表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
126/331

第十章 封印解除 6

 六

 翌日。榎は再び、病院を訪れた。

 昨日とは違い、すんなりと面会の許可が下りたので、安心した。

「綴さん、こんにちは」

 ベッドの側へ歩みより、挨拶をする。綴は閉じていた目を開けて、榎を見て微笑んだ。

「君が、僕の病室に入ってくる夢を見たよ。久しぶりに会った感じがしないな」

 眠っていたらしい。まだ調子が良くないのだろうか。

「お体、大丈夫ですか? 具合が悪いって聞きましたが」

「大袈裟に騒ぐほどでもないよ。昨日、来てくれたんだってね。心配をかけてごめんね」

 綴の優しげな表情を見ていると、体の不調は感じられなかった。

 逆に榎を気遣ってくれる綴の優しさに、榎の心は温かくなった。

「今日は、楽しいお話、たくさん持ってきました。聞いてもらえますか?」

「喜んで」

 榎と綴は微笑みあった。榎は、以前、綴と別れてから昨日までの出来事を、包み隠さず話した。

 メモを録りながら話を聞いていた綴だったが、萩との壮絶な戦い、白神石に封じられた悪鬼の真相、伝師一族の闇を聞くと共に、表情を歪めていった。

「相変わらず、無茶するね、君たちは……」

 鬼閻に立ち向かっていった榎の話を受けて、綴は頭を抱えていた。

「今回の一連の出来事、伝師一族がとても迷惑をかけた。一族の末端の人間として、君たちに詫びなければならない」

 綴は居住まいを正して、榎に頭を下げた。

「本当に、申し訳なかった。やっぱり僕は、君を止めるべきだったんだ」

 榎たちを危険な目に遭わせた責任を感じる、綴の後悔が伝わってきた。

「あたしは、あたしの意志で、四季姫としての使命に挑んだんです。誰かに無理矢理、強制されたわけじゃない。誰も悪くないんです」

 榎は綴に責任があるなんて、思わない。

 今の時代に、責任を負わなくてはならない人間なんて、きっといない。

 語も言っていた。千年も前の罪なんて、とっくに時効だと。

「今まで綴さんにしてきたお話は、あたし一人の物語ではありません。皆で、紡いできた物語です。もちろん、綴さんも一緒に」

 綴の瞳をまっすぐに見つめ、榎は最大の感謝を伝えた。

「だからあたしは、後悔なんて一つもしていませんよ。綴さんや、みんなと出会えるきっかけを作ってくれた、この運命に、感謝しています」

 黙って榎の話を聞いていた綴の顔に、血が通った。

「僕も、君に会えて本当に良かった。晴らしい物語をありがとう、榎ちゃん」

 綴の笑顔が、眩しい。嬉しい。暖かい。

 榎も顔が熱くなり、気持ちが、急激に高まった。

「綴さん!」

「何だい?」

 落ち着いた声を聴いた瞬間、榎の気持ちの昂ぶりも、急激に静まった。

「……いえ、やっぱり、何でもないです」

「気になるな。どうしたの?」

 榎の心の波が激しい。穏やかに、鎮めないと。

 気持ちを持ち直し、榎は尋ねた。

「……夢の中で、あたしの姿を見ているとき、あたしの心の中の声は、聞こえますか?」

「流石に、人の心の声までは、聞こえないよ」

「本当ですか。よかった」

 綴は、不思議そうにしていた。

 榎は安心して、笑った。

 綴も、首を軽く傾けて、笑い返してくれた。

 夢でも分からないなら、大丈夫だ。心の中でなら、いつでも、心置きなく言える。

 ――綴さん、大好き。

 まだ今は、面と向かって伝える勇気はない。

 でも、いつか。もっと、強くなれたら。

「また今度、お話しますね」

「待っているよ、いつまでも」

 綴は、優しく微笑んでくれた。

 榎の心の封印解除は、まだ少し、お預けだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。よろしかったらクリックお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルも参加中。
目次ページ下部のバナーをクリックしていただけると嬉しいのですよ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ