第二十九章 姫君帰還 2
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弱々しかった地脈が、突然勢いを盛り返して溢れだし始めた。
その様子を見て、榎たちは驚きの声を上げる。
「地脈の門が、復活した!」
「ほんまに、妖怪はんたちが助けてくれたんどすか!?」
「おそらく、間に合ったみたいだな」
「すごい、まるで奇跡ね!」
本当に、奇跡としか言いようがない。開かれた活路に、榎たちは歓喜して声を張り上げた。
「これなら、通っても大丈夫かな」
「よろしいようですな。後は迷わず、まっすぐお進みなさい」
晴明のお墨付きならば、心配ない。みんな、地脈の前に立って準備を整えた。
過去に飛んだ時と同様に、逸れないように手を繋いで一列に並ぶ。
準備が整った頃合いを見計らって、最後尾に並んだ榎は、振り返って晴明に尋ねた。
「晴明さん、どうして、あたしたちのために、こんなに協力してくださったんですか?」
「……此度の伝師の崩壊。発端には儂も責がある故、見苦しいが罪滅ぼしも兼ねて」
晴明は少し言葉を濁しつつも、静かに語った。
「紬姫と鬼閻との密約を四季姫たちに注進したのは儂であるし、その際に封印石を用いること、人柱として烏の力を用いるように示唆したのもまた、儂である。全てはこの、老いぼれの話を受け入れて四季姫たちが行動したことが始まり。よもや、これほどの悲劇になろうとは、思いもよらなかった。まして、千年も先の世にまで、その火の粉が飛んでおろうとは」
そう語る晴明の表情には、悔恨が深く刻まれていた。四季姫たちの、伝師の運命に深く関わりすぎたと、心から悔いている様子だ。
晴明の力なくして、鬼閻の封印は叶わなかった。だが同時に、大きな代償を伴った。それを運命と捉えるには抵抗がありすぎるほど、晴明の関わった影響力は大きいのだろう。
「本来ならば許してくれといえる立場でもないが、此度の件で儂の罪を不問としてくださるのならば、戸棚に隠しておった唐菓子を盗み食いされた件は、目を瞑りましょう」
バレてた。
しかも、根に持ってた。
やっぱり食べたのはまずかったか。というか、こんな瀬戸際で持ち出して、過去の重大な後悔話と天秤に掛けるのもどうかと思ったが。
それで恐ろしい食べ物の恨みから解放されるのならありがたい取引だ。榎はとりあえず盗み食いの件は素直に謝りつつ、晴明の話を承諾した。
「四季姫様たちには、同じ陰陽師としてたいへん世話になり、良い刺激を頂けた。せめて、来世では幸せになってもらいたいからの。これが儂の、精一杯の手向け花となりましょう」
晴明は、榎たちに穏やかな笑みを浮かべた。榎たちも、晴明に笑顔を返した。
「何から何まで、ありがとうございました。晴明さん」
感謝の言葉を述べ。榎たちは一斉に、地脈の中に飛び込んだ。




