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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
24/331

第二章 伝記進展 13

分かりにくい関西弁の説明です。


~おくれやす → ~してください

十三

 変身を解いた榎は、奏とあまねに、知っている四季姫の話をした。

 二人は真剣に、榎の話を聴いてくれた。時折、分からない箇所を質問されもした。榎は分かる範囲で、包み隠さず説明を繰り返した。

「あたしが知っている限りでは、今まで話した内容が全てです」

 何もかも話し終えると、二人は榎の話に満足して、頷いた。

「水無月はんは、その四季姫とかいう、お姫様の生まれ変わりやから、妖怪と戦っているんどすな」

 周は感心した表情で、不気味がりもせずに、榎の話を受け入れてくれた。

伝師つたえしの血ではなく、魂を受け継いでいるわけですわね。継ぐものが違うだけで、大きな力の差が出るだなんて、不公平ですわ」

 奏は少し不服な顔で、腕を組んで榎を見つめた。

「榎さん、あなたは、わたくしが四季姫の仲間だと思って、妖怪退治に協力してくださったのですわね。残念ですが、わたくしはあなたの仲間ではありません。わたくしの力など、所詮は人間相手の見せかけの力。あなたのもつ真の力には、とうてい及びません」

「奏さんが、あたしの仲間だったらいいのにって、ずっと思っていたんですけれど」

 榎はとても残念だった。奏が仲間だったら、きっと今よりも修業に身が入っただろうし、一緒に戦えば、宵月夜だって倒せるのでは、と思っていた。

「ご期待に添えなくて、申し訳ありませんわ」

「いいえ、あたしこそ、早とちりして」

 奏は一息つき、懐から液体の入った瓶を取り出し、中身を綿布に染み込ませた。液体は化粧落としらしく、綿布で顔を拭くと、どぎつい化粧が取れて、奏の本来の美しい顔があらわになった。

「ややっ、そのいでたち……もしやつむぎ姫さまですか!?」

 すっぴんの奏を見て、側で話を聞いていた月麿が、突然、反応した。奏の前に転がっていき、膝を突いた。

「紬姫? わたくしの名は奏です。人違いですわ」

 月麿に向かって、奏は眉をひそめた。

「いやはや、失礼つかまつった、奏姫。あまりにもお姿が、紬姫に生き写しであったから、取り乱してしもうた」

 月麿は慌てて土下座し、気を取り直して語り始めた。

「麿は、陰陽月麿と申す。千年の昔、伝師の一族の長、紬姫に仕えておったものです。こたび、紬姫さまの命によって、時を越えてこの時代へとやってまいりました。再び、伝師に繁栄をもたらすために!」

 月麿の話を黙って聞いていた奏は、少し不思議そうな表情をして、月麿の丸い顔を見つめた。

「いきなり、訳の分からないお話をなさるのね。ですが、伝師について、かなりお詳しくご存知の様子。紬姫、というお名前にも、聞き覚えがあります」

 奏は半信半疑といった様子で、月麿を観察していた。

「仮に、あなたが千年前の時代からやって来たとしましょう。あなたは、千年たった今でも、廃れゆく伝師一族に忠誠を誓うというの?」

 奏が冷静な口調で尋ねると、月麿は何度も何度も、大きく頷いた。

「麿が仕えしは、紬姫様のご意志のみ。紬姫様から脈々と受け継がれてきた伝師家に仕える使命こそが、麿の望みでごじゃる。紬姫様に瓜二つのあなたさまが、現代の伝師の長なのでごじゃろう? ぜひ、また麿を側においてくだされ!」

 必死で頼み込む月麿に、奏は残念そうに首を横に振った。

「わたくしは、伝師の長ではありません。長に会いたいとおっしゃるならば、おわす場所まで案内いたしますわよ」

「なんと、長は別にいらっしゃると! ぜひとも、その方の下へ連れていってくだされ!」

 月麿は目を輝かせて喜んだ。

「榎さん、わたくしはこれにてお暇いたします。少しでもお力になれる時があれば、いつでもお呼びくださいまし」

「ありがとうございます、奏さん」

 月麿を従えて、奏は去っていった。あの派手な格好で家まで帰るのだろうかと、榎は奏の座った根性に敬意を示した。

 奏たちが去り、榎と周が取り残された。

「水無月はん、妖怪とは、いったい、どういう生き物なんどすか?」

 一息つき、周が榎に問いかけてきた。

「人間とか、他の生き物が強い霊力を手に入れて、変貌した姿――ってくらいしか、あたしは知らないんだ。麿ならもっと詳しいだろうけれど、奏さんと行っちゃったしな」

 周も妖怪の姿が見えるらしいが、奏と同様、妖怪の側にいても、何の反応も示さなかった。周もきっと、四季姫ではないのだと、榎は思った。

「委員長、親切で後を追いかけてくれたのに、変な戦いに巻き込んじゃってごめんね? あたしの正体なんだけれど、みんなには……」

 榎が回の前で人差し指を立てると、周は微笑んで領いた。

「分かっとるどす、内緒にするどす」

 周の返事に、榎は安堵した。正体がばれたのが周で良かったと、心から思えた。

「その代わり、と言っては何どすが。――また、水無月はんの戦いを、見学させてもろうても、よろしいどすか?」

 突飛な申し出に、榎は唖然として周を見つめた。

「見学って!? どうして?」

「私な、水無月はんが戦う姿を見て、非常に興味を持ってしまいましてん。妖怪に!」

 拳を握りしめ、周は意気込んで語った。

「妖怪に興味を……。なんだか、委員長のキャラとは違う気がするんだけど」

 真面目で、勉強一筋な周が、妖怪に興味を持つなんて。意外すぎて、反応に迷った。

 困惑する榎をよそに、周は眼鏡の奥の瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべ、にやついていた。

「また、妖怪はんを間近で、よう観察したいどす。せやから水無月はん、いいえ、以後は、榎はんと呼ばせていただきます。榎はん、次に妖怪退治にいくときには、ぜひとも誘っておくれやす!」

 押しに押されて、榎は頷くしかなかった。

「分かったよ、一応、誘うよ……。委員長の名前は、なんだったっけ?」

 名前で呼ばれるなら、榎も周を名指しで呼ぶべきだろうと、必死で思いだそうとしたが、記憶力の悪い頭からは、すぐに出てこなかった。

「私は今までどおり、委員長でよろしいどすえ? 名前で呼ばれるんは、あまり好きやないんどす」

 周は榎に、にっこりと笑いかけた。

「では明日からも、よろしゅうお頼申しますな。榎はん!」

 榎の手を握り、周は何度も何度も上下に振った。その後、とても満足そうな表情で、スキップしながら無人寺から去っていった。

「委員長を、誤った道へ進ませてしまっている気が……。いいのかな、本当に」

 新しい人たちとの出会いがあって、喜びや期待もたくさんあるが、部外者を戦いに巻き込んでしまったり、未だに仲間を一人も見つけられなかったり。今は不安のほうが大きかった。

 榎の予測もしない方面へ、物語は進展している気がした。

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