の花の形をした髪飾りに手を当てて、神経を集中させた。
「麿、聞こえる? 麿ってば!」
神通力を使って月麿を呼んでみたが、うんともすんとも言わない。
「どうしたのかしら、通信が繋がっていないわ」
「居留守でも使うとるんとちゃうか?」
同じく、髪飾りに手を置いて、榎の通信状況を聞いていた椿たちも、眉を顰めた。
「電波が圏外どすかな?」
部外者なのでよく分からない、といった軽い調子で、周が気楽な意見を述べた。
「圏外って……。どこへ行けば、圏外になるんだよ? さっきまで、庵にいたのに」
榎は状況が飲み込めず、困惑するしなかった。




