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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
122/331

第十章 封印解除 2

 山中の庵の前。

 榎たち四人は既に揃い、神経を研ぎ澄ませていた。

 脇には燕下家の二人――了海と了生、さらに白神石を大事に腕に抱いた、宵月夜の姿もあった。

「遅くなってすみません、皆さん」

 昼前。一番最後に、奏がやってきた。

 榎たちは総出で、奏を出迎えた。

 奏の側には、生気なく項垂うなだれる月麿がいた。榎たちとは、目を合わせようともしない。

 さらに、月麿の隣には見馴れない少年が立っていた。

 榎は、その幼い少年を、名古屋にいる小学二年生の弟――楓の姿と重ねた。きっと、同じくらいの歳だ。

 なぜ、小さな子供が、奏たちと一緒にやってきたのだろう。

 不思議に思っていると、少年がにっこり、笑いかけてきた。

「始めまして、四季姫のお姉ちゃんたち。僕はね、伝師 かたりっていうんだ」

 少年――語は、無邪気な笑顔を見せる。

 伝師、というからには、一族と関係のある子供なのだろう。

「私たち兄弟の、末の弟ですの」

 脇から、奏が補足した。

 奏と綴の、弟。いわれてみると、どことなく笑顔の雰囲気に、綴たちの面影がある。

 榎は一歩、前に出て、語と向き合った。

「初めまして、語くん。水無月榎です」

「お姉ちゃん、だよね? お兄ちゃんでは、ないんだよね?」

 首を傾けて、語はストレートに疑問をぶつけてくる。

 このやりとりは、久しぶりだった。やっぱり制服を着ていないと、榎は男に見えるらしい。

「よく、いわれるけどね……。いちおう、お姉ちゃんでよろしく」

 正直な子供に説教を垂れるわけにもいかない。榎は口の端を引き攣らせながらも、ぎこちなく笑って大人の対応をした。

おさには、先日の一件、すべて報告いたしました。長きに渡る、伝師の闇の歴史を終息させるべきだと、打診もさせていただきましたわ」

 奏がゆっくりと、話の経緯を語った。奏は、榎たち四季姫のために、長の説得にあたってくれていた。

「長の、返答は……?」

 緊張して、尋ねる。奏は目を伏せた。

「長も、強大すぎる力の扱いにおいては、改めるべきだと、お考えでした。かといって、現在の伝師の力では、鬼閻を制御しようにも力不足。四季姫の皆様の意志を尊重し、未来永劫の平和のため、鬼閻の始末をお願いしたい、とのお言葉でした」

 奏から伝えられた長の言葉を受け、榎たちは軽く息を吐いた。

 榎たちの決断に、伝師一族は不満を持ってはいないらしい。

「マニュアルどおりの台詞、って感じね」

「そんな簡単な、お言葉だけかい。人の命を奪おうとしといて、詫びもないんか」

 椿と柊は、不満そうだ。あまりにも淡泊な指示に、口々に文句を述べる。

「千年前の案件なんて、とっくに時効だよ。法律もろくに定まっていなかった時代の問題だもの。弁護の余地もないし、証拠もない。法廷で争ったって、お姉ちゃんたちの敗訴だよ」

 語が笑って対応した。小学生とは思えない言葉の選び方だ。榎は唖然とする。

 柊は「知るかい」と、子供相手でもお構いなしに、睨みを効かせた。

「気持ちの問題、の話をしとるんや。機械みたいな餓鬼やな。こんな訳の分からん子供を代理に寄越よこしてくる時点で、誠意も何にも感じへんわ」

「本当なら、長がこの場に来て、立ち会うべきなんだけれどね。長はとても忙しくて、外に出られないんだ。だから代わりに、僕がお姉ちゃんたちの封印解除の見届け人になるよ」

 柊の吐く毒にも臆さず、語は楽しげに話を続けた。

「君が? 誰か他に、大人はいないの?」

 驚いて尋ねるが、語は堂々として、余裕のある表情を崩さなかった。

「たかが基礎的な一般教養を身につけて、成人しただけの人間なんて、役に立たないよ。長に、ありのままを正確に伝える役目なんて、誰にも果たせないんだから」

 澄ました表情で、語は自身の目尻に指を当てた。

「僕のお目めはね、長と繋がっているんだ。だから、僕が見たものは全て、長の目にも届くんだよ」

「人間カメラみたいなもんかいな? そんなもん、機械で代用できそうやけどな」

「無理ですの。妖怪や、皆さんの陰陽師の力は、瞬間的に磁場を狂わせる作用があるのです。詳しくは解明できていませんが、変身した皆さんの側では、精密機械は使い物になりません」

 奏の説明を聞き、柊は微妙そうな顔をしながらも、納得していた。

「語くんは凄いんだね。あたしにも、君くらいの歳の弟がいるけれど、君ほどしっかりしていないよ」

「当たり前だよ。僕は、伝師の家で最高の英才教育を受けているんだから。同じ歳で、僕より優れた子供なんて、いたら大変だよ」

 榎の精一杯の賛辞を一蹴して、語は笑った。

「じゃあ、僕は側で大人しく見ているから。せいぜい、悪鬼に食べられないように頑張ってね、お姉ちゃんたち」

 語は榎たちに手を振り、庵の側の石に腰掛けた。奏は申し訳なさそうに、榎たちに軽く会釈した。

 長からの命令を受けてやって来た以上、弟といえども、語は奏よりも、何らかの強い権力を持っているのだろう。礼儀がなっていないとわかっていても、強く発言できない様子だった。

「腹の立つ餓鬼やわ。うちらでは悪鬼に勝たれへんと、決め付けとる目や」

 語の立場なんてお構いなしに、柊は舌を打って悪態をつく。

「子供っちゅうのは、とかく夢見がちどすし、物事が何でも思い通りになると、信じて疑いまへん。思いっきり、期待を裏切ってやればええだけの話どす」

 楸も柊の意見に賛同しつつ、語を貶して、その場の空気を収めていた。

「尚、封印解除の儀式に関して、式の進行は最も経験に長けた、陰陽月麿に一任します。陰陽月麿は、封印解除の儀式の完遂を条件に、千年前より命じし任を解き、自由になるものとします。皆さん、封印を解くまでの所作は、月麿の指示に従ってください」

 奏が注意を促す。榎たちの視線が、広場の隅で小さくなっていた月麿に注がれた。

 月麿は広場の中央に歩いてきて、手頃な枝を拾い、地面に何かを描きはじめた。

 一筆書きで描く、星。五芒星、というやつだ。さらに、その星を円で囲い、複雑な梵字を周囲に描きはじめた。

「……なぜ、逃げなんだ。なぜ、拒まなかった。お主たちは、己の意思で、四季姫の使命を放棄できたはずでおじゃる」

 陣を描きながら、榎の側を通り過ぎる際、月麿は口を開いた。

 榎たちの決定に、不満を持っていた。

 だが、榎は臆さない。悪びれもしない。

「封印を解いて、悪鬼へ立ち向かう道も、あたしたちの意思で選んだ道だ。麿にとっても、望んでいた結果じゃないのか?」

「今更、足掻いても無駄でおじゃる。麿は一度、失敗したのじゃ。弁明の余地などない。些細な失態であろうとも、紬姫が、かような麿を快く許してくれるとは思えぬ」

 月麿は今もまだ、紬姫の命令に縛られていた。

 本当は、わかっているはずなのに。今や紬姫は、この世のどこにもいない。

 今更、命令を守れなかったからといって、責めるものなど、誰もいないのに。

 月麿は自ら、呪縛の檻の中に閉じこもって、過去の亡霊に取り憑かれていた。

「麿は、紬姫の言いつけを破っていない。あたしたちは紬姫の望みどおり、白神石の封印を解くんだ。その結果、あたしたちがどうなったとしても、紬姫の意にそぐわなかったとしても、麿のせいにはならないよ」

 屁理屈でも何でもいいから、月麿の行動を正当化してあげたかった。

 榎の返答に、月麿は怒りを見せた。

「麿を馬鹿にしておるのか! もう、麿も諦めがついておった。お前たちの命と引き換えに使命を果たしたところで、後悔しか残らぬと、納得したからの。せめて、お前たちの命を救えただけでも由としようと、納得しかけておったのに。なぜまた、危険な手段に……」

 月麿は、榎が思っているほど、伝師の使命に縛られてはいないのかもしれない。憎まれ口を叩きながらも、榎たちの身を案じてくれていた。

 榎には、月麿の態度が嬉しかった。だから、榎たちの想いも、分かってもらいたかった。

「別に、麿を馬鹿になんかしていなし、死ぬつもりもない。全部、万全の状態で解決するって、みんなで決めたんだ」

 榎たちの決意。しっかりと、月麿に伝えた。

「お主らは、本当に目茶苦茶じゃ。もし、悪鬼が倒せなかった時にどうするか、何も考えておらんのか!?」

 月麿は手を止めて、榎の顔を凝視する。その表情は、悲痛に歪んでいた。

「悪い考えに縛られていたら、成功するものも失敗するよ。何度も言っているだろう? もう少し、四季姫のあたしたちを、信じてよ」

 笑いかけると、月麿は泣きそうな顔を逸らした。

 両手で印を結び、呪文を唱えはじめる。地面に描いた五芒星が光り輝きはじめた。円陣の中が光に包まれて、大きな柱となって天まで伸びた。

「……では、今より、封印解除の儀を執り行う。封印解除後、この陣の中は封印石内の異空間と繋がり、非常に不安定な場所となる。四季姫の制御なく、何人たりとも、足を踏み入れてはならぬぞ。万が一、入り込んで消滅しても、麿は責任を取らぬ!」

 準備は整った。月麿の言葉を合図に、榎たちは気合いを入れる。

「準備はよいな、四季姫。変身して、円陣の光を囲め。中心に向かい合い、精神を集中させよ」

 月麿の指示に、榎たちは大きく頷いた。

「この場が、最大の気張りどころどすな」

「おっしゃあ! 気合入れていくでぇ!」

「やっと、会えるのね。朝月夜さま……。待っててね、もう少しだから」

「決着をつけるぞ。絶対に勝つ!」

 声を張り上げ、榎は百合の髪飾りを、頭上にかざした。

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