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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第二部 四季姫進化の巻
128/331

第十一章 悪鬼奇襲 1

 一

『榎、久しぶりね。元気にしている?』

 受話器の向こう側から、母――梢の声が流れてくる。

「うん、元気だよ。いつも通り」

 榎は陽気に返事をした。梢は安心した息を吐く。

 以前、電話で話したときよりも、その口調に明るさと軽快さがあった。梢の機嫌が良い証拠だ。

『今日はね、嬉しい報告があるの。借金の形に入っていた水無月の家、やっと買い戻せたわよ』

 榎は驚きの声をあげた。

 名古屋を経って、五ヶ月。京都で目まぐるしい生活を送っていた榎にとっては、名古屋の実家がとても懐かしく感じた。

「じゃあ、みんな、家に帰ってきているんだね?」

『そうよ。久しぶりに、家族全員揃うのよ。もう、住む場所の心配もしなくて良いわ。二学期からなら、転校するにしてもキリがいいし。――名古屋へ、戻っていらっしゃい』

 梢の優しい声。榎は即座に、返事ができなかった。

 名古屋へ、帰る。

 初めて京都へ着た頃に、同じ報告を受けていたならば、きっと大喜びしただろう。

 でも今は、複雑な気持ちに襲われていた。

 京都で得た特別な出会い、特別な出来事。たくさん、たくさんあった。

 大事な思い出が、榎を京都に引き留めようとしていた。

 帰りたくない。榎の、正直な気持ちだった。

 だが、いつまでも如月家の家に居候をして、迷惑を掛けるわけにはいかない。まだ未成年だし、自分の家に帰って、家族と一緒に暮らすほうが、いいに決まっている。

 四季姫としての目的は果たした。

 鬼閻を倒し、世界の平和も守られた。

 だからもう、夏姫として京都で戦いを続ける意味は、ない。

 小さな声で、榎は肯定の返事をした。

「引越しや転校の段取りは進めておくからね。如月のお母さんと、代わってくれる?」

 梢はとんとん拍子に準備を進めていく。榎はいわれるがままに、桜に受話器を託した。

 階段の手前で立ち尽くしていると、背後から勢いよく背中を叩かれた。椿だ。

「えのちゃん! お電話、お家から?」

 相変わらず、テンションが高い。

 最後の戦いを終えてから、早一週間。椿は勝利の余韻に浸って、浮かれっぱなしだ。

 榎の沈んだ姿を見て、少しだけ椿は冷静さを取り戻した。

「どうしたの? 急に神妙になって」

「うん。……明日、みんなで会わないか? 連絡は、あたしからしておくから」

「いいけれど、どこで?」

「了封寺に。二人の様子を、見に行こうかなって」

 力を封じ込め、人間としての生活をスタートさせた、二人の兄弟。

 朝月夜と宵月夜の見舞いに行こうと決めた。

「賛成! 椿も気になるわ。ちゃんと、人間の生活に、馴染めているかしら」

 再び、椿のテンションが最高潮になった。

 何とかはぐらかせたと、安心した。

 椿にだけ報告するのも、気が引ける。どうせなら、全員に、一度で伝えてしまいたい。

 お世話になった嚥下家の人たちにも、――四季姫として一緒に戦ってきた、三人の仲間たちにも。

 別れを切り出すために、かなり勇気が必要だ。

 浮かれている椿とは裏腹に、榎の気持ちは冴えなかった。

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