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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
29/331

第三章 春姫覚醒 3

分かりにくい方言を説明します。


あきまへんで→いけませんよ

来てへん→来ていない

信じとらん→信じていない

疑われとる→疑われている

送っとった→送っていた

しもうた→しまった

気をつけなはれや→気をつけなさいよ

 翌日の放課後。榎は授業に疲れて、部活に行くまでの間、机に顎をのせて休息していた。

 榎の元へ、あまねが慌ただしくやって来た。

「えらいこっちゃどす。欠席者が多くて、中間テストが延期になるかもしれんと、職員会議で先生たちが話しておったどす」

 鬼気迫る表情の周に、何事かと夢心地から覚醒した榎だったが、周ほど話の内容に焦りは感じず、肩の力を抜いた。

「いいと思うけど? テストがないなんて、天国だよ」

 気楽な返事をすると、周は榎の机を平手で叩いた。

阿呆あほ言うたらあきまへんで、榎はん。中間テストが延期になれば、期末試験の範囲が大幅に増えるどす! 逆に点数の稼ぎにくい、難解な試験になる確率が高いどす!」

 進学に向けて内申点を稼ぎたい周にとっては、危機的状況らしかった。

「確かに、試験範囲が増えると、ヤマを張るのも大変だしなぁ」

 困るなと、周の勢いに感化されて、少し榎も焦りを覚えはじめた。

「椿たちは、まだマシ。学校をずーっと休んでいる子達は、遅れを取り戻さなきゃいけないから、もっと大変よ」

 榎の隣の席に座る椿が、頬杖を突いて教室の前方を見つめながら口を挟んだ。

「入学してから、一日も来てへん人もおるどす。授業のノートやプリントは届けとりますけれど、不憫どすなぁ」

 周は教室を見渡した。もともと人数の少ないクラスだが、入学してから一ヶ月半経った現在、徐々に生徒数が減って、さらに閑散としていた。机と椅子ばかりが存在感を主張する、無機質な部屋へと変貌しはじめていた。

 春先から、学校を長期欠席する生徒が増えていた。給食で余る牛乳や、デザートの数が増えて、余分に飲み食いできると単純に考えて、今まで呑気に過ごしてきた榎だったが、周と椿の話を聞いて、初めて周囲に心配をよぎらせた。

「おかしな風邪が、流行っているんだっけ?」

「らしいわ。一度かかると、全然、治らないんだって」

 欠席の原因は、治療法の見つからない風邪だった。四季が丘町で老若男女問わず、流行っているらしい。高熱にうなされ、なかなか容態が良くならず、重症で入院したり、亡くなった人もいると聞いた。

「もっと休む人が増えたら、学級閉鎖や学年閉鎖になりかねんどす。恐ろしい事態を何とかせんと。他の学校より勉強が遅れてしまうどす。将来の受験に致命的な傷跡を残すかもしれんどす!」

「さっちゃんは、勉強熱心だもんね。勉強に命を懸けている人には、一大事だわ」

 意気込む周を見て、椿は感心していた。

「あたしはー、学級閉鎖になってくれたら、ちょっと家でゆっくりできそうだから、嬉しいけどなぁ」

 榎は本音を呟いた。

「だよね。えのちゃんは、椿たちなんかより、すっごく忙しいんだもんね! 忙しくない椿は、普通に部活いくもん。じゃあね」

 椿は機嫌悪そうに席を立ち、おもいっきり榎を睨んで、教室を出て行った。

「うう、椿が怒ってる……」

 榎は椿の剣幕に圧されて固まっていたが、椿の姿が見えなくなるとともに、胸が苦しくなって、泣きたくなった。

「昨日、椿はんに尋ねられたどす。榎はんが隠れてこそこそと、何をやっておるか知らんかと」

 周の話に、榎は驚いて顔をあげた。

「委員長、まさか、しゃべった!?」

 慌てて尋ねると、周は首を横に振った。

「しらを切り通しましたけれど、信じとらん様子どしたなぁ。私まで疑われとるどす。困りましたわぁ、清く正しい学校生活を送っとったはずやのに、榎はんのせいで、私まで嘘つきにされてしもうたどす」

「ひどいや、委員長。あたしのせいにするなんて」

 皮肉を込めて、憂鬱そうに息を吐く周の意地悪な態度に、またしても榎は泣きたくなった。

「冗談どす。せやけど、一緒に暮らしてはる椿はん相手に、夏姫の正体を隠し通すんは、難しいんとちゃいますか?」

 周に忠告され、榎はうなだれた。確かに、この先も、椿に榎の秘密を隠し通せる自信はなかった。無理に隠し事を持ち続ける代償に、椿との関係がどんどん険悪なものになっていく現状に、堪えられなくなってきていた。

 かといって、真実を話せば、優しくて好奇心の強い椿は、きっと榎を心配して、最悪、妖怪との戦いにもついて来るかもしれない。椿が周みたいに妖怪が見えたり、妖怪の与えて来る影響に耐性があるとも思えなかった。榎の実力では、椿を庇いながら戦うなんて、無理だった。

「椿を危ない戦いに巻き込みたくないから。できる限り、隠し続けるよ」

 椿は普通の、中学生の女の子なのだから、平和に相応の生活を続けてほしいと、榎は願っていた。決して訳の分からない戦いには、巻き込みたくなかった。

 榎の決意を感じとった周も、複雑な表情を見せつつ、同意してくれた。

「なら、私も黙っときますけど……。椿はんは、一人っ子のワガママ娘やさかい、一度怒ると手がつけられまへんで。気をつけなはれや」

「うーん、確かに、ワガママな一面はあるよね……。怒ると結構、キツい言葉も飛ばして来るし」

 周のさりげない注進が、別の部分に大きな心配を呼び起こした。椿を危険に晒さないために、椿の怒りと戦わなくてはならない。避けては通れない難題だった。

 榎は腹をくくった。

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