表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
4/331

第一章 夏姫覚醒 3

 謎の兄妹の助言どおり、榎の財布は駅内のサービスセンターに預けられていた。

 詳しく事情を話し、ようやく榎は交通費が入った財布を取り戻し、お寺方面へ向かう電車に乗れた。

 ローカル列車に揺られて一時間弱。山に囲まれた、静かな駅に到着した。電車から降り立った榎は、ようやく一息ついた。

「ずいぶん、遠くまできたなぁ。で、ここから、どういけばいいのかな?」

 改札を出て、榎は鞄から、梢に書いてもらった手書きの地図を取り出し、眺めはじめた。

「水無月さーん! 水無月榎さんは、いらっしゃいませんかぁー!?」

 突然、大声で名前を呼ばれ、榎は飛び上がって驚いた。

 辺りを見回し、声のする方角を探した。改札の側で、一人の女の子が、大声で榎の名前を呼んでいた。

「あの、あなたはいったい……?」

 反射的に、榎は女の子に声を掛けていた。榎を探しているのだと、一目瞭然だった。声は周囲の木々に反射して、大きく響いていた。ものすごく遠くまで聞こえていそうな気がした。恥ずかしいから、大声で名前を連呼しないでほしいのだが。

「あっ、ひょっとして、あなたが水無月榎さんですかぁ?」

「はい、水無月榎ですけど」

「よかったぁー、やっと会えたわー! 私、如月(きさらぎ) 椿(つばき)といいます! お母さんに頼まれて、花春寺こうしゅんじからお迎えにきました! よろしくお願いしますね」

 女の子――椿は、首を少し横に倒して、にっこりと笑った。手にはA4サイズのスケッチブックを持っていた。紙面には「歓迎!! 水無月榎さま」と黒の油性マジックで、大きく書かれていた。

 榎は驚くと同時に、ものすごく喜んだ。

「わざわざ迎えに!? うわあ、ありがとう。道に迷わずにお寺までいけるか、心配だったんだ」

 互いによろしく、と挨拶をしあった。

「到着してすぐで、申し訳ないんですけどぉ、もうすぐバスが出ちゃうのです。逃すと一時間待ちになってしまいますので、急ぎましょ」

 随分と、交通の便が悪い場所らしい。榎は椿と一緒に、寺方面へ向かうバスヘと乗り込んだ。

 二人で並んで座席に腰掛け、走り出したバスに揺られながら、京都の山道を進んでいった。

 榎はちらりと、隣に座る椿を横目に見た。まっすぐな黒く長い髪が、腰の辺りまで伸びていた。ふかふかで暖かそうなピンクのコートに、緑のミニスカートと茶色のブーツ。見るからに可愛らしい女の子だなと、榎はちょっと緊張した。

 名古屋にいた頃は、男友達との交流が主で、仲の良いわずかな女の子も、可愛いよりはかっこいい、榎と似た男勝りな子ばかりだった。

 椿みたいに、いかにも女の子、といった風貌の子とは、ろくに話もした記憶がなく、あまり接し慣れていない。正直にいうと、近寄り難い苦手なタイブだった。

 椿も、ちらりとこちらに視線を投げてきたが、すぐに頬を赤くして、下を向いてしまった。さっきまでの元気のよさとは大違いの、しおらしさだった。

 バスを降りるまでの間、ずっと無言の状態も、気まずいと思った。なにか話題を振ろうと、榎は頭を一生懸命働かせて、考えた。

「椿さんは、お寺とはどんな関係で? 迎えをお母さんに頼まれたって言っていたけど、お母さんって?」

「椿のお母さんは、花春寺の住職の奥さんです。椿はお寺の一人娘なのですよ。本当は、椿のお母さんが迎えにくる予定だったんですけれど、急な用事でこれなくなったのです」

「うちのお母さんと、お寺の住職さんが姉弟だってきいているから、椿さんとは、いとこになるのかな?」

 尋ねると、椿は嬉しそうに大きく頷いた。

「いとこって、なんだか絶妙な距離ですよね。遠くもなく近くもなく、それでいて運命的っていうか、とにかくなんだか素敵ですぅ!」

 椿は一人で、「キャー」と叫びながら喜んでいた。変わった子だなと、榎は返事に困りながら笑った。

「おかしいな。小さい頃に一度だけ、お寺に遊びにいった記憶があるんだけれど、椿さんには会っていない気が……?」

 榎は不思議に思った。椿も同じく、頭に疑問符を浮かべていた。

「う―ん、椿も記憶がないですねぇ。ひょっとしたら、榎さんがきた時は椿、まだ生まれていなかったかもしれません」

椿の説に、なるほど、と榎は納得した。確かに椿は小柄で、榎よりもかなり幼そうだった。年下なら、会っていなくても当然かなと思えた。

「椿さん、歳は?」

「十二歳です。来月から、中学生なのです!」

 元気よく答える椿に、榎は目を見張った。

「えっ、同じ年なの!?」

 思わず、大声を上げた。椿も同様に、吃驚びっくりした顔で榎を見ていた。

「同じ年って、ひょっとして榎さんも、中学生になるんですか……?」

 榎は壊れた玩具おもちゃみたいに、何度も頷いた。

「ええ~!? うそぉ! あ、すいません。びっくりしちゃって。だって、すっごく背も高いし、大人っぽいから、高校生かと思ってましたぁ」

「よく間違えられるけどさ。まだ小学校を卒業したばっかりなんだよね」

 だったら尚更、今が椿と初対面、という事実が謎に思えた。だが、椿は気にしている素振りもないし、榎も必要以上に深く考えるのはやめようと思った。

「よかったあぁ、なんだか少し、安心しました。今日から一緒に暮らすわけでしょう? 年が近いほうが、お話もしやすいですもんねぇ。うん、ちょっと、緊張とれた」

 椿は胸を撫で下ろした。確かに椿は、さっきよりも饒舌じょうぜつになって、榎に対して緊張感が柔らいで見えた。

 笑い返しつつ、榎は少し、気が重かった。榎にしてみると、年下のほうが何かと話しやすいと思っていたので、椿とは正反対に、かなり不安になってきた。

 椿と仲良くやっていけるだろうか。別に悪い子ではなさそうなのだから、気負う必要はないと思った。

 少しずつ、距離を縮めて親しくなれたらいいなと、榎は考えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。よろしかったらクリックお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルも参加中。
目次ページ下部のバナーをクリックしていただけると嬉しいのですよ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ