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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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第二章 伝記進展 5

分かりづらそうな方言について、説明書きをしておきます。


しとらんと→していないと

なんもせんと→なにもせずに

学ばんと→学ばなくては

ですもんなぁ→ですからねぇ

 翌日の、放課後。

 榎は白い着物と黒いはかまに身を包み、体育館で竹刀を振っていた。

 剣道部の新入部員は、五人と少なかった。二年と三年を合わせると、三十人弱。

 体育館で一列になって並び、全員で声を合わせて、何度も何度も面打ちの練習をおこなっていた。

「素振りやめ!! 今日の練習は終わり!」

 部長の声で、全員が動きを止め、整列した。

「「ありがとうございました!」」

 お辞儀して大きな声で挨拶。解散したあと、榎は汗だくになった顔を、タオルで丁寧に拭いていた。

「はー、今日も頑張った。腹減ったー」

 解散すると、部員たちは一目散に体育館を出て行った。誰もいなくなった剣道部の練習場所には、誰かがしまわずに放っていった竹刀や、使い古しのタオルなど、いろんなものが落ちていた。

「もう、みんな、だらしないなぁ。道具はちゃんと片付けなきゃ。汗の落ちた床も、綺麗に磨いてさぁ。名古屋の道場でこんな状態だったら、先生の雷が落ちてるよ」

 小学校の頃から、名古屋の厳しい剣道場でしごかれてきた榎には、信じられない光景だった。

 榎はブツブツ文句をいいながら、散らばった道具を片付けて掃除を始めた。

「水無月はん。精がでますなぁ」

 床を雑巾で拭いていると、急に横から声をかけられた。

 頭を上げると、体育館の足元にある、開け放たれた換気用の小さな出窓から、あまねのぞいていた。

「水無月はん、お世話好きどすなぁ。人の分まで、きちんとお片づけしやはって」

 周は感心して、綺麗に磨かれた体育館の床を眺めていた。褒められた榎は、照れ笑いした。

「散らかっていると、落ち着かなくってさ。委員長も、部活の帰り?」

「いいえ。私は図書室におりました。勉強するには、図書室が一番どす」

「図書室か。あたしには縁のない場所だな。委員長は、部活に入っていないの?」

 尋ねると、周は少し渋い顔をした。

「この学校、部活の数も少ないし、ほんまは、入りたくないんどすけど。何かの部活に所属しとらんと、内申点に響くらしいどす。なんもせんと、勉強に励みたいんどすけどなぁ」

「勉強家なんだね、委員長」

「勉強こそ、学生の一番のお仕事どす。よい高校へ進学するためにも、今からしっかり学ばんと」

「中学に入学したばっかりなのに、もう高校の進学を考えてるのか……」

 拳を握り締めて熱く語る周を見て、榎は感心するしかなかった。

「もちろんどす。で、受験のためにも内申は大事どすから、将来的な考えも踏まえて、私は活動の少ない福祉部に入っとりますんや」

「福祉部――なんてあったっけ? どんな活動するの?」

 ちょっと気になり、榎は身を乗り出した。

「月に数回、近所の病院にお邪魔して、入院されてる患者さんのお世話を手伝ったり、話し相手になるんどす」

「へええええ、患者さんのお世話かぁ」

 一瞬、榎は周の話に、とても惹かれた。

 病人の世話なんて、大変な仕事を軽んじるつもりはないが、本音では、何だか楽しそうだなと思った。

「興味がおありどすか?」

 榎の心中を察したらしく、周が微笑みかけてきた。

「水無月はん、お世話好きですもんなぁ。真面目やし、気立ても良さそうや。介護職とかボランティアとか、とっても向いてそうどす。よろしかったら、福祉部に体験入部してみまへんか?」

 勧められて、榎の心は大きく動いた。

 やってみたいと、かなり強く思った。だが、所属している剣道部の練習の大変さを思い出し、ちょっと留まった。

「あたし、剣道部に入ってるしなぁ。中学って、部活の兼部できたっけ? もし入れても、剣道部は忙しいから、あまり参加できないかもしれないし」

「福祉部は、ほとんどの部員が、他の部活と兼部しているどす。毎日は活動しまへんし、地域ぐるみのボランティア活動としても認められていますから、活動時には部活を休めたりと、融通が利きますえ」

 まるで、榎のために存在しているみたいな部だと、勝手に思って感動した。

「なるほど! 月に数回なら、無理なく参加できそうだね。試しに一度、体験してみようかな」

 榎が乗り気になると、周は嬉しそうに微笑んだ。

「決まりどすな。今週の金曜日、放課後に四季が丘病院へいくどす。先生には私から話しておきますから、一緒に行きまひょ」

「うん、いろいろありがとう。ちょっと楽しみ、かな」

「水無月はんなら、気に入ると思いますえ?」

 また、二人で笑いあった。

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