表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第二部 四季姫進化の巻
137/331

十一章Interval~悪鬼の居らぬ間に~

 深い深い、山の奥。

 巨大な、どすぐろい塊が、ゴロゴロと転がっていた。

「鬼蛇め、好き勝手しおって」

「息子の偏屈ぶりを見たら、鬼閻どのは、さぞ嘆かれたであろうな」

「ええい、腹立たしい! あの若造、どうやって懲らしめてやろうか」

「耳元で大声を出すな!」

「お前こそ、五月蝿いぞ!」

「側から離れられぬのだ、もっと仲良うせい」

 現代に生きる、十体の悪鬼たちは、鬼蛇の力で体を接合され、ろくに動けなくなっていた。

 生きる上での支障はない。だが、互いに馬の合わない連中同士、反発する性格は大きな枷となっていた。

「元の姿に戻らねば、何もできぬな」

「どうすれば、戻れるのだ」

「鬼蛇も知らぬ、と申しておった」

「無責任な。ああ、もどかしや、もどかしや」

 時が経てば、おのずと解放されるかもしれない。

 だが、いつまで待てばいいのか分からない。苛立ちだけがつのっていった。

「やむをえん。我らが動けぬのなら、動ける連中を使うしかない」

「上等の、妖怪どもか」

 悪鬼にとって、妖怪は最上のご馳走だ。妖力が強く、格が高いものほど美味であり、好物だった。

 だが、妖怪も強ければ強いほど、扱いが難しい。食おうと襲い掛かっても、下手をすれば、悪鬼といえども深手を負うか、相打ちになる可能性が高かった。

 それ故、悪鬼と上等妖怪たちとの間には、様々な条約が取り交わされていた。

 互いの領域を侵さぬと条件をつけ、牽制しあうもの。

 食わぬ代わりに恐怖を与えて忠誠を誓わせ、必要とあらば、悪鬼の命令に従って働くと約束させたもの。

 もちろん、妖怪ごときに大きな顔はさせない。歯向かうもの、敵対するものが現れれば、命懸けでも食らい尽くす。

 あくまで、悪鬼にとって有利な取り決めだった。

 今回は、悪鬼に忠実な態度を貫く、上等妖怪を手足代わりにして、鬼閻の仇討ちを遂行しようと決めた。

「我らと契りを交わした者共よ、我らの元へ集え!」

 悪鬼たちは念じる。深淵の力に屈する者たちを、力を送って呼び寄せた。


* * *

 悪鬼の呼びかけに応じ、強い妖気を秘めた者たちが、やってきた。

 目の前に並んだ妖怪は、いずれも名のある上等妖怪ばかり。

 だが、深淵の悪鬼たちは、不満に思う。

「たったの三匹か。舐められたものだ」

 悪鬼に忠誠を誓う上等妖怪は、もっとたくさんいたはずだ。

「上等妖怪は、互いの縄張りへの干渉を嫌う者が多い。遠く離れた場所で静かに暮らしておる故、呼びだすにも骨が折れる」

「身近にいた奴らが、飛んで来ただけか」

「良いではないか、上等妖怪には変わりない」

 やってきた上等妖怪は、いずれも縄張りにこだわらない、放浪型の妖怪だった。

 山々の清流を渡り歩いて自然を愛でる妖怪、小豆洗い。

 人間の迷いに付け込んで命を食らう、悟りの眷属妖怪、梵我ぼんが

 最後に、人間に取り憑いて長い時を生きてきた狐の妖怪、赤尾しゃくび

 いかにも、ふらりと放浪中に立ち寄っただけ、といった雰囲気の連中が集まった。

「旦那さん方、随分と、面白い格好になりましたなぁ」

 嫌味な狐顔を歪ませ、赤尾が笑った。

 五百年前に襲ったときには、赤い九本の尻尾を振って、すぐに降伏してきた軟弱者だ。

 以来、長らく下僕として扱ってきたが、未だに本性の読めない、食えぬ化け狐だった。

「鬼蛇に裏切られた。自由を奪われ、しばらく動けぬ」

「我らが長、鬼閻どのの仇を獲らねばならぬのだが、今は余裕がない」

「だからお前たちに、その役目を命ずる」

 悪鬼たちは、手早く事情を話した。

「悪鬼の長を葬るほどの相手を、倒せと申されますか」

 不安そうな顔を見せるは、梵我だ。

 相手の心を見破る力に長けた妖怪だから、下手に騙しはできない。

 だが、本気で圧力を掛けてやれば、扱いやすい妖怪だった。悪鬼たちの素直な殺気を受けて、誰よりも怯えているため、命令を与えやすい。

「鬼閻どのは、封印から放たれた直後で、弱っていた。別に相手が強かったわけではない。運が悪かったのだ」

「只の、陰陽師の小娘どもだ。お前たちでも充分に、倒せる」

「小娘さんかい。オラの娘と、仲良くしてくんねぇかな」

 のほほんと、小豆洗いが明後日の方角を眺めた。

 食っても腹の足しにならなさそうだから、放っている。見窄らしい妖怪だが、その力は未知数だ。

 こんな奴等で、大丈夫だろうか。悪鬼たちの中に、不安が広がった。

 役に立たないなら、さっさと食ってしまったほうがいい。上手い餌を食えば、悪鬼たちの復活も早まるかもしれない。

「皆様、ご安心くだされ! 必ずや、皆様のご期待に応えてみせましょう」

 悪鬼の考えを悟った梵我が、慌てて名乗りをあげた。

「ならば、早く行け。説明せずとも、お前なら標的が分かるな。必ず四季姫を倒せ」

 梵我は素早く、姿を消した。

「お前たちもだ。命令が聞けぬ場合はどうなるか、理解しておるな」

「もちろん、肝に銘じておりますよ」

 赤尾は小豆洗いを連れて、悪鬼の元から去っていった。


* * *

 人里の近くに降りて来た赤尾は、良い形の岩を見つけて飛び乗り、昼寝をはじめた。

「あんれ、お前さんは、悪鬼の旦那たちの言いつけを守らねえだか」

「梵我が行けば、あっし等の出番なんて、ないでしょう。あんな、ろくに動けない塊にビビッちゃって。真面目だねぇ、お前さんら」

 やる気のない狐を見ながら、小豆洗いは困った顔をした。

「旦那たちが元に戻ったときが、怖えからな。オラは、娘を守らなきゃいけねえ」

 平穏な生活を望む小豆洗いは、悪鬼たちの報復を恐れていた。

 面倒だから適当に媚を売って受け流しているだけの赤尾とは、何もかもが違う。

「まあ、妖怪にも事情はそれぞれだわな。あっしは、悪鬼のいぬ間に、のんびりしますかね」

 赤尾は大きく欠伸をした。

 何をするにしても、まずは様子見だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。よろしかったらクリックお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルも参加中。
目次ページ下部のバナーをクリックしていただけると嬉しいのですよ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ