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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第二部 四季姫進化の巻
195/331

第十五章 夏姫鬼化 4

 四

「妙な食い違いとは?」

 楸の問い掛けに、月麿は、大きく頷き返す。

「まず、一つ目は、四季姫たちが司る方位と、禁術によって呼び出した京の守り神―—四神との相違じゃ。平安の地には、みやこが建てられた頃から、この土地を長らく守護してきた四体の聖獣がいた。―—玄武、青龍、朱雀、白虎じゃ。この獣たちは、定められた方位と季節を司り、守る聖獣である。つまり、四季姫たちが司る季節とも、密接な関わりを持って存在しておった」

「なるほど。言われてみると、妙どすな。私たちが会得した禁術の司る季節が、本来の季節とは異なっておるどす」

 月麿の説明に、楸は納得した様子で頷いていた。

 だが、榎には何の話やら、ちんぷんかんぷんだ。

「どういう意味や? さっぱり分からんわ」

 流石に今回は、榎だけが理解力に乏しいわけではないらしい。柊や椿も、頭に疑問符を浮かべていた。

「例えば、冬姫はんは冬の力を駆使して戦うわけどすから、必然的に北と冬の季節を司る聖獣―—玄武の恩恵を受けるべきなんです。せやのに、柊はんが会得した禁術は、青龍……。春を象徴、守護する聖獣でした」

「うちらに力を与えてくれた聖獣の季節が、違っとるっちゅうわけか?」

 柊が確認すると、楸と月麿が同時に肯定した。

「季節が違うと、何か問題があるの? 本来の聖獣の力が、完全に発揮できないとか?」

 椿は不思議そうに尋ねるが、あの悪鬼さえも軽々と倒して見せた禁術の威力を見た限りでは、力不足だとは、とうてい思えなかった。

「今のところは、よく分かってはおらぬ。だが、聖獣たちが力を貸すべき姫君を誤ったとは考えられぬ。恐らくは、〝現在において〟、各々に相応しい者に力を分け与えた、と考えて間違いない。つまり、麿が考えるに―—」

「世の中の理自体が、歪んで変わってしまったのですよ。遥か昔に当然だった常識が、この時代では全く通用しなくなっているのです」

 月麿の言わんとする内容に同意する形で、朝がすかさず、口を挟んだ。月麿も朝の話に耳を傾け、神妙な反応を見せた。

「やはり、思った通りであったか。何らかの力によって四神の司る方位が歪み、この世のあらゆる力の規則性を捻じ曲げたのじゃ。じゃから、春姫の陰陽師の力を以て、悪鬼さえもを倒せた。この時代において、我ら陰陽師が悪鬼を恐れる必要など、どこにもなかったわけじゃ。もちろん、ある程度の技量は必要だがな」

 初めて悪鬼と遭遇したとき、月麿も宵月夜も、悪鬼は絶対に関わってはならない、妖怪にも陰陽師にも対処のできない、無敵に近い存在として恐れていた。その考えは平安時代の常識を基盤としたものだったが、いつからか変わってしまった。

 原因は分からないが、この事実は、四季姫たちが深淵の悪鬼と対当に渡り合える核心に繋がった。

「つまり、昔よりも良い方向に力が歪んだわけどすな?」

「良いか悪いかは、何ともいえぬな。悪鬼に対して強くなった反面、どこかに致命的な弱点が生まれておる可能性もある。麿の知識だけでは、計り知れぬのじゃ」

 昔と理が変わったからには、四季姫達や月麿など、陰陽師側も悪鬼に弱みを握られるかもしれない危険を考慮しておかなければならない。

 まだ、色々と分からないことだらけだ。

「悪鬼についてはさておき。要するに、今までの理に則った方法では、いくら頑張っても、時渡りなどできないと分かったのでおじゃる」

「時渡りの新しいメカニズムを調べるには、まずは現代に作用している理の力から研究し直さなくちゃいけないんだよ」

 側から、語が補足した。奏から聞くには、語も月麿の研究を手伝っていたらしい。

「なので、ぜひ、お主たちの会得した力を調べさせてもらいたい。麿の考えが正しければ、特定の場所で四人同時に術を発動すれば、新たなる空間の歪みを生み出せるはずなのじゃが」

 月麿の推測を聞いた途端、榎の喉が詰まった。

「けど、まだ全員、禁術を覚えきれとらんで」

 柊がさらに、追い打ちをかける。月麿は大きく頷いて、榎に視線を向けた。

「分かっておる。榎よ! 全てはお主にかかっておる。一刻も早く禁術を会得するのじゃ!」

「できるもんなら、とっくにやってるよ!」

 さも簡単に言ってのける月麿に、榎は少し怒りを覚えた。

 ただでさえ一人だけ遅れをとって焦っているのに、さらにプレッシャーをかけられると、やる気が削がれて逆効果だ。

「麿はんも、見てくださいますか。榎はんの武器が、大変なんどす」

 ふて腐れる榎を横目に、楸が話を切り替えた。榎の背中から剣を外し、月麿に見せた。

「何じゃ、この剣の色は。呪われておるのではないのか!?」

 剣を見た月麿のは反応は、了海と全く同じだった。

「呪われているんだよ。変身を解いても、消えなくなっちゃったんだ」

「了海はんが仰るには、鬼閻に止めを刺した時に、邪気を受けたせいではないかと」

「悪鬼の呪いか……。もしかすると、この呪いのせいで、禁術を発動するために必要な力が発揮できずにおるのかもしれぬ」

 月麿が呟いた憶測に、榎は大きく反応した。

「つまり、要するに、この剣の呪いを解けば、あたしもパワーアップできる!? 必殺技を覚えられる!?」

 続いて月麿の胸倉を掴み、前後に揺すりまくった。

「可能性は、充分に、ある! じゃから、揺らすでない!」

「よかったぁー! あたし、駄目な子じゃなかったんだぁー!」

 榎は月麿を突き飛ばし、両手を振り上げて盛大に喜んだ。榎だけが禁術を覚えられない理由も、この剣の呪いが原因なら、納得がいく。同時に、ちゃんと禁術が覚えられる可能性が出てきて、大きな安堵に包まれた。

「喜ぶんは、まだ早いやろ。呪いは強うなっとるんやし、何の解決策もないんやから」

 端から柊に水を差され、榎の勢いも一気に衰える。

「どないしたら、呪いは解けるんでしょうなぁ?」

「悪鬼の呪いなど、初めて見る。命を絶たれると同時に、この世に遺した怨恨なのであろうが……」

 月麿も、途方にくれて唸っていた。

「やっぱり、麿ちゃんでも呪いについては分からないのね」

 悪鬼を倒した前例が陰陽師にない以上は、月麿からも名案は出てこなかった。

「色々と、面倒が重なるのう。時渡りの術の復活には、まだまだ時間が掛かりそうじゃ」

 残念そうに唸る月麿を見て、一番大きな反応を見せた者は、意外にも語だった。

「そんな! 京都に来たら、術がすぐに使えるようになると思っていたのに!」

 語は青褪めた顔で、月麿に食ってかかる。月麿は申し訳ない顔を向けた。

「語どの。すまぬが、すぐには無理じゃ。焦っても良い案は出ぬ故、しばし考えさせていただきたい」

 詫びる月麿を見つめる語の瞳は、絶望を映し出していた。

 いつも斜に構えて、余裕の表情を崩さない語が、こんなにも感情を乱すなんて。榎にはとても不思議だった。

「語は、時渡りのメカニズムの解明ができる時を、とても楽しみにしていて……」

 困惑する榎に、奏が脇から補足した。

「そうなのか。ごめんね、語くん。この剣の呪いが解ければ、きっとあたしも術を使えるはずだから、もう少し待っていて」

「待っていられる時間なんて、ないんだよ。役立たずが!」

 榎の言葉を振り切って、語は大声で怒鳴り、寺から走り去ってしまった。

「何やねん! 相変わらず、腹の立つ餓鬼やな」

 語の後ろ姿を睨みつけ、柊が苛立つ。

「なぜ、あないに術の成功を急いでおられるんどすか?」

「せや。あいつには、何の関係もあらへんやろうが」

「恐らく、研究の成果を兄に見てもらいたかったのだと思いますわ。新しい技術やエネルギーの正体を解明して、研究成果をお兄さまへのプレゼントにしたかったのでしょう」

 奏の話を耳にして、榎は大きく反応を示した。

「お兄さまって、綴さんですよね。プレゼントって?」

 尋ねると、奏は嬉しそうに微笑んできた。

「今月の末日は、綴お兄さまの誕生日なんですの」

 榎は驚いて、声を裏返らせた。

「綴さんの、お誕生日!? 本当ですか。何か、お祝いしなくちゃ」

 せっかくなのだから、日頃の感謝を伝えられるものがいい。榎は本気モードで考えはじめた。

 必死で考えを煮えたぎらせていると、奏が親切に耳打ちしてきた。

「お兄さま、犬がお好きなのよ。もちろん、本物は飼えませんけれど、犬にまつわるプレゼントなら、きっと喜んでくださいますわ」

 犬か。榎も飼った経験はないが、たまに散歩している犬を見かけると、可愛いと思う。榎の中で、プレゼントのイメージが固まった。

「ただ、誕生日当日は家族で内輪のお祝いをしますから、会えないと思いますの。渡すなら、早いほうがよろしいと思いますわ」

「貴重な情報、ありがとうございます!

 色々と教えてくれる奏に頭を下げ、榎は語が走っていった方角を見つめた。

「語くんも、語くんにしかできない方法で、綴さんを喜ばせたかったんですね」

「ええ。語は、お兄さまを、とても慕っていますから。口には出しませんけれど、お兄さまに褒めてもらいたかったのですわ。もちろん、普通に祝うだけで、お兄さまは喜んでくださいますけれど、語のプライドが許さないのでしょうね」

「気持ちは、分かるな。あたしも、綴さんに喜んでもらえたら、嬉しいもんね」

「同感ですわ」

 榎が禁術を覚えて月麿が時渡りの術を成功させれば、綴もその神秘の力を称賛してくれるだろう。

 語も、綴の感動する姿が見たいのだろう。榎も、ぜひ見てみたい。

 そんなときが訪れるために、早く問題を解決しなければならない。

 呪いに満ち溢れた剣を見つめ、榎の気持ちは複雑に焦った。

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