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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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第四章 悪鬼邂逅 12

十二

 榎と椿は変身を解き、四季山の麓に立ち尽くしていた。

 側にはあまねと、駆けつけてきた月麿もいた。月麿は深刻そうな顔を浮かべて、唸っていた。榎たちは複雑な思いで、月麿の姿を見つめていた。

悪鬼オニは、人間に変身したポン吉くんを、夜遊びしている子供やと勘違いして、取り付いたのかもしれんと、八咫やたはんが言うてはったどす」

 周が、悪鬼が狸宇を襲った原因の推測を話した。

 恐らく、間違っていない。野菜泥棒という悪さを働いた狸宇は、運悪く悪鬼の目に留まり、気に入られて、気付かないままに取り憑かれて、体を乗っ取られたに違いない。

「麿。どうして悪鬼の存在について、あたしたちに教えてくれなかったんだ?」

 狸宇を救えた件は、運が良かったとしか言えない。榎が悪鬼を追い払えた確証もないし、もし失敗していれば、今頃は全員、悪鬼に食われてしまっていたかもしれなかった。

 はるか大昔から存在していたのだから、月麿だって悪鬼について、知っているはずだ。なのになぜ、その存在すらほのめかさなかったのか。

 榎と椿が月麿に向けた視線には、疑心暗鬼の感情が篭っていた。

 月麿も、今回はかなり反省しているらしく、しおらしく項垂れていた。

「うむ、すまなかったと思っておる。悪鬼は滅多に、人里に姿を現さぬ。出てきたとしても、陰陽師には害をなさぬ存在であったから、存在を知らずとも危険はないと思っておった。――千年前まではな」

「どういう意味? 今は違うの?」

 榎の問いに、月麿は大きく頷いた。

「千年の時が経ち、悪鬼の性質が大きく変化しておるらい。麿も、伝師の長に情報を与えてもらい、初めて知ったのじゃ」

 月麿の表情は、恐怖に歪んでいた。伝師の一族の元へ赴いて、どんな話を聞いてきたのだろうか。

「悪鬼は山奥から度々、人里へ降りてきて、今までよりも多く人間の世界に干渉しているらしい。かつ、妖力を察知する精度も上がり、周囲に影響を与える力も強力になっているという。もう少し早くお主らに知らせられていれば、榎も無茶をせずに済んだかもしれぬな」

 今更言われても、手遅れだった。だが、月麿が素直に謝るなんて珍しい。反省の態度だけは伝わってきたので、榎は黙って月麿の言葉を聞いていた。

「元来、悪鬼は陰陽師の力では倒せぬ。お主は新しい技を以って悪鬼を退けたが、次もうまくいくとは限らぬ。よいな、次に悪鬼と遭遇しても、戦ってはならぬ。真っ向から向かい合っても、無意味じゃ。お主らの使命は悪鬼退治ではない。一刻も早く四人揃って、四季姫として真の覚醒を果たすのじゃ」

 理解はできる。でも、月麿の逃げ腰の姿勢には、同意できなかった。

 今回の戦い、果たして本当に情報の有無だけで結果が変わっただろうか。悪鬼を知っていれば、回避できたのだろうか。

 榎は、悪鬼の姿を思い出して、背筋を震わせた。今回の戦いは、悪鬼の存在を警戒していてもいなくても、避けられないものだったのではないかと思っていた。

 この先だって、悪鬼に気をつけろと言われ続けていても、何の対策も打てない気がした。いつ、どこから、どんな形で現れるか、分からないのだから。

 危ないからと言って、逃げているだけでは駄目だ。新たな時代の四季姫は、悪鬼とも戦う使命を帯びている。

 心構えをしておかなくてはいけなかった。

 月麿には言わなかったが、榎も椿も、万が一の時には立ち向かう覚悟を決めていた。

「順序を誤れば、均衡が崩れる。一度崩れてしまえば、伝師はおしまいじゃぁ……」

 裏腹に、月麿は悪鬼に対して怯えまくっていた。最悪の事態を想像しているのか、表情が恐怖に呑まれていた。

 頭を抱えて煩悶はんもんする月麿を見ていると、榎は当惑して、怒る気も失せた。


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