八章Interval~命懸けの戦い~
朝。
綴は浅い眠りの中で、夢幻の世界に落ちていた。
榎が挑む、四季姫としての大きな使命。
今、夢の中で、榎は戦っていた。
凶暴な攻撃を仕掛ける、獰猛な秋姫の姿。必死で攻撃を受け止めながら、反撃の機会を窺う、夏姫の懸命な姿。
客観的に見ているだけでも、明らかに残酷な結果が見えた。
榎は勝てない。あまりにも、力の差がありすぎる。
秋姫は強すぎる。当然だ。秋姫は、強くあるために、あの姿で存在している。
だが、榎に向けていい力ではない。榎を潰すための力では、決してないはずだ。
分かっていても、今の秋姫を止められるものなど、誰もいない。
綴は魘されていた。今、現実に起こっている出来事が、悪夢として綴を襲い、蝕んでいる。
夏姫の髪飾りが、破壊された。
あの髪飾りがなければ、榎は夏姫の力を操れない。
負ける。
負けるだけでは済まない。無抵抗となった榎を、最早、秋姫は逃さない。
自然と、綴の腕に力が篭った。
綴は、遠くにいる誰かの〝今〟を、夢に見る。
普段はただ傍観するだけだが、必要なときには干渉もできる。
夢と現の境界を破壊し、現実世界を歪める力を持っている。
本来なら、使ってはならない禁忌の力だ。
余程の危機でも訪れない限りは。
だが、今が綴にとってはその時だった。
あの少女を――榎を救うためならば、躊躇う必要などない。
綴は夢の奥へと念を送り、現実へと干渉した。
榎が心の内から放とうとする、秘めた力の解放に、助力を加える。
榎の力を封じる扉が、開いた。
周囲に分散していた、夏の力が、榎の下へと一斉に集中していく。
「大丈夫だ、君の力に、限界はない――」
吐き出す息と一緒に、声にならない言葉を吐いた。
直後。
榎は制御なく、再び夏姫の力を手に入れた。
綴の中に、安堵が広がる。
同時に、綴は激しく咳き込んだ。
肺が壊れそうなほど、器官の中で何かが暴れる。
その衝撃と反動で、綴は飛び起きた。
咳はしばらく続き、綴は呼吸もままならない状況で、水中で溺れた感覚にも似た苦しみに耐えた。
やがて治まった。ナースコールを押すほど、限界には達しなかった。
影響は小さい。安心した。
「また、寿命が縮んだかな……」
夢の中から現実に干渉する力は、使用者の命を削る。
ただでさえ、長くない命だろうに。奏に知れたら、また大目玉を食らう。
だが、かけがえのないものを守ったのだから。今まで、持っていても何の意味も見出せなかった命だ。
一年や二年、消え去ったところで何の後悔もない。
綴は、心から満足していた。
夢から覚めてしまったから、榎の戦いの決着は、分からない。
だが、確実に分かっていた。
必ず、勝利を手にしていると。




