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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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第五章 冬姫覚醒 3

「柊はん、えらい榎はんのご家庭について、詳しいどすな。榎はんとは、どういった関係で?」

 榎と柊のやり取りを見ていたあまねが、不思議そうに訊ねてきた。

 返答をはばかっていた榎に代わって、柊が周に説明を始めた。

「うち、小学生の頃、おとんの仕事の都合でしょっちゅう転校しとったやろ? 小学校四年生のとき、名古屋の小学校に半年、通っとったんや。その時に近所に住んどったクラスメイトが、こいつやってん」

 柊との馴れ初めは、まさしくその説明通りだった。

 小学校四年生の春。柊は突如として榎の通う名古屋の小学校へ転校してきた。住居が水無月家と同じ地区に建つ高層マンションだった関係で、転校早々、榎と柊は親しくなった。

 ほんの半年の短い付き合いだったが、その間に榎の子供心は大きなトラウマを抱え込む結果となる。

 柊との出会いそのものが、榎の地獄の始まりだった。

「一度別れた二人が、偶然にも再会するなんて……。ロマンチックね!」

「確かに、すごい確率どすな」

 事情を何も知らない二人は、勝手気儘に意見を述べていたが、榎はいちいち聞き取っている余裕もなかった。

「ひいちゃん、小学校の頃のえのちゃんって、どんな感じだったの?」

 椿の楽しそうな問いかけに、柊は鼻で笑って肩をすくめた。

「そらぁもう、男勝りのやんちゃ盛りでなぁ。公園で遊んでは砂場に大穴開けて、遊具も壊しまくって、手のつけられん暴れっぷりやったで」

「お前も、大して変わらなかっただろうが! 何を自分だけ棚に上げて、好き勝手に言っているんだよ!」

 柊の、色眼鏡を通した見解で榎を語られては、椿たちにあらぬ誤解を招いてしまう。榎は会話を止めに入り、柊に向かって睨みを聞かせた。

「あたしは、忘れていないぞ。お前に給食のプリンをぐちゃぐちゃにかき回されたり、牛乳がバターになるまで振りまくられたり、冷凍みかんを服の中に突っ込まれたり!」

 思い出すだけで、怒りが煮えたぎる。榎は、過去の忌々しい記憶を蘇らせながら、さらに苛立ちを募らせた。

「給食の話ばっかりね……」

「食べ物の恨みは、恐ろしいどす」

 椿と周は、半ば呆れている様子だったが、榎は見なかったことにした。きっと二人共、榎が味わった苦しみを汲み取って、同情してくれているに違いないと、信じて疑わなかった。

「みみっちい奴やな。ちょっとした子供の悪戯いたずらやんか。いつまでも根に持ちなや」

 榎の怒りを緩く受け流し、柊は大人びた笑みを浮かべてきた。

「うちらも、晴れて中学生や。ガキの頃の下らんいさかいなんて水に流して、大人の付き合いをしようや」

 最後に別れてから、既に二年近くが経っている。その間に、柊も少しは成長し、全うな人間へと変貌を遂げたのだろうか。榎は疑いながらも、少しだけ緊張を解いた。

「……その言葉、信じてもいいんだな?」

「うちが今まで、榎に嘘なんかついたか?」

「誠意を持った発言をされた記憶がない。お前が素直になんてなったら、世界が破滅するな」

「言うてくれるやないか。まあ、今日からまたクラスメイトや。よろしゅう頼むわ」

 柊が、手を差し出してきた。榎は警戒しつつも、その手を取った。

 握手すると同時に、柊が思いっきり、手に握力を加えてきた。痛みが腕を伝い、血管を圧迫されて痺れてきた。

 やっぱり、こいつの底意地の悪さは、昔と微塵も変わっていない。ぎりぎりと手を締め付けられた榎は、負けじと柊の手を思いっきり握り返した。

 榎と同じく、柊も痛さを堪えている様子で、引きった表情を浮かべていた。

「痛いんだよ、離せよ!」

「自分こそ、離さんかい!」

 互いに引く気はまったくなく、手の痛みと戦う攻防戦が続いた。

「大丈夫かしら、この二人」

 榎たちのやり取りを見て、椿は少し心配そうだった。

「喧嘩するほど、仲がええ、とは言いますけどな。まあ、問題ないでしょう」

 残念ながら、周の気楽な考えは、完璧に的外れだった。

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