第六章 対石追跡 2
二
「麿に教えてもらった場所は、この辺りなんだけれどな……」
榎たちは、四季が丘町の簡易地図を手に、街中を歩き回っていた。
妖怪たちの気配を感じるという場所に、印がつけられている。その付近へ赴いたものの、妖怪の姿はさっぱり見当たらない。少し、途方に暮れた。
「妖怪の気配って、椿、今もよく分からないんだけど。えのちゃんやひいちゃんは、いつも何か感じているの?」
椿の問いかけには、榎たちも微妙な返答しかできなかった。
「普段は、何となくね。でも今は、さっぱり」
ででん、と目の前に現れてくれたら、それなりに妖怪の気配がどういったものかは分かる。だが、何の手掛かりもない場所から探り取る能力を問われると、まだ修行不足、としか言えなかった。
「だいたいの場所が分かっても、妖怪が見つけられへんかったら、お手上げやなぁ。どないするんや」
妖怪とて、その辺りに堂々と住居を構えているわけでもない。鼠や蜂みたいに、民家の屋根裏にでも住まわれていては、発見しようにも骨が折れる。
途方に暮れていると、頭上で大きな羽音がした。
見上げると、山伏姿をした、三本足の大きな烏が、上空をどこぞへと飛んで行くところだった。
榎と椿は呆然と烏を眺め、顔を見合わせた。
「今、飛んでいった烏、八咫だよな」
「間違いないわ。八咫ちゃんよ」
互いに確信しあい、頷きあった。
気のせいではなかった。と言うより、間違えるはずもない。
あの烏は、下等妖怪――八咫烏だ。
「誰や? あの烏、妖怪かいな?」
柊も空を仰いで、顔を顰めた。柊は覚醒後、何度か下等妖怪たちとの戦いを経験してきたが、初めて八咫を見たはずだ。何の話か分からなくても、当然だった。
「八咫ちゃんはね、妖怪の親玉、宵月夜の子分なのよ。いつも一緒にいるの」
椿が簡潔に、八咫について説明した。柊は何ともいえない微妙な返事をして、八咫の後姿を眺めていた。
「そいつが、この辺りを飛び回っとるんやったら、やっぱり妖怪のアジトが、近くにあるんとちゃうか?」
間違いない。榎たちも、同じ意見だった。
「八咫を、追いかけてみよう」
榎たちは周囲に気を配りながら、八咫の後を尾行した。




