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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
53/331

第五章 冬姫覚醒 5

意味の分かりづらい関西弁の解説です。


・茶々を入れる → 冷やかす、妨害するなど。

標準語かと思っていましたが、どうやら大阪弁が主流らしいですね。


・しなはれや → しなさいよ

・ほんま → 本当

 給食の時間になった。

 今日の献立は、お決まりの牛乳とコッペパン、加えてあまり合わない、筑前煮と焼き柳葉魚(ししゃも)が二本だった。

 榎は柳葉魚が好きだ。あの小さな体躯の中に、身や卵や頭やら、有り得ないほど旨味が詰め込まれている魚の神秘さに、いつも感動していた。

 美味しいものは最後に食べる派なので、他のおかずを全て平らげた後、デザート感覚でししゃもに手をつけた。

「何を尻尾から、ちまちまと食うとるねん。柳葉魚は頭からかぶりついて、味わうに限るやろうが」

 少しずつ口に含んで魚の味を楽しんでいた榎に、また横から茶々が入れられた。隣の席を睨むと、柊が柳葉魚の頭を口の中に突っ込んで、葉巻みたいにくわえながら、鼻で笑っていた。

 給食の食べ方にまでケチをつけてくるのか、こいつは。癪だが、柊も柳葉魚が好きらしく、食べ方についてはこだわりを持っている様子だった。

 だからといって、榎の食べ方を批判する権利はない。榎は柊に怒鳴りつけた。

「最後に尻尾を残したって、味気ないだろうが。栄養が多いほうを最後に食べるべきだ!」

 榎の反論に気分を害したらしく、柊は頭のなくなった柳葉魚を口から取り出し、声を張り上げた。

「頭から食うんや!」

「尻尾からに決まっているだろう!」

 またしても、教室は騒然とした。人目もはばからず、榎と柊は顔を突き合わせて、いがみ合った。

「柳葉魚なんて小さい魚、へし折って丸かじりすれば、頭も尻尾も関係あらしまへん!」

 唯一、あまねが二人の間に頭を突っ込んできた。柳葉魚を口の中に放り込んで、これみよがしに噛み砕いていた。

「「仰るとおりで」」

 周の剣幕に圧され、反抗できなかった榎たちは、大人しくなった。周は口をもぐもぐさせながら、自分の席へと帰っていった。


***

 昼休みの十分間は、掃除の時間だ。

 榎は箒を手に、教室内の掃き掃除を行っていた。普段は何も考えずに黙々とこなせる作業が、今日は苛々の連続だった。

 原因は、榎とは全然別の場所から箒で埃を掻き出そうとしている、柊の存在だった。入り口から奥に向かって掃除をする榎にあてつけるかのように、教室の窓側から、掃き集めたごみを飛ばしてきた。

 協調性のない掃除のやり方に腹を立て、榎は遠くへ怒鳴り声を上げた。

「箒は教室の入口側を念入りに掃かないと、意味がないだろうが! 人が多く出入りする場所に、埃は溜まるんだ」

「ちゃうわ、教室の窓側のほうが埃が溜まりやすいんや! 空気の流れで、みんな奥に押しやられるからな」

 柊も、負けじと反論してきた。教室の両端からがんと文句を飛ばしあう。

 再三、周囲が騒然となった。

 いい加減、二人のやり取りにも慣れて来たらしく、他のクラスメイトたちはあまり驚かなくなっていたが。

「入口から掃除するんだ!」

「窓側からや!」

「両端から掃いて、真ん中で集めればよろしい!」

 終わらない口論に、ついに周の雷が落ちた。


***

「ええ加減にしなはれや。何かする度に、口論の連発で。やかましいどす。周囲に迷惑どす。校内行事の中断と妨害は、私が許さへんどす!」

 ついに怒りが限界に達した周は、こめかみに血管を浮かべながら、榎たちに説教してきた。周の横では、椿も困り果てた顔で、榎たちを見ていた。

 榎と柊は、並べた椅子の上に正座させられ、周と向き合って背を丸めていた。

 全部、柊が悪いんだ。思いっきり言い訳したいところだったが、周の剣幕が怖くて、口を開けなかった。

「喧嘩するほど仲がよろしいんかと思っとったら、ほんまに犬猿の仲どしたか。困ったもんどす」

 周が呆れて息を吐く。柊はちらりと榎を横目に見て、嫌味な笑いを浮かべてきた。

「犬猿の仲やて。うちが犬で、榎が猿やな」

「何言ってんだ。あたしが犬だ。柊が猿だろうが」

「お二人とも、犬や猿以下どす!」

 どうでもいい鞘当てに、再び周の雷が落ちた。

「もう中学生なんやから、いちいち意固地にならずに、少しくらい大人になりなはれ。互いに妥協だきょうして、相手に合わせてあげれば、阿呆みたいな言い合いせんでもええでしょう?」

「少し妥協して、相手に合わせる……」

 周の言葉に、榎の幼稚で頑固な心が、少し解きほぐされた気がした。

 柊も周の言葉に同感したらしく、腕を組んで何度も頷いていた。

「佐々木っちゃんの言う通りや。少しは大人にならなあかん。榎、しゃーないから、うちがあんたに合わせたる。感謝しいや」

「いいよ、あたしがお前に合わせてやるから。今まで通り、好き勝手に言ってろよ」

「うちが合わせる言うてるやろうが!」

「いーや、あたしが合わせるんだ!」

 大人になっても、口論はなくならなかった。

「付きうておれんどす。椿はん、二人の世話はお任せするどす」

 さじを投げた周は、脱力した様子で榎たちの前から去っていった。

「待ってよ、さっちゃん。椿には無理よ~」

 椿は泣きそうな顔で、必死に周を引きとめようとしていた。


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