第四章 悪鬼邂逅 4
四
『榎よ、聞こえるか!』
階段を上りきったところで、榎の頭の中に、声が流れ込んできた。榎が肌身離さず身につけている、百合の髪飾りから、月麿が神通力で送ってきた声だった。
椿にも同様の声が聞こえていた。椿は桜の髪飾りに手を当てて、耳を澄ませていた。
「聞こえるよー、麿。どうしたの?」
『どうした、ではない! 今日は学校とやらが、ないのでおじゃろう? なぜ妖怪退治に来ぬのじゃ!』
のんびりした口調で返事をすると、月麿は怒り出した。今朝も妖怪退治に呼び出されたが、榎と椿はすっぽかしていた。
「だってー、雨降ってるしー。妖怪だって、濡れると嫌だから、雨の日には悪さもしないでしょう?」
『手前勝手な解釈をしおって……。雨が降ろうが雪が降ろうが、妖怪はいつだって人里に現れるのじゃ! 雨を好む妖怪も、おるのじゃからな!』
「おお、確かに。河童とか、水が好きそうだもんな」
榎は素直に納得した。
『どうじゃ、少しはやる気になったかのう?』
「椿、やる気になった?」
椿に話を振った。椿は、軽く首を横に振った。
「全然~。妖怪は雨が好きかもしれないけれど、椿たちは嫌いだもーん」
椿の意見は月麿にも伝わり、月麿の怒りが爆発した。
『駄々を捏ねるでない! ともかく、外へ出よ! 今ならば、宵月夜と手下の妖怪たちを、一網打尽にできるやもしれぬ』
月麿の衝撃的な言葉に、榎と椿は顔を見合わせて、話に食いついた。
「どうして、今なら妖怪達を倒せるんだ?」
『先日、妖怪たちが根城にしておる山を突き止めたのじゃ。ところが、その山が、今朝方、崩壊しおった。崖崩れごときで連中がくたばるとは思えんが、住処を壊されて混乱しておるはず。隙を突いて奇襲を仕掛けるならば、今しかないでおじゃる!』
「妖怪達のアジトって、四季山かしら? さっきママが、土砂崩れがあったって、言っていたものね」
間違いなさそうだった。榎は月麿に、四季山へ出向く旨を伝えて、通信を切った。椿と頷き合い、再び階段を駆け下りた。
「なんや、雨降っとるのに、出かけるんか? 気ぃつけて行かな、危ないで」
外に出ようと、玄関で傘を用意していると、木蓮が声を掛けてきた。
「はい。友達に勉強を教えてもらう約束を、思い出して」
「暗くなる前に帰るから。いってきま~す」
榎と椿は、さりげなく話を流して、雨の屋外へと駆け出して行った。




