第四章 悪鬼邂逅 2
二
雨も上がり、厚い雲の切れ間から、朝日が差し込んでいた。
榎たちは変身を解いた。びしょぬれになった着物は光の粒となって消え、家を出てきた時の普段着に戻った。
泥や水垢で汚れても、ほつれてボロボロになっても、次に纏うときには新品同様になっていた。洗濯や補修をしなくていい点が、この変身衣装のいいところだなと、榎は思っていた。
「椿もかなり、妖怪退治のコツが掴めてきたよね」
榎に比べれば、四季姫として戦いに参加した期間は短いはずなのに、椿の飲み込みはとても早かった。
「えのちゃんの教え方が、上手だからよ。頼れる先輩だもんね、えのちゃんは」
感心して褒めると、椿は嬉しそうに笑った。逆に褒められて、榎のほうが照れた。
「明け方にお家を抜け出して、妖怪退治。スリルがあって、楽しいわね!」
「ハマっちゃ駄目だよ。不良になっちゃうよ」
椿は妖怪退治を夜遊びと勘違いしている節がある気がした。椿が家を抜け出して遊びまわる癖をつけはしまいかと、少し心配だった。
農道をお寺へ向かって歩いていると、目の前を何かが突っ切っていった。椿は何かにぶつかりそうになり、小さく悲鳴を上げた。榎は無意識に構えたが、既に影も形も見えなかった。
人間の、子供みたいにも見えた。だが、一瞬だったため、正体は、よく分からなかった。ものすごい速さで駆け抜けて、茂みの中へ入ってしまった。
「何が、飛び出してきたの? 子供だった?」
椿は唖然としていた。榎はふと、謎の人影が通り過ぎた後に、何かが転がっていると気付き、屈んで拾った。胡瓜や、莢に入ったままの豆などの、野菜だった。
「さっきの奴が、落として行ったのかな?」
「まさか、野菜泥棒!? 嫌だわぁ、なんだか物騒」
椿が難色を示した。農業が盛んな地域では、度々起こるらしい。
「たいていは、猪とか猿とか、動物の被害なんだけれど……」
もし、さっきの影が見間違いではなく、人間の子供だったら。たしかに物騒だなと、榎も複雑な気持ちになった。
同時に、一瞬、背筋に悪寒が走った。
さっき、宵月夜が力を解放しようとしたときに感じた、謎の気配と似たものを、微かに感じ取った気がした。
すぐに収まったので、気のせいかなと思い直し、榎たちは帰路へとついた。




