第三章 春姫覚醒 9
九
翌日。長らく、伝師の長の下へと赴いていた月麿が庵に戻ってきた。
「麿の外出中に、二人目の四季姫を覚醒させるとは。ようやったぞ、榎!」
月麿は二人目の四季姫、椿と対面して、大喜びだった。
「どんなもんよ! あたしの実力、見直したか麿!」
褒められていい気分になった榎は、ふんぞり返って自画自賛した。
「自惚れるでない。春姫の内に眠る力が、目覚めかけておっただけじゃ。お主は目覚めるきっかけになったに過ぎぬ」
榎を指さして、月麿はびしりと厳しい言葉をぶつけた。榎はつまらなく感じ、唇を尖らせた。
「何だよ。もっと褒めてくれてもいいのに。あたしは褒められて伸びる子だぞ」
「もし、椿が一人だったら、春姫に変身しても、戦えなかったかもしれないし。えのちゃんがいたから、椿も頑張ろうと思えたのよ」
椿は榎を庇って、優しい言葉をかけてくれた。
「まったく、和気藹々と馴れ合いおって。気が緩んでおる」
月麿は呆れた様子だった。
「じゃが、四季姫も二人となると、また新たな戦い方を組み合わせられるでおじゃるな。連携して、より強い妖怪も倒せるでごじゃる。より精進せよ、期待しておるぞ!」
榎たちは頷き、山を降りた。
「えのちゃんは、京都にきてから、ずっと一人で妖怪退治をしていたの?」
寺へ戻る道中、椿が尋ねてきた。榎は頷いた。
「うん。妖怪を倒して、修行を積んで、仲間を探してね」
「大変だったんだねぇ。だから、夜な夜な家を抜けだしたり、放課後に遅く帰ってきていたわけね」
「ごめんね、黙ってて。言っても信じてもらえないと思ったし、椿を危ない目に遭わせたくなかったから」
謝ると、椿は首を横に振った。今まで、榎がこそこそと一人で行動していた理由を全て知り、更に同じ立場に加われて、椿は機嫌がよさそうだった。
「さっちゃんは、危ない目に遭ってもいいの? えのちゃんと妖怪の関係、知っているんでしょう?」
「委員長は、駄目って言ってもきかないから」
「椿だって、同じよ?」
「だから、意地でも内緒にしていたんだよ」
椿と周の、目的に固執するしつこさには、似た部分があると、常々思っていた。周に安易な約束をして、少し反省した榎は、同じ過ちを繰り返さないためにと、椿に真実を隠し通していた。
全ては、椿のため。榎は嘘を吐いていた理由を、きっちりと椿に伝えた。
「ふぅん。えのちゃんは結構、椿の性格を分かってくれているのね。いいわ、隠れてこそこそしていた件は、許してあげる」
椿は榎の考えを聞いて、ちゃんと理解してくれたらしい。満足そうに笑った。
「これからは春姫として、えのちゃんと一緒に戦うから。よろしくね」
「うん、よろしく頼むよ。椿」
やっと、仲間が増えた。
榎は今までとは違う、戦いの可能性を想像して、気持ちを引き締めた。




